第9話 これだから男は!

 しばらく少女二人に玩具にされ、もといい、めでられまくって早1時間。ようやく解放された。


 その間私たちは一切の抵抗をしなかった。


 ここで抵抗しようものなら敵意ありとみなして殺しに来る可能性もあったからだ。


 それにダメージ的なものは一切受けなかったので、抵抗する必要さえなかったことも理由の一つである。痛みも苦しみも感じなかったので、それならされるがままでも問題ないだろうという判断の下だ。


 誰が判断したって?そりゃあ美景様に決まっている。


 ともかく、何の抵抗も示さなかったために1時間以上もの間体をこねくり回されたわけなのだが、その甲斐あってこちらに冒険者たちに危害を加えるつもりがなく、かつ明確な意思が宿っているということをわかってもらえた。


 しかし・・・


 「ルーナ!レナ!そいつから離れろ!お前たちはそのスライムの能力にあてられているだけだ!」


 「そうだ!早く目を覚ましてくれ!」


 と、こんな感じに少し前から意識がはっきりした男二人に説得されていた。


 うん。まあ確かに私たちモンスターだし、少女二人がいきなり仲間吹き飛ばして私たちのことかわいがってたらそりゃおかしいってなるよね。


 でも私はただかわいさアピールをしていただけだし、攻撃なんて全くしていない。


 もしかしたら変な能力を知らず知らずのうちに手に入れているのかもしれないけど、それでもこっちが知らずに使っちゃっているものなのだから私たちは無実・・・なはず。


 しかしそんな事を言っても意味のないことだし、そもそもこちらから伝える手段がないので傍観することしかできず、少女二人がどう反応するかを固唾をのんで見守るばかり。


 お願いだから殺さないで!私たち悪いスライムじゃないよ!


 「ちょっと黙っててディラン、ポート。」


 男二人にやいのやいのと説得されていた少女二人のうちの片方。レナが冷たい視線を浴びせながら静かに言い放った。ルーナも言葉には出さずとも視線だけで殺せるんじゃないかというほど異様な冷たい目で二人をにらんでいる。


 「ひっ!?」


 男二人もまさか仲間にそんな言葉と視線を浴びせられるとは思っていなかったようで、腰が抜けて尻餅をついている。なんか情けないなおい。


 「ねえスライムちゃん。」


 と、そんな二人に視線を向けていると、レナが私たちに話しかけてきた。


 「スライムちゃんは私たちを襲ったりしないよね?」


 凄くいい笑顔でこちらに聞いてきた質問は、しかし私たちを恐怖に陥れるような質問だった。


 いや、別に質問自体は何の変哲もない敵意の有無を聞くものなんだけど。状況が状況じゃないですか。


 私たちは今現在ルーナとレナの腕の中である。


 しかもユミルン状態で。


 それはつまりほとんど抵抗のしようもない状況というわけで。そんな状況で私たちに「襲ったりしない?」なんて言われると「デッド オア アライブ?」と言われているようなものじゃないですか。


 (心なしか笑顔も冷たく見えるしね)


 美景も同じ意見らしい。


 何はともあれここではイエス以外の答えが用意されていないので力の限り「イエッサー!」と言う代わりに全力で首を縦にぶんぶん振る。


 ユミルンの姿でこんなことをしていると生まれたての子羊がおびえてがくがくふるえているようにしか見えないだろう。


 「やっぱりそうよねー!ほら見なさい二人とも!こんなかわいくてぷにぷにしてるこの子が人を襲うなんてありえないでしょ!」


 レナが男二人にそう言い放つが、いやいやレナさん。確かに私たちは襲わないけれども、一応私たちモンスターだからね。そんなこと言われる二人に申し訳なくなってしまう。


 「それにこの子の力は私たちに大きく劣ります。反抗されても難なく倒せるでしょう。」


 ルーナさん怖すぎです。


 確かに私たちから見ても冒険者たちの力は私たちを軽くねじ伏せられるくらいに強いと思うし、不意を付けたとしても多分かすり傷しかつけられないと思う。いや、傷つけることもできないかも。


 だってディランはすごい勢いで岩にぶつかったのに外傷はあまり見られないし、むしろ岩のほうが衝撃で亀裂が無数に生じている。


 こいつら野菜星人かなんかか?


 まあでも今は弱くて無害な生き物と見てもらえたほうがありがたい。


 戦っても勝ち目は皆無なわけだし、ならこのまま嵐が過ぎ去るのを待つのが正しい判断なはずだ。


 (う~ん。でもこの流れってたぶん・・・)


 (なに?)


 (いや、別に大したことじゃないし、たぶんそっちのほうが都合いいと思うから大丈夫。)


 (そう?ならいいけど。)


 どうやら美景はこの後どうなるかが見えているらしい。


 私は頭脳担当ではないので別に考えなくていいし、美景が大丈夫というなら大丈夫だろう。


 ・・・誰だ今脳筋とか言ったやつ。


 「いや、でもそいつは魔物だぞ。しかも特異個体だ。逃がせば後々大変なことになりかねない!」


 ディランはやはり私たちを見過ごすことに反対らしい。


 まあ普通はそうだろうな。


 けど今更ルーナとレナがそれで引き下がるとは思えないし、というか二人はそれも十分わかってるはずだし。これどうやって収集つけるつもりなんだろ。


 「見過ごせないなら見張っとけばいいんじゃない?」 


 レナは首をかしげて不思議そうにそう言った。


 どういうことかとつられて首をかしげたディランとポート。


 しかしポートはいち早くその真意を理解して驚きの表情を見せた。


 「はあ!?もしかしてそいつを俺らの仲間にしようってのか!?」


 その言葉にディランも驚愕の表情となる。

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