第6話 赤の大樹
海で溺れて漂流してからおよそ4日目。ついに私達はこの浜辺から遠出することにした。
この4日間お世話になった赤い大樹に心の中で最敬礼しつつ周りにある草花を異次元ポケットに収めていく。
異次元ポケットとは草を吸収せずに取り込んだあの魔法(?)のことなのだが、かなりの量が入りそうなので、青狸で有名なあの方をリスペクトしてこの名前をつけた。
そうしてある程度草花を取っていったが、ふと赤い大樹の枝や葉を持っていきたいと思った。
なにせこの異様に赤い大樹、近くにいるとどこか暖かさを感じるのである。
生命の息吹とでも言うのだろうか。スライムになってから温度をあまり感じられなくなってからこの大樹に近づいているときだけは温もりを感じた。
といううことで何かとお世話になっていた記念に葉っぱや枝を持って行こうと思ったのだが。
(落ちてないなー)
(枝はともかく落ち葉もないなんて不思議な木だね。)
かれこれ5分くらい大樹の周りを観察してくまなく探しているのだが、一向に葉っぱのかけら1つ見つけられない。
これはこの木の特異さを物語っているということなのだろうか。それともこの世界の木はみんなこんな感じなのだろうか。
でも木の周りにある草花は特別不思議なところはなく、私たちのいた世界とほぼ変わらない。
ということはこの木だけが特殊なだけだと思うのだけど。まあそれは置いといて。
とにかくこの木から枝やら葉っぱやらが欲しいので、しのびないけど毟っていこうかな。
(木さん。申し訳ないですが、少々毟らせていただきます!)
私は大きく飛び跳ねて木の枝に掴みかかる。
訓練中に飛び跳ねたりできないかなと実験した結果割とすんなりできるようになり、かなり高く飛び跳ねることができるようになっていた。
それでも赤い大樹の一番低いところにある枝にあと少し届かない。
何回もぴょんぴょん飛び跳ねたり、木に体当たりして葉っぱを落とせないか試してみるも見事に空振り。
うーん。どうしよう。
(別にそこまでして取らなくてもいいと思うけど。)
(そうなんだろうけど、どうも私のヲタク魂が「この木の何かを持っていけ!」って語りかけてくるんだよね。)
(まあ、そこまでいうならとやかく言わないけど。じゃあ木の一部じゃなくて木全体を持って行くのはできないのかな。容量はまだだいぶ余ってるんだよね。)
(ポケットの?余ってるけどこんな大きなものどうやって取り込むの?)
確かに大樹ごと持っていけたらいいけどこんなに大きなものを取り込むなんてできないでしょ。
(何回かのーちゃんが取り込んでいる様子を見てたんだけど、あれって取り込んだところから順に中に入っていくんでしょ?だったら途中で中断せずに触れられるところから順に取り込んでいったらそのまま取り込めると思うんだけど。)
(美景さん・・・あんた天才か?)
(いや、ちょっとそう思っただけで確証はないけどね。)
美景はそんなことを言っているが、たぶんこれは正解だと思う。
草花を取り込むとき途中で取り込んでいる場所から少しずれて取り込んでしまうことが多いけど、それでもちゃんと元の形を保って取り込めていた。ということはつまり中断しない限りは正常に取り込むことができるということで。
早速試してみることにした。
せっかくなので赤い大樹の根の先からてっぺんの葉っぱにかけてくまなく取り込もうと思う。
なので私は赤い大樹の周りの土から徐々に取り込んでいく。
うまく取り込めている。かなり根っこが広く深くはっていたのであっちへ行ったりこっちへ行ったりして周りから徐々に取り込んでいく。
やがて大樹の真下の根を完全に取り込み、支えを失った大樹は徐々に私に取り込まれていく。
そして枝が地面に着いたあたりで再度外側から徐々に取り込んでいき、そこから15分ほど費やしてようやくてっぺんまで取り込みが完了した。
そこで気づいたが、枝が地面についたことで葉っぱが落ちたり枝が折れたりするかと思っていたが、それも全くなかった。本当に不思議な木だ。
(ちゃんと取り込めた?)
(わからない。ちょっと出してみるね。)
正常に取り込めたか確認するために木のてっぺんや、外周部分などをちょいちょいと出してみる。うん。ちゃんと取り込めたみたいだ。
(美景の推測通りだったね。)
(よかった〜。私の考え違いのせいで細切れに木を取り込んじゃってたら木さんに申し訳なかったからね。)
とりあえずこれで目的は果たした。
出て行くと決めてからかなり時間が経ってしまったけどまだ太陽は登りきっていないし大丈夫。
それでは気を取り直して、いざ!新天地へ!
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