第14話 スライム寄りののーちゃん

 おはようございます。美景です。現在は日の出直前で空が白んでいる真最中でございます。


 今私たちはテントから出て野営地点の周りに張り巡らされたトラップを避けて超えた先。少し小高い丘の上にいます。


 野営地点はこの丘の麓あたりです。と言ってもそれほど遠いところではなく、車形態で2、3分走った場所なので、割とテントから丸見えです。


 しかし今日の不寝番は少し良い加減なところのあるポートくんなので問題なしです。チョロいです。


 そんな少し離れた場所で何をしているのかというと、絶賛修行中といったところでしょうか。


 のーちゃんは自慢のヲタク知識をフル活用して、ウンウン唸りながら新技開発、技の調整、形態変化の最適化等、鋭意活動中でございます。


 そして私はそれを俯瞰した視点から確認し、適宜アドバイスを投げております。


 しかし。そもそも技の方はヲタク知識を豊富に持つのーちゃんの方がよく考えられているので基本的なこと以外はアドバイスのしようもなく。つまりは暇です。


 何か無茶なことをやらないかを監視する以外にはほとんどやることもなく、しかも最近はちゃんと行動する前に確認を取ってくれるので、監視の意味もほとんどありません。


 (美景。)


 (なに?)


 (撃っても良い?)


 (大丈夫!)


 と、こんな感じでもうのーちゃんはいきなりバカなことはしなくなったので本当に暇です。


 ちなみに今のーちゃんはスライムの体の一部を変形させて銃口を作り、その中に玉と称して石ころを入れ、それを筒の底から瞬間的に押し出して射出する、通称“竹筒水鉄砲・石式”の射出テストの真最中です。


 昨日の深夜あたりから練習しだした技ですが、投擲よりも狙いがつけやすく、かつ威力が出るということで、のーちゃんが張り切って調整を施している。


 ただこの鉄砲の飛距離が投擲の時の最長時と比べて半分にも満たないおよそ2メートル。投擲時は6メートルあたり飛んでいたところからするとやはりかなり短く、あんまり戦闘で役に立ちそうにないということで、飛距離を伸ばすべく調整しているということ。


 投擲の飛距離があんまり伸びていないのはひとえに慣れの問題。まだ人が全力で腕を振るくらいの速さでスライムアームを振ることができず、せいぜいが運動音痴な女子がふらふらっとゆっくり振ったくらいの速さが限界なのです。


 悲しきかな。その速さがのーちゃんの人間時代そのものでした。


 おそらくスライムアームのこののろさというのは人間時代ののーちゃんの体の動かし方が影響していて、私がやった場合はもう少し飛距離も伸びるだろうと思う次第です。


 しかし体担当はのーちゃんに任せているので私はなにも言いません。


 決して、ちょっと運動音痴なのーちゃんカワイイなどとは思っていませんです。


 しかし、なぜか車形態の時はすごく素早く走れるし、ユミルンっていうキャラクターに変身できるし、今やっている鉄砲なんかも飛距離はまだまだながらもかなりの威力の玉を射出している。終いには異次元ポケットなんていう収納魔法を編み出してしまった。


 人間ができる行動はてんでダメなのに、なんで人間じゃどうやってもできないことばかり優秀なのか。


 もしかしてのーちゃん。スライムの方が人間より向いてるんじゃ・・・


 (何か言った?)


 (なんでもないよ。)


 危ない危ない。気取られるところだった。


 まあ、冗談はさておき。本当に暇だなー。


 まだ野営地点に戻るには1時間程あるし。このままぼーっとのーちゃんを眺めてるのも・・・もちろん良いけど。やっぱり何か暇つぶしできることないかな。


 うーん・・・・・


 そういえば今異次元ポケットにあるものってどうなってるんだろう。


 入れたままほっといちゃってるけど大丈夫なのかな。特に草とか赤い木とか。


 ・・・見れないかな?


 と言うことで早速挑戦。


 のーちゃんがやっていた魔力(?)の流れを読む感覚。さらにそれを異次元ポケットを使うときのイメージに反映。無事使用可能状態に移行。中を確認・・・と言うことはタンスの中を覗き見るイメージ。書き換え。反映。実行!


 おお。いきなり成功!


 視界に広がる真っ白な異空間。


 その中には数カ所にかためられた道具や草花。そして赤い大樹。


 草花は腐っていないし、取り込んだときのまんまでそこにある。赤い大樹もその他の道具も同様だ。


 道具はそれぞれ用途と使用頻度ごとにカテゴリー分けされており、すぐに取り出し可能な状態になっている。


 さすがのーちゃん。こういうゲーム的なものの扱いはすごく丁寧。


 一番最近にのーちゃんの部屋に遊びに行った時はしっちゃかめっちゃかだったけど、ゲームと漫画が置いてあるところだけは異常に整理整頓されてたしね。


 道具の中身も確認できたらよかったけど、そううまくはいかないみたい。


 けど薬系の物はすごく見分けにくいなー。


 瓶の形は似たり寄ったりだし、溶液の色も似た感じのものが多い。よく見れば蓋の色が全く違うけど、これから道具が増えて行った時にこれじゃあどれがどれだかわからないな〜。


 何か名前と効果をメモできるものがあれば良いんだけどな〜。


 ・・・それも魔法でできないかな?


 名付けて“タグ付け”!なんちゃって。


 と思っていると道具の上になにやら半透明の四角い水色の紙のようなものが浮かび上がった。これはもしかしなくとも私が思い描いたタグそのものだった。


 まさかこんなに簡単にできるとは。もしかしてこの異次元ポケットだからかな。魔法で作った異空間だから割と融通がきくみたいな。


 これは要検証が必要かな?


 とりあえずタグに説明を書き上げていく。


 道具全てに説明を書いていくのにちょうど1時間くらいの時間を要した。


 そろそろ良い頃合いかな?のーちゃんに言って気づかれないうちに戻ろう。


 意識を浮上させてポケットからスライムに戻る。


 (・・・のーちゃん。これはいったい。)


 (あれ?美景見てたんじゃないの?いや〜ちょっと頑張りすぎちゃってね。美景も黙ってるからついつい。)


 私が見た光景。それはのーちゃんが頑張りすぎたゆえの惨状だった。


 丘の地面は抉れて、その抉れた地面はその先10メートルもの距離に及んでいた。


 ただの石ころを撃っていたにしてはありえないほどの威力。そして投擲でも出せていなかった10メートルという飛距離。


 (やっぱりのーちゃんって・・・)


 (ど、どうしたの?やっぱりやりすぎた?)


 (いや、うん。やりすぎ、かな。)


 やっぱりのーちゃんは人間よりスライムの方が向いているようだと、私は思った。

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