3.世話役のお説教
歴史が長いだけに妖魔士には色々な法律やら組織やらが絡む。青也がいくつかの肩書を持っているのもそのせいであるが、本人には殆ど何の権力もない。
強いて言えば裏青蓮院流に簡単な指令を下すことぐらいだが、それとて発令したことがなかった。
だから青也としては、家に帰るなり門下生に叱責を受けるのも、多少は仕方のないことだと思っていた。
「何故ビルから飛び降りたんですか」
スーツ姿の長身の男は苛立った口調で問い詰める。
青也は自分の部屋で正座したまま、視線を宙に彷徨わせて考え込んでいたが、やがて答えが見つかると明るい声を出した。
「誤解がある」
「何ですか」
「飛び降りたわけじゃない、飛び出したら落ちたんだ」
「同じですね。聞きたいのは手段ではなく目的です」
「マシラ見えたけど、いちいち下に降りて行ったら時間かかるし、だったら落ちたほうが早いだろ?」
「それで怪我でもしたらどうするつもりですか!」
「病院近いぜ、あそこ」
裏青蓮院流の幹部である
三十を越えたばかりにしては、その仕草は老練がかっていた。
「会話をしてくれませんか、青也様」
「してるだろ」
「私は怪我を心配しているんじゃありません」
「え、でもさっき」
「貴方の後先考えない行動を諫めたかっただけで、怪我が本題ではないんです!」
「じゃあそう言えよ」
「言わなくても通じるようになってください」
無茶を言うな、と青也は言いかけたが我慢をした。周囲の大人は青也のことを、話の理解出来ない野生動物だと言うが、本人に言わせれば大人が妙に回りくどく話すのも一因である。
「私は先代から貴方のことをよくよく頼むと言われているんです。貴方が大人しく統帥としての責務を果たしてくださるなら、私だってこんなことは言いません」
「だって、俺が大人しく此処で書類作ったりさ、門下生たちのために仕事割り振ったりしてる間にもマシラが生まれてるわけだろ?なんでそれを倒しに行ったらいけねぇの?」
「貴方が統帥だからです」
準一はにべもなく言い切った。先々代、青也の父親の一番弟子であった準一は裏青蓮院への忠義をモットーとしており、青也への執着が強い。
青也を、先祖たちに負けぬ立派な統帥にしようと骨身を削っているが、今のところそれが実った試しはなかった。
「統帥としての自覚が青也様には無いのですか」
「自覚はあるって」
「ないでしょう。あったらこんなことはしません」
大仰な溜息が青也の頭上から響き渡る。
「統帥の自覚がなくても結構ですから、せめて大人しくしていて貰えませんか。この前、貴方が大通りでマシラを倒すために道路を粉砕したことだって、各方面に頭を下げて回ったのは私なんですよ」
「だってあれはマシラが首都高に突っ込もうとしたから」
「独断で動かないようにとお願いしているはずです。そういう場合は誰かを呼ぶように言っているでしょう」
「待ってるうちに誰か死んだらどうするんだよ」
「そもそもあの一帯は、裏青蓮院の管轄ではありません」
流派毎に、管轄区域は決まっており、緊急時を除いては他流派の管轄で妖魔士として動くことは禁止とは言わないまでも自重する方針にある。
青也は東都で起きた事件は、管轄も状況も考えずに独断専行してしまう癖があり、それが準一を悩ませていた。
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