第9話 家庭教師
「家庭教師をやってみないか。」
突然そう言われて「?」と思うのは当たり
前だと思う。つい先日、通っていた大学を自
主退学したばかりだったからだ。大学では学
生兼助手をやっていたが、飛び級で入学した
ので、まだ十八歳になったばかりだった。
一度に事故死してしまった両親が残してく
れた遺産や保険で多分普通の生活をしていれ
ば一生食べていけるはずだった。バイトの経
験もない。
「いや、普通の意味での家庭教師ではなく、
監視役もかねて、ということなのだが、どう
だろう。」
「いったい、誰の家庭教師をやれと言うんで
すか?貴方が直接頼みに来るなんてよほどの
ことだとは思いますが。」
頼みに来た人物が問題だった。ナイアルラ
トホテップ、その人が直接来たのだ。あり得
ない。確かに、ここ数年の間にニアミスした
ことは何度もあったが、直接会うのは、数万
年振りだと思われる。杉江統一として生を受
けてからはもちろん初めてだ。
「実は、七野修太郎という高校一年生を見て
ほしいのだよ。」
「誰なんですか、それは。」
「中身は我が主だ。」
「えっ?」
ナイアルラトホテップが『我が主』と呼ぶ
相手は、この宇宙に一人しかいない。万物の
王アザトースだけだ。
「まさか、封印が解かれたとでも?」
「いや、違う。我にも事情が解らないのだが、
確かに七野修太郎の中身は我が主なのだよ。
元に戻す方法を見つけている間、我が主の相
手をして欲しい、ということだ。暴走されな
いよう監視も含めてな。」
途方もないことだ。自らの存在も普通では
ないと思っていたが、まさか万物の王にそん
な事が起こっていようとは。
「何か元に戻す当てでもあるんですか?」
「この際、贅沢は言っておれん。セラエノの
智慧を借りようと思っておる。」
「あのセラエノ図書館ですか。僕は行ったこ
とがありませんが、そこに答えがあると?」
「あそこには旧神どもが記した書物も保管し
てある。忌々しいが最早他に方法もない。」
「判りました。でも長くは持ちませんよ、早
く解決してもらわないと。」
こうして僕はアザトースの家庭教師になっ
た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます