第8話 タイトル回収!かわいいはいつだって~?
なにか。何かないか!この絶望的な状況を逆転できる一手はなにか!
(こんなとき漫画だったらヒーローが助けてくれるんだろうなー)
美景はもう諦めムードで現実逃避まっしぐらだ。ヒーロー、正義の味方、救世主。そんな人たちが助けてくれるのは決まってこんな絶望感漂う状況だ。
だけどね。私たちスライムなんだよね。どちらかというと狩られるほうなんだよね。
こんな何もしていない生きるのに必死なスライムを倒して何が正義だろううか。
でもまあ普通のスライムは考える能力なんて皆無なんだろうし、人を誰彼構わず攻撃するような奴らなんだろうから冒険者達には非はないんだろうけど。
正義。正義か〜。私の好きな漫画の悪役にめちゃくちゃ可愛い子がいたけどあれって正義だよなー。可愛いってそれだけで全部肯定させられるっていうかさ。美景もその類だし。
可愛いは正義。正義・・・
(それだー!!!)
(へ?なに?)
美景が腑抜けた返事をしたがそれは今どうでもいい。
私は体を記憶にあるあるキャラクターの形に変身させようとする。
私達を囲んでいる冒険者達も警戒するもののどんなことをするかわからないために攻撃してくることはない。
これ幸いと私は一生懸命思い描く形に変形していく。
思い描くキャラクター。それは私が読んだ漫画、見たアニメの中で最もアザと可愛いマスコットキャラクター。その名もユミルン!
題名の割に結構ハードな内容の漫画で一世を風靡した大人気漫画マジカルバスターズ。その悪役にこれまでの悪役のイメージをぶち壊すような可愛いデザインのユミルンというキャラクターがいた。
ユミルンはその人気さ故に人気投票で主人公を圧倒的票数差で堂々の1位に上り詰めたほどだった。
ユミルンが主人公に倒されたときはちょっとした暴動が起こるほどの騒ぎとなり、作者が負傷して連載が長期休載になったほどだ。
まあそんな諸問題はさておき、そんな爆発的人気を誇ったユミルンの姿になれば、その可愛さに惹かれて穏便に解決するのではないかという超理論が焦って混乱している私の頭の中で成立してしまい、今まさにユミルンの造形を隅々まで思い出して忠実に再現していた。
徐々に形が変形されていく私達を見て冒険者達は少しの緊張とともに見守っていた。
大きく垂れた耳に、耳の下にできた耳よりも大きくふさっとたれた翼のような何か。首回りにある牛角の首輪に、その牛角の先端どうしがくっついたところに付いた鈴。手足は小さくて、体は丸っとした体系。保護欲をくすぐる大きなかわいらしい瞳。
ああでもないこうでもないと記憶の奥底に眠るユミルンの姿を再現していき、ついに私はユミルンへの変形に成功し、ユミルンの決めポーズである両手を口元に持って行って上目遣いをする超あざといポーズをとった。
体は三頭身で手も足も短く、一見ぬいぐるみのようなザ・マスコットキャラという感じの可愛さ溢れるユミルン。
それが上目遣いで下から覗き込む姿はもうたまらんの一言に尽きるだろう。
でもよく考えて欲しい。今は戦闘中である。しかも私達は最初からこの姿だったわけではなく、冒険者達との戦闘中にこの姿に目の前で変身したのだ。
どう考えても無駄な行動以外の何物でもない。
(希ちゃん。)
(なに?美景ちゃん。)
(なんでユミルンに変身したの?お姉さんにわかるように説明してもらえる?)
(えっとね〜。わかんない!)
(そっかーわかんないかー。)
(でもね、でもね。ユミルンだったらなんとかしてくれるかもって思ったの!)
(希ちゃんはユミルンのこと信じてるんだねー。)
(うん!)
とりあえず二人で現実逃避していた。
他にもっと打てる手はあったはずなのになぜか焦って混乱した挙句にユミルンに変身。
まあ、もうこれでいろいろな意味で悔いはなくなったよ。一思いにやってくれ。
「か」
私は視界を閉じて運命を受け入れるように心の中で手を合わせて死を待つ。
「か、かか」
「おい、どうしたルーナ、レナ。」
けれど一向に痛みが襲ってこない。
まあスライムなので痛みはないのだけど。それでもなにかしらの感覚が起こってもいいはずなのだが、けれども私達は未だに無傷らしかった。
視界を開けながらそっと周りを確認してみる。するとどうやらルーナと呼ばれる魔法使い(?)とレナと呼ばれる弓使いが体を震わせている。
あれ?これはもしや?
そう思って私はここぞとばかりにあざといポーズを取りまくった。
右目に右手ピースを添えてキラッ!
大きく飛び跳ねて大の字に体を開いて笑顔を満開させて元気一杯アピール!
顎に両手を添えて首をかしげてあどけないポーズ!
ありとあらゆるあざと可愛いポーズを繰り広げ続けた末に遂にルーナとレナが武器を落とした。
これはまさかの!!
「おいルーナ!いったいどうしたんだ!」
「レナもなに武器落としてんだ?!まっさかなにか変な技でもかけられたか!?」
ディランとポートが二人に声をかけるが返事がない。二人とも体を震わせて呆然と私達を見ている。
「チッ。ポート!俺たち二人だけでもこのスライムを倒すぞ!」
「わかった!こいつを早く倒さねーと厄介そうだ!」
ここでディランとポートは挟み討ちするように前後から襲いかかってくる。
ここで躱そうと思ったが、まさかのつまずいて転倒。
やばい!
足ありの状態は久しぶりだったし、何よりスライムになってから歩行練習は全くしたことがなかった。これじゃあ避けられない!
万事休す。私達に襲いかかる剣と槍に目が釘付けになる。
もう終わった。
そう思った瞬間。突然剣を振り下ろすディランと槍で貫こうとするポートの姿が一瞬で消えた。
ナニゴト?!
するとその直後に何かが岩と木にぶつかる大きな音がした。
そちらに目をやると、ディランが岩に直撃したようで意識を半ば刈り取られた状態で朦朧としており、ポートに至っては折れた木と一緒に横になって伸びている。
普通の人間が同じように吹き飛ばされてぶち当たっていたならば確実に内臓が破裂して今頃血をドバドバと口から吐き出しているだろうが、二人はそんな状態にはなっていない。
よほど体を鍛えているのか、特別な力で体を保護しているのかのどちらかだろう。
しかしそんなことはどうでもよくて、今はなぜ二人がほぼ同じタイミングで、しかも私に攻撃が襲いかかる直前で吹き飛ばされたのかということが最重要問題である。
私はすぐ近くにいて私達を見下ろしている二人を見上げる。
なんだか怖い。なんというか、凄く嫌な予感がする。死ぬかもしれないという予感とは違うが、もっと別の危機が訪れる気がするのだ。
なぜなら二人の顔がなぜか狂喜に包まれているか──。
「「カワイイーー!!」」
思考の途中で突然二人が叫びながら私達に飛びついてギュウギュウと締め付け、もといい、抱き締めに来た。
少女二人に抱き締められているはずなのに私の体は両断されかねないほどにキュッとひょうたん状にされていた。
これはやはりこのユミルンの姿に魅了されてこうなっていると考えていいのだろうか?
まあ、先ほどの感想を聞く限りはそうとしか考えられないのだが、しかしまさかこんな方法で戦闘が終了してしまうとは。
今まさに、かわいいは正義を体現したといっても過言ではあるまい。
しかし、今はそれゆえに死にそうな状態になっているわけで。て言うか本当に死なないよね?全く苦しくはないけれど。
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