8.ロビーでの密談

 妖魔士は流派に所属するのとは別に、妖魔士連盟に個人として登録される。


 一般人と違う強大な力を持つ妖魔士は、妖魔士の中での規律を守る必要があり、それは流派によって揺らぎがあってはならない。


 そのために作られたのが妖魔士連盟であり、東都に本部を構える他、地方にも支部が存在する。


 本部は東都の一等地にあり、地下二階地上十五階の堂々たる造りをしている。十二年前に建てられたものだが、洗練されたデザインと機能性は高く評価されていた。


「此処にマシラが出るって?」


 本部ビルの一階ロビーで、青也は傍らの郁乃に問いかけた。


 ビルの一階と二階は一般の妖魔士が自由に出入り出来るようになっており、各種手続きを行うための場所になっている。それ以外の場所は手続きをしないと踏み入ることは出来ない。


 内部で働くのは各流派の妖魔士であり、そこには流派も地位も関係ないとされているが、有力な流派の人間は、重要度の高い役職に就くことが多い。


 他の妖魔士達も多くいる中で、黒装束を脱ぎ捨てた郁乃は小さく頷く。

 ゆったりとしたシルエットの白いカットソーに、淡いピンク色のカーディガン、そして黒いロングスカートを履いているため、傍目には完全に女性に見える。


 最近買ったばかりのお気に入りのスカートを軽く摘まんで、郁乃は嬉しそうに話しかける。


「それより、俺の今日のスカート可愛くない?」

「何処に出るんだ?」

「俺の美しさを直視出来ないのはわかるけど、相槌くらい打ってよ」


 青也は面倒そうに、郁乃の頭から足の先まで眺めまわす。

 それからしみじみとした口調で感想を述べた。


「お前、やっぱり俺より肩幅広いな」


 郁乃は頬を引きつらせ、思い切り青也の背中を叩いた。

 思わず咳き込んだ青也を、周囲が一瞬だけ見るが、痴話喧嘩の類だと判断して即座に興味を失う。


「そういうこと言わないでよ」

「だって事実だろ?」


 女装をする時に郁乃がゆったりとした服を好むのは、その方が女性的だというのもあるが、一番の理由は体格を隠すためでもある。


 身長は一六五センチメートルと小さいが、体格はしっかりとしている郁乃にとって、ボディラインが出る服は避けなければならないものだった。


 青也のほうが五センチ以上背は高いが、撫で肩で筋肉のつきにくい体質のために、総合的には郁乃のほうが男らしい体つきをしている。


 因みに腕力も郁乃のほうが上であるため、今しがたの一撃は内臓まで衝撃が届いていた。


「いてぇな」

「青也が俺のことを邪険にした時に感じる心の痛みを表現したの」

「そうか、致命傷までまだ余裕があるな」

「致命傷は目指さないで、お願い」

「で、何処に出るんだよ」


 郁乃はその問いに対して、少し悩む姿勢を見せる。


「それを調べたいんだよね」

「意味わからん。俺にわかるように言え」

「……父様に頼まれたんだ」

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