第27話「祖銀の魔女と呼ばれた魔法処女」
ベリアルを
その深い
「消え失せろっ、
ユイから迸る
その瞬間、操は自分の中でミレーニャが叫ぶ声を聴いた。
長い
そして、ユイの両手から光が
燃え盛る
その時、目の前で身体を開いて受け止める影が消し飛んだ。
「レヴィールッ!」
『レヴィール様っ!』
操とミレーニャ、二人の声が連なり叫ばれる。
閃光と爆炎に飲み込まれてゆく世界が、二人の視界を真っ白に染めた。
そして……ようやく視覚が戻ってきた時、目の前に無残な姿が浮いていた。
恐るべき業火を全て受け止め、レヴィールはそれでもまだ浮いていた。その全身を
見下ろす天空のユイが、面白そうに顔を歪める。
「
その力は、全てが
火属性の象素以外、全て。
風は雷を呼び、水は氷を結んで、地は樹を育む。
だが、火は炎、単純な破壊の力でしかないのだ。
しかし、ユイはその自分が持つ属性を極限まで高めた……
「この技にはまだ、名前がありません……そして、見せるのはお母さんが初めてです。かつてお母さんが従えた、ベリアルの力……それを使いこなす、わたしの力! 究極の技!」
今にも落ちそうなレヴィールを、すぐに操は近付いて支えた。
抱き寄せた全身が熱い。
そしてもう、レヴィールの呼吸も鼓動も小さく細くなってゆく。
だが、その時……操は、見た。
レヴィールは絶体絶命の中で、笑っていた。
見上げる
だが、レヴィールは正気、そして冷静だった。
「これは……やるではないか、ユイッ! お
「なっ……負け惜しみを! お母さん、
「なに、素直に感心しておる。よくぞそこまで己を高めた。並大抵の努力ではあるまい? それに、ベリアルもまたお主の力を認め、ワシの重魂だった頃と同等の力を絞り出しておる。じゃが」
「お母さんっ! 減らず口を……今すぐトドメッ! 焼き尽くして上げますっ!」
再びユイの周囲に紫の
だが、レヴィールは腰を抱く操と、その中のミレーニャを一度だけ振り返った。
そして、操は彼女のささやきに耳を疑う。
真っ先に声を発したのは、ミレーニャだった。
『そんな……レヴィール様、前例がありません!』
「そうじゃ、しかしのう。操という重魂が
『……わかりました、レヴィール様。でも、ユイ様のあの尋常ならざる炎』
「なに、あれはな……ふふ、ふははははっ! 思い出してもまだ、笑いが止まらぬぞ!」
そして、レヴィールは操の手を握る。
驚いたが、内なるミレーニャの声に従い、操はその手を握り返した。
今、三人の心が一つになった気がした。
絶体絶命のピンチが、なにも怖くない。
少女の身体になった操の中で、レヴィールの言葉がしっかりと燃えていた。
そして、レヴィール自身は愉快そうにユイを指差す。
「ユイ……先程言うたな? その技に名前がないと」
「ええ! これは、これだけは! わたしのオリジナルの魔法……対となる陰陽を持たぬ、火属性の魔法処女だからこそ使える、切り札!」
「それをお主は、自分一人で……たった
「わたしには誰もいなかった! 全部、全部っ、お母さんが持っていたから! 持って行っちゃったから! わたしは……わたしは、
だが、レヴィールの言葉がユイを黙らせる。
「な、なにを……今、なんと?」
「じゃから、二度も言わすでない。その技には……名前がある。 なにせ、ワシが編み出したものじゃからな」
「……そ、そんな! 嘘だ! ベリアルはそんなこと一度も。お母さん、貴女だって一度もそんな力を見せなかった! どんな大きな戦争でも、一度も!」
「そう、故に切り札……ユイ、聞くがよい! そして知れっ! 魔法処女が命を
そっとレヴィールは、操の手を自分の胸へと運ぶ。
鼓動を直接
そして、レヴィールは先程言った通り……前例のない行動に出た。
「覚悟せよ……そして、教えてやろうぞ! その技……火属性の象素だけが持つ、
――超越焔。
それは、火属性の魔法処女、その中でも限られた高レベルの者だけが到達する境地。
全てを
相手の属性を無視し、星々が
そして、それを既にレヴィールは体得していたのである。その上で、彼女は一度も使わなかった。長らく戦いを共にしたベリアルでさえ、知らなかった技……それが、超越焔である。
そして、レヴィールは全てを操に預けて叫ぶ。
前代未聞の戦いが始まろうとしていた。
「教育してやろう、ユイ……なにゆえワシが、祖銀の魔女と呼ばれておるかを!」
「くっ! なにを……なっ、なんだ!? ベリアル、お母さんはなにを――」
ユイの悲鳴にも似た絶叫が遠ざかる。
今……操はミレーニャと融合したまま、さらにレヴィールと再融合した。
一人の重魂に、複数の魔法処女……それは本来、想定されていない
だが、操は違う。
魔法処女の
自分の中にレヴィールとミレーニャを感じて、その全身から
「ユイさん、終わりにしましょう……もう、戦う必要なんてないです! 僕の中で、レヴィールもミレーニャさんも言ってます。やめましょう!」
「寝言をっ! ベリアル、もっとだ……わたしの蒼に、貴様の紅をもっと!」
「……やるしかないのか、ならっ!」
操は以前から不思議だった。
ユイ達通常の魔法処女は、重魂を得ることで融合し、召喚した強者の力や身体的特徴をその身に招く。魔力の最大値は跳ね上がり、シングル・ナンバーズともなれば一瞬で国を焼いて地図から消し去る程だ。
だが、
操と融合した魔法処女達は皆、彼を美しき破壊の
使役されるために呼び出されたのではない……レヴィールが負けるために召喚した、あらゆる面で最弱の重魂。だからこそ、そんな操の意思を認めてくれる者が融合すれば、魔法処女と重魂の立場はひっくり返るのだ。
「幕を引きましょう、お母さんっ! これから貴女を倒して、超越焔の力をわたしだけのものにしますっ!」
「なら、こっちは、えっと……え? なんです、レヴィール。これは……これが、
この場のあらゆる者達が感じた。
次の一撃が決着を告げると。
そして、その瞬間にこの帝都は、ともすれば一瞬で蒸発するだろう。
もはや逃げることも
何故なら……高レベルの魔法処女が、
「いきますっ、レヴィール! ミレーニャさん! 力を貸してください……この超越焔に溢れる魔力の全てで、神代禁術でケリを付けるっ!」
「同じことを考えているようだな……そうか、今わかった。やはり、お母さんは……いつも、いつもいつもっ! わたしにないものばかり持って、そしてわたしの前をゆくっ!」
二人は高度を上げて、
今、頭の中でレヴィールとミレーニャが歌っていた。
既にもう、呪文の詠唱は始まっている。ユイの声も低く響いて、周囲の空気は充満した魔力で震え始めた。徐々に空は曇り、世界中の満ちる象素が呼応してゆく。
操は二人の魔法処女に支えられて、主旋律を高らかと歌い始めた。
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