第22話「緑の草原で、君と」
それは、見知らぬこの異世界に
隣には、
そんな、どこか
「あ、あれ……僕、寝てた? ごめん、なんか……
意識が鮮明になるに従い、操は状況を理解した。
今、アルシェレイド帝国の帝都へと空を飛んでいる。いつのまにか操は眠っていたようだ。それも、レヴィール・ファルトゥリムの背の上で。
操を
「操は立て続けに二人もシングル・ナンバーズと戦ったのじゃ。疲れて当然ぞ? もう少し寝ませい」
「いや、それは」
「よい。今は寝ませい」
周囲を見ると、ナナも大きく
レヴィールの背は、不思議とぽかぽかしてて温かい。
このまま再び
「ねえ、レヴィール……君達は消耗しないの?」
「ん? なんじゃ、ワシ
「そう。僕は……多分、連続で
「極端な集中力を使い過ぎたんじゃなあ」
不思議とレヴィールの声が優しい。
空気の層で覆われているから、猛スピードも寒くはないし、呼吸も普通にできる。だが、そよかぜが揺らすレヴィールの銀髪から、ふわりと柔らかな香りが
すぐ横にナナが飛んできて、じゃれつくように身を浴びせてくる。
「これ、ナナッ! 飛びにくいではないか」
「ナナもパパのこと、ギューッってしたげる! パパ、頑張ったもん!」
先程、操はナナとも融合した。
いつもレヴィールと一つになった時の、あの情熱的な高揚感とは違う。無邪気な柔らかさがあって、まるで森だ。森林浴のような清々しさがあった。
だが、恐る恐る操は聞いてみる。
「ね、ねえ、レヴィール……その、君達は、魔法処女は、その」
「なんじゃ? ……ああ、ワシはそんな
「……ほんと?」
「くどい! ……ま、まあ、ちっくと……いや! いやいやいや! でも、その、のぅ」
こうしている間も、横を飛ぶナナがにふふと笑って指で突いてくる。
レヴィールは
そんなことを考えていると、不意にレヴィールがスピードを落とす。
「あれ? レヴィール?」
「そろそろ帝国の近くじゃ……探知されれば迎撃に魔法処女が上がってこようぞ」
「ああ、じゃあ」
「ここより先は歩く。ナナ、お主も降りませい」
だが、ナナは着地した操達の頭上をクルクルと回り続ける。
難しい顔で腕組み考え込んで、彼女はハッとした表情で手を叩いた。
操は、まるでナナの頭の上に
「ナナ、
「
「そう! よーどー! 帝国にはいっぱい魔法処女がいるもん。ぜーんぶ、ナナが引き受けるよっ!」
また無茶なと、操はレヴィールの背から降りて止めようとした。
だが、足に力が入らなくてふらついてしまう。
やはり、体力と精神力を消耗しているようだ。
「待って、ナナ……一人じゃあぶないよ。レヴィール、君も止めてあげて」
「ダイジョーブッ! パパ、安心して。ナナ、もう誰もやっつけちゃわないよ? ママとパパは、魔法処女はぜーんぶ助けちゃうんだから。だから、ナナも戦わない。ちょっと戦っても、やっつけちゃわないの」
「ナナ……」
「じゃあ、こっそりね? こっそり! うーっ、ナナはーっ、派手派手にいくぞーっ!」
ふわふわ浮かぶナナは、駆け出す仕草でグイと自分を引き絞った。
だが、それをレヴィールが呼び止める。
見えない大地に急ブレーキしながら、ナナはふわふわと降りてくる。
レヴィールは操に肩を貸しながら、着地したナナを見上げた。
「ナナ、無茶をするでないぞ?」
「うんっ! あんまし大変だったら、ナナ逃げるね?」
「そうじゃ……無理に付き合う必要はないからの。お主もシングル・ナンバーズ、帝国からすれば
ぽかんとしてしまったナナは、ブルブルと首を横に振る。
長い長い髪をぶんぶん振って口ごもる。
「やだやだ、ナナ絶対こーふくしない!」
「これ、ナナ! ……お主に敵う魔法処女などそうはいないがの。ワシは心配なんじゃ……余りに
「ママ……」
だが、ナナはニッカリと笑って再び空に舞い上がった。
「だいじょーぶだよっ、ママ! ナナはね、逃げるの多分得意だから! 見てて、帝国中の魔法処女をぜーんぶ! ぜーんぶっ、引きつけちゃうんだから。おいかけっこだよ!」
「……ナナ、わかった。では、頼らせてもらえるかのう?」
「うんっ! ママはパパのこと、元気にしてあげて。ちょっと疲れてるんだよ!」
「わかった。気をつけての……無理をするでないぞ」
元気のいい返事を残して、ナナが瞬時に風になる。
あっという間に彼女の姿が、遠くへと消えていった。
周囲が静かになると、操は改めて周囲を見渡す。降りた場所は
身を寄せ肩を貸すレヴィールの横顔は、どこか不安げだ。
だが、操の視線を感じて彼女は不敵に笑う。
「心配ない。ナナはワシの血を
「……自分に言い聞かせてるみたいだね、レヴィール」
「ん、そうかもしれん。それより、じゃ!」
不意にレヴィールは歩き出す。
半ば引きずられるようになってしまい、慌てて操も
そんな彼を、レヴィールは一本の
自分でもびっくりするくらい、消耗している。
操は考えもしなかった……ハイレベルな魔法処女同士の戦闘が、こうも
「操、ちっくと寝ませい」
「あ、いや、僕はもう」
「寝ませい!
隣に座ったレヴィールが、ぽんぽんと
逆らえる雰囲気ではなかったので、言葉に甘えて膝枕に沈む。
そっと操の髪を
「ワシ等、魔法処女は融合する重魂を召喚する。そして、重魂は元の世界に戻る儀式のために……敗者となった魔法処女を犯すのじゃ」
「う、うん」
「操、お主はこちらの世界にワシが呼んでから、一度も帰ってはおらぬ」
「とっ、当然だよ! 僕は
身を起こした操は、思わず叫んでしまった。
彼にとって、清らかな身体でいることは特別な意味を持つ。母の想いであり、自分でそれを選んだ信念なのだ。
同世代の友達には、それを捨てると誇れるらしい。
早く捨てるといいらしい。
だが、操には捨てるべき貞操など存在しない。捨てていいものではないのだ……
だから、今までの戦いでずっと、敗者の処女を奪うことはなかった。
「操、落ち着けい」
「僕は、嫌だ……君の言いたいことはわかったぞ! 多分、重魂は元の世界に戻らないと、消耗が続くんじゃないの? 僕はもう、何度も君達と融合している」
「……前例がないこと、わからぬ。じゃが、奴はワシが召喚すると常にベストな状態で現れた。激しい戦いで全力を出し切っても……次に呼ぶ時は、元気になっておった」
「奴? 奴、って」
「かつてワシが、
操は驚いてしまった。
だが、当然の
長らく帝国のために、レヴィールは戦ってきた。六百年もの間、ずっと。その間、操ではない重魂がいたはずだ。そして、その者を元の世界に戻すため、儀式と称して敗者を
それが嫌だから、彼女は操を召喚した。
わざと負けるために、最弱の重魂を。
「操、気付いておるかや? ……お主、ワシを呼び捨てにしておる」
「あっ! ゴ、ゴメン……つい」
「よい、許す。ワシのことはずっと、レヴィールと呼びならわせ。そして……」
グイとレヴィールは、再び操を自分の膝枕に寝かせる。
先程までの激闘が嘘のように、静かだ。
「帝国に戻れば、重魂の研究についても資料がある筈じゃ。お主、やはり疲れておる……何の
「……うん。レヴィール、ありがとう」
「フン、ワシとは
そっと髪を撫でてくれる、レヴィールの
それを見上げて、すっと操は眠りに落ちていった。その中で、ふとした弾みに考えが浮かぶ。それは、いつもの癖で言うなら……まるで視聴者にはバレバレな
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