7.マシラ退治の誘い

「痛いよぉ、青也の馬鹿! 俺の美しい顔に痕がついたらどうしてくれるのさ!」

「記念撮影」

「まさかの!?」

「というか美しい顔って自分で言うなよ、ナルシスト」

「本当のことを言って何が悪いの?」


 整った輪郭と大きな瞳、通った鼻筋。フードを脱いだ拍子に頬にかかった長い髪は染めてあるが、枝毛一つない艶やかなものだった。


 誰が見ても絶世の美少女だと言う造形であるが、実際には青也と同じ男であり、年齢も同じである。


「まぁ仕方ないね。青也は野良カラスだから、俺みたいにキラキラした美しいものを掴みたくなるんでしょう?許してあげる」


 得意げな口調で言って口角を上げる相手に、青也は面倒そうに視線を向けた。


「今度は両方の目玉と口を掴んでやろうか?用件を言えって言ってるんだよ」

「メールしたじゃん」

「見てねぇよ、てめぇのメールなんか」

「なんで!」

「夜中の二時に送ってきたからイラッとした」

「だからいつまで経っても未読だったんだ……」


 今にも泣きだしそうな相手は無視して、青也は携帯端末をジーンズのポケットから取り出した。


 何度も落としているので外側の塗装が殆ど剥がれているが、一応動作は問題ない。


 メールボックスを開くと、未読メールが一つ残っていた。

 そこには「朱本郁乃シモト イクノと相手の名前が表示されている。中を確認した青也は、小さく眉を寄せた。


「何だこりゃ」

「書いてある通りだよ。俺の仕事のお手伝いして欲しいんだ」


 郁乃は微笑みながらそう言った。その笑みは事情を知らない男が見たら、一瞬で恋に落ちてもおかしくないような出来栄えだったが、青也はくだらないとばかりに鼻で笑う。


 十二年来の親友でもあり悪友でもある顔に今更狼狽えるほど、青也はお人よしではなかった。


「何で俺が暗殺妖魔士の手伝いなんかしなきゃいけねぇんだよ」

「この前、助けてあげたじゃん」

「頼んでねぇ。それに俺は正義の味方だぞ。暗殺妖魔士の仕事なんか出来るか」

「勘違いしないでよ。別に要人暗殺を手伝えとか言ってるわけじゃないんだよ。区分的には正義の味方にぴったりの仕事かもよ?」


 郁乃はブーツを抱えたまま畳の上に座り込んだ。


 青也も向かいあうように腰を下ろし、ブーツはないので蛇の妖魔を抱え込む。


「ぴったりの仕事って?」

「勿論、マシラ退治だよ」

「あぁ?」


 青也は益々胡散臭い思いで相手を見る。だが郁乃の表情は変わらない。


「何処のマシラだよ」

「武蔵國のマシラに決まってるじゃん」

「なんでお前がそんなことのために来るんだ?」

「マシラが発生している場所の問題、かな」

「場所? どこだよ」


 郁乃は口角を緩く吊り上げて、とっておきの秘密を話す子供のような表情になった。そして青也を手招きして近づけると、小さい声で囁いた。


妖魔士連盟本部ヨウマシレンメイホンブ

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