12.饅頭と噂話
いつだったか偶然入手して、何かに使えるかもしれないと隠していたものだった。仕事道具一式を持ち去った準一も、此処には手をいれなかったらしい。
もしこの存在がわかったら、大目玉では済まないだろうと青也は考え、そして怒られる様子を想像して身震いする。
足が痺れるまで正座させられて、グチグチ怒られるなんて堪ったものではない。
準一だけならまだしも、そこに叔父まで加わった日には、精神の残機が一気に減る。
「まぁバレなきゃいいだけなんだけどな」
床の上に見取り図を広げると、携帯端末を取り出した。内部のカメラ機能を起動し、見取り図を一枚ずつ撮っていく。
何度か撮り直しながらも、全ての見取り図を撮ることに成功すると、青也は満足げにそれを見返した。使うかどうかは別問題として、備えがあるに越したことはない。
見取り図を元の場所に戻したと同時に、部屋の外から声をかけられた。
「青也様」
「なんだよ」
ラックのすぐ横、屋敷の内廊下に繋がる襖が開く。顔を出した準一は先ほどよりは穏やかな表情をしていた。
「薔吾様に頂いたお饅頭がありますが、食べますか?」
「食べる。粒あん?」
「青也様へと持って来たので、勿論粒あんでしょうね」
準一についていくと、いつも食事を取る和室に、饅頭が積み上げられていた。
木で出来たテーブルの上にピラミッド状に置かれた饅頭は、薄皮の向こうに餡子が見えて、一種神々しい。
「やった。後でお礼言わないと」
「いつも頂いてばかりですから、今度はこちらから何かお返ししませんと」
「いただきまーす」
伸ばしかけた手は、しかし準一に軽く叩かれて宙を掴む。
「手を洗ってきてからですよ」
「いちいち細けぇんだよ」
手を洗ってから再び戻り、無事に饅頭にありつけた青也は、幸せそうにそれを頬張った。
「美味しいですか」
「うん」
「私も一つ頂きます」
青也の向かいに座った準一は、体躯と同じように大きな手で饅頭を掴み取る。
「そういやお前、今日は本部行かなかったのか?」
「今日は特に仕事がなかったので」
「暇だもんな、お前のところ」
有力な流派は本部にも何人か門下生を、あるいは統帥の一族を置いている。だが裏青蓮院流からはたった一人、内海準一しか本部に派遣していない。
「忙しいところに変えたら?刑務局とかさ」
「私にはあそこが分相応です」
「最近、面白い話ねぇの?」
「別にないですね。風邪が流行っていることを面白いと取るのは人道に反していますし」
「風邪ぇ? 夏だぞ、今」
「経理局で風邪が流行っているようです。まぁあそこは締め切っていますからね。誰かが風邪を引いたら、周りにも感染してしまうのでしょう」
「局長とかは?」
「最初に風邪を引いたのが経理局長で、一週間ぐらい休んでいますよ」
「ふーん……」
青也は饅頭を飲み込みながら、今の話を頭の中で繰り返していた。
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