第13話 やればできるもん!

 それから二日たった現在。パーティーは野営のための準備をしていた。


 ルーナは魔法で火を焚き、レナは料理の下ごしらえをしている。


 ディランは早々にテントをポートと張ったあと、薪集めと周辺の警戒をしに行った。


 ポートは野営ポイントを円で囲むように罠を設置し、不意の攻撃に備えていた。


 私たち?私たちはご飯ができるまでみんなを応援するユミルン係ですが何か?


 というかぶっちゃけなにしたらいいのかわからないし、むしろ邪魔になっちゃうと思うのですでに張られてあるテントの近くでみんなの働きを見守ることしかできんのです。


 断じてサボってるわけではないのです!


 (薪集めくらい手伝ったらいいんじゃないの?)


 (ハッ!その手があったか!)


 (もう。のーちゃんってば。)


 半身にあきれられているが、とりあえずやれることは見つかったので外に向かう。


 いや~やっぱり頭脳担当は言うことが違いますな~。


 「ライム。外は危ないのでこちらに。」


 ・・・はい。こんなちんちくりんにできることなんかないですよね。自惚れてました。


 ルーナの指示があったので私たちは篝火の近くで火の番をするルーナの隣に座る。


 するとルーナは私を抱きかかえて膝に乗せる。頭にボールが二つ乗る。いや、どっちかというと饅頭かな?


 (乗るんだ~~~。)


 (どうしたの美景。)


 (いや、なんか女として負けた気が。)


 (美景も乗るくらいはあったでしょ。というかむしろその言葉は私の言葉な気がするんだけど。)


 (ここまで大きくなかったよ。それにのーちゃんはそもそも女の子やめてると思ってたよ?)


 (じゃあ私を何だと思ってたんだよ!)


 (えーっと。男前な男の子?)


 (それ完全に男じゃねえか!)


 (じゃあ男の娘?)


 (間違いがないように言っとくけどそれも男だからな!どこからそんな情報学んできたんだよ!)


 (それはねえ。のーちゃんのベッドの下にあった薄いほ――。)


 (おっとー。それ以上はいけない。)


 私たちが脳内でわめいている間にルーナは私たちのことをぎゅうぎゅうと抱きしめたり、自由に伸びる手やほっぺで遊んだりしていた。


 「ルーナ。私にもライムちゃん貸して!」


 「まだ料理ができていないでしょう。早く完成させてください。」


 「もう!ケチ!」


 レナはそう言って頬を少し膨らませながら調理に戻った。


 再びルーナはライム弄りを再開しだした。


 私たちにとっては痛くもかゆくもなく、というかそんな感覚がとうにないので嫌な感じも起きず、むしろこんな感じになるのかといじられる自分を観察している始末。


 美景に「あんまり好きにさせないほうがいいじゃ」と言われてからハッとして、子供が嫌々するかのように体を大きく揺さぶった。


 するとルーナもそれで気づいたのか、すぐにただ抱きかかえるだけになり、ライム弄りは終了した。ライム人形にはなっていたが。


 「ルーナは本当にライムを気に入ったみたいだな。いつもべったりじゃないか。」


 警戒と薪集めを終えて、いっぱいの薪を抱えて戻ってきたディランは、ルーナのここ2日の行動を振り返りつつそう話した。


 そう。ここまでの一連の動きは昨日もなぞっており、ルーナと私たちはいつもべったり行動しているのだった。


 なにせ移動中はルーナのカバンの中。野営中はルーナの腕の中。しまいには就寝はルーナの布団の中である。まさに1日中べったり状態であった。


 ちなみに私たちは全く眠ることができず、必要もないため、不寝番以外のみんなが寝静まった後はこっそりと抜け出して実験を行ったり訓練を行ったりしていたりする。


 「そんなことを言ってもこの子は渡しませんよ。」


 まるでお気に入りのお人形を独り占めする少女のような発言をするルーナ。


 その発言に若干引き気味で苦笑いするディラン。


 そして当事者であるはずなのに何の反論もできずにいる私たち。


 「おっ!こりゃまたおいしそうな料理だな!」


 カオスな空間を形成しつつあった空気をポートが打ち破ってくれた。


 いつの間にか目の前の篝火を調理場にしていたレナがフライパンでステーキを焼いているところに、その匂いにつられて罠を張り終わったポートがやってきてくれたのだ。


 「今日のメインはルンブルのステーキか。脂がのっててうまそうだな。」


 ディランはポートに乗っかって話の流れを後押しする。ルーナも話がそれたのを気にすることなくステーキに目を向けていた。


 「ライムちゃんもステーキ食べられる?」


 レナの問いに首肯すると出来上がった料理が次々と私たちとルーナの前に置かれる。


 「それじゃあこれとこれとこれも食べられる?」


 これにも首を縦に振って肯定すると、レナは嬉しそうにメモ帳とペンを取り出して記入する。


 レナが何を書いているのかというと、私たちが何を食べることができて、何が食べれないのかを調べているのだ。ご飯を出す際に私たちに見せて食べられるかを聞き、食べられると伝えたものをメモしているのだ。


 ぶっちゃけスライムに食べられないようなものはほとんどないと思われる。それこそあからさまに毒のあるもの以外はほぼすべて食べられると思う。


 何せ草も食べられるし、石ころも多少時間がかかるものの吸収することができた。


 なのでよほど特殊なものか状態以上を伴わせるもの以外はすべて食べられるはずなのである。


 それに好き嫌いもない。というより味覚がないのでどれほどまずい飯だろうが食える。


 けれどそれは逆にどれほどおいしいものでもマズ飯と変わらないということで。


 (なんか人生の半分以上を損してる気分だよ。)


 (確かにこのまま味覚がないっていうのもしんどいね。)


 (本当の意味で味気のない人生は歩みたくない。)


 (これは本格的にあの実験を遂行しないといけないようね、のーちゃん。)


 (うん!絶対に成功させよう!)


 思念で熱い握手を交わした私たちはいつか成功させようと思っている実験に向けて、今一度闘志を燃やすのであった。


 そうこうしているうちにレナが全員分の料理を皿に盛り付け、全員にいきわたると、ディランが音頭を取って食事が行われた。


 「この糧が明日に生きる私たちの力となることを願って。乾杯!」


 「「「乾杯!」」」


 こうして私たちは今日も何事もなく休息につくのであった。

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