第12話 何かが足りない

 そのとき私が「何かが足りない」と思った

のは確かなことだ。なぜそう思ったのかは今

となれば理解できるが、その時はわからなか

った。


 ある雨の日。私は傘を差して駅からの道を

帰途についていた。最寄駅からは徒歩で10

分ほど。雨は小降りだったので、傘で十分凌

げる程度だった。


 ふと見ると前を歩く同じく傘を差した女性

が居る。今まで見かけたことが無い女性だ。

真っ赤なノースリーブのワンピースが印象的

だった。少し後ろに傾けた傘からは髪が見え

ないのでロングではないようだ。若しくは、

纏めているのかも知れない。


 背丈は150~160cmくらい。決して

大柄ではない。スレンダーでお尻はキュッと

上がっていて、いい女感がにじみ出ていた。


 靴はこれも赤いピンヒール。歩き方はモデ

ル歩き。傘を持っていない左腕には、よく見

えないので確信はないがエルメスの黒のバッ

グ。この辺りには似つかわしくない感じの女

性だ。


 夜10時を回っているので、跡を付けてい

る様な印象を与えるとよくない、と思い急ぎ

足で追い抜くことにした。


 住宅地の中の道であり、人通りはもう少な

い。幅員が6mはある普通の道だが、その女

性は真ん中を歩いているので、左右どちらか

をすり抜けなければならない。私は右側を通

ることにした。


 女性のちょうど真横を通る時だった。見る

つもりは無かったのだが、あまりにも後姿が

いい女感満載だったので、なんとなく女性の

顔を覗き込んでしまった。失礼だし、変な人

に思われる、場合によっては痴漢扱いされか

ねない、とも思ったのだが。


 傘の下。後ろからは傘で隠れて見えなかっ

た部分。その女性には、そこにあるはずの首

から上がなかった。足りなかったのは頭だ。


 美人かどうかが判断できなかった。

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