第11話 隣人
僕は普段自分から他人に話しかけたりでき
なかった。初対面ならまだしも数回会ってる
人でもまず相手から話しかけられてからでな
ないと話せなかった。しかし「自分を変えた
い」といつも思っていた。
そんなある日。築30年の賃貸マンション
の4階404号室の自室に戻った時のこと。
鍵を開けようとしたら、ちょうど隣の403
号室に住人が戻って来た。
意を決して、
「こんばんは」
と声をかけてみた。
隣は空き部屋だったはずで、いつ入居した
のか知らなかったから当然初対面だったが自
分と歳も近そうだし、そんなに若くはないの
で声が掛けやすかったこともあった。しかし
隣の住人は少しこちらを窺うような素振りを
みせただけで返事をしないで部屋に入ってし
まった。
やはり自分から声を掛けるのは無理があっ
たのか、と意気消沈して部屋に入った。だが
繰り返すこと、続けることで変わることもあ
るだろうと思い直し、次に見かけた時はまた
声を掛けてみようと決めたのだった。
数日後、また私と同じ時間に隣人が戻って
きた。
「こんばんは」
また返事はなかった。再び怪訝そうな顔を
して部屋に入って行った。何か不審な人と思
われたのだろうか。そうだとしたら、今後い
くら声をかけても返事はくれないだろう。
私はまたかなり落ち込んで部屋に入った。
もう声をかけるのは止めよう、そう決心した
のだった。
僕は一週間前に新しい部屋に引っ越した。
築30年の賃貸マンションの4階だ。
ある日部屋に入ろうとすると声がした。
『こんばんは』
男の人の声だった。
数日後、また声がした。同じ声だった。
『こんばんは』
声のする方向は見れなかった。僕の部屋は
4階の403号室。声は隣の402号室から
ではなかった。うちは角部屋なのだが、その
声はあるはずの無い反対側の壁の向こうから
聞こえてきたからだ。
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