第7話 見つかっちゃった!(∀`*ゞ)テヘッ
今日はかなり天気がいい。空は所々に小さな白い雲が漂っているだけであり、風は気持ちよく私たちのスライムボディーを撫でてくれる。
浜辺に打ち上げられてから今日まで特に雨が降ったり曇ったりということはなかったけど、それでも今日は見える景色が全て輝いている気がする。
4日いた海岸を離れて1時間ほどたっているけど、もうすでに少し寂しくなっている。
たった4日しかいなかった海岸は、されど4日もいた海岸なわけで。さらには私たちスライムが生まれた(?)場所でもあるので、もう第二の故郷と呼んでもいいのではないだろうか。
少なくとも出身地はあの海岸だろうな。
そんな軽いホームシックになりながらもこの素晴らしき門出に思いを馳せて、楽しく冒険と思っていたのに・・・早速スライム生終了のお知らせ。
目の前には明らかに冒険者パーティーと思われる戦闘集団がいる。
集団と言っても4人しかいないのだが、一人一人は私たちを見た瞬間落ち着いて戦闘準備をして逃げられないように取り囲んだのだ。
さらにこちらの動きを確認しながらじりじりと詰め寄ってきている。その目には油断なんて少しもうつっていない。
これは逃げられない。詰んだ。モウダメダー。
そもそもなぜ冒険者に遭遇したのか。
外は危険でいっぱいだろうし、私達はスライム。モンスターなのだからそもそも自分以外は敵しかいない・・・と思う。
さすがにスライムのお仲間は襲ってこないはず!だよね!?
簡単にここまでの経緯を話すと、私達は海岸を登って近くの草原に繰り出した。
ちなみに赤い大樹があった場所は草原とか森ではなく浜辺。砂浜エリアの中だったのだがなぜか赤い大樹の周りだけは草花が生い茂っていたのである。不思議だなー。
そして、草原に所々ある大岩や高い草花に身を潜めつつ周りを警戒しながら行動を開始していた。
そもそも私たちがなぜ安全な場所を放棄してまで冒険に出かけたのかといえば、やっぱりファンタジーな世界にトリップしたのだから楽しまなきゃダメでしょってところだ。
他にも色々と理由はある。
溺れ死んだこと、スライムになったこと、元の世界でやり残したこと、そんな暗いことから逃げるために。他の者と触れ合いたい。美味しいご飯にありつきたい。本当に色々ある。
けれどどれもこれも集約してしまえば一重に「楽しまなきゃ損」ということになる。
人生一度きりと思っていたが、リアル第二の人生を歩もうとしてしまっている。しかも一度死ぬという大きく、そして後悔に満ちた経験をしてしまったのだ。
それを振り返ってこのスライム生は楽しまなきゃいけないと思うのは当然の話だろう。
そんなわけで慎重に行動しつつもどこか浮き足立ってしまい、注意深く周りを気にしていたつもりになっていたのがいけなかった。
私達はあっさり冒険者御一行に見つかり、今に至るのだ。
(ど、どうしよう。)
(逃げ道塞がれちゃったしなんかこっち睨んで離さないし、もうダメかも。)
(車移動でつっきれないかな?)
(確かに車移動は速いけどあんなに油断なく構えてる人たち相手に抜けられると思わないかな〜)
(だよねー)
私たちが思念で相談している間にもじりじりと距離を詰めてくる冒険者達。
しかし詰め寄ってはくるけどそれ以上の行動はしない。
最初は駆け出しだから怖がってるのかもとも思ったけど、攻撃態勢に入るスムーズさとか睨みつける威圧感とか、武器や防具の傷つき具合からしてなかなか戦い慣れているご様子。
見た目はかなり若そうで、15歳から17歳くらいだと思うけど、その見た目に反する貫禄がオーラとして見えるようだった。
「ルーナ。こいつ、なんか妙じゃないか?」
「確かに。全く攻撃してこないし。何よりすごく警戒しているみたい。」
「どうするのディラン?もし特異個体だったらちょっと厄介かもよ。」
「・・・ポート!牽制してみてくれ!」
「なんで俺なんだよ!まあいいけど!」
ディランと呼ばれた剣士に半ばキレ気味で応答したポートと呼ばれた槍使いはわずかに手持ちの長槍を後ろに引いてから勢いよく私たちに突き出してきた。
(あぶな!)
間一髪で避けきった長槍は、けれども本気の一撃ではない言葉通りの牽制のための攻撃であったためか、私たちに軽く触れるほどのところで引き戻され、ポートは攻撃する前とほとんど同じ態勢に戻る。
ここで私は重大なミスをしてしまった。それは攻撃される前に瞬時に体を車型に変形させ、その状態で大きくとびのいてしまったのである。
「うわ!?なんだこいつ!すげーすばしっこいぞ!」
「しかも形が変形した。やはり特異個体で間違いなさそう。」
「今ポートが攻撃する前に変形していたから気配にかなり敏感なのかも。かなり厄介そうね。」
「みんな気を引き締めろ!他にどんなことができるのか予想ができない!集中して確実に仕留めるぞ!」
いや、もうホントこれ以上ないくらい警戒されてなんですが、私たちもう他に石か砂を投げるくらいしかできないですスンマセン。
車型になって素早く攻撃を回避してしまったことにより突っ切って逃げるのはもう無理そう。その上油断のなかった冒険者一行の観察眼がさらに鋭くなり、もうほんの少し変な動きをした瞬間にやられそうな雰囲気だ。
(どうしようどうしようどうしよう!)
(お、お、、おお、落ち着け美景!ここ、こういう時こそクールになるんだ!)
(で、でももう一巻の終わりじゃないの?!ああ、生まれてまだ1週間も経ってないのにこれで終わりなの?)
私達はもうテンパりにテンパっていた。状況が状況だし、次の瞬間にはお陀仏な未来が見えるようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます