第4話 24時間働けます!

 言い合いになってしばらく経ち、私たちは普通に雑談するくらいにテンションを戻していた。


 やはり長年付き合ってきた親友ということで、仲直りするのも早く、もっと言えばスライムになってから気持ちがある程度流れ込んでくるので行き違いもなく、立ち直ることができた。


 そして今は夜。


 不思議な獣の鳴き声も聞こえず、かすかに虫の鳴き声が聞こえてくる程度で、他には砂浜によせる波の音ぐらいの静かな海辺。


 赤い大樹の下でただゆったりと海を眺めていて、リラックスしている。


 気分は南国リゾートで静かなバカンスを楽しむ富豪。


 ヘイ!アップルジュースハマダデスカ?アーハーン?


 (そういえばのーちゃんは英語のテストいっつも赤点ギリギリだったよね。)


 (その点につきましてお世話になりました。)


 また心が筒抜けになったか。ちなみにいつもギリギリで赤点を回避できていたのは美景の涙ぐましい努力の成果であった。


 え?私?そりゃあ必至で勉強しましたよ。なんてったってほんとに半泣きになりながら必死で教えてくれる美景先生がいましたからね。


 なんでそれほど必死に教えてくれたのか。彼女曰く「赤点取ったら補習があるんだよ!一緒に遊べなくなっちゃうんだよ!」ということらしい。


 いや、別にまったく遊べなくなるわけじゃ無かろうに。なんてことを言うと、決まって一層怒り出すので最近は何も言わずに勉強を教えてもらっている。


 いや、もらっていたとしたほうがいいか?


 ・・・うん。これ以上は考えちゃだめだな。


 (ところでのーちゃん。)


 (なに?)


 (スライムって寝るの?)


 (・・・ど、どうなんだろう。)


 スライムが寝るのか。これはまた難しい問題ですね美景さん。


 人が睡眠を欲するのは、主に脳のクールタイムが必要だからとか、情報の整理をするためだとか、体を健康に保つ物質を生成するためとかいろいろと考えられていたと思うのだが。


 スライム状態の私。今疲れているのかすらわからないし、そもそも脳が見当たらない。


 じゃあなんで考えられるんだよってところなんだけどこれはもう思考を放棄している。ただ不思議パワーが働いているとしか説明できないのだからしょうがない。


 大体スライムの生態とか知るわけないし。リアルでスライムを見たこともあるわけないし。


 なので結局スライムに睡眠が必要なのか。そもそも寝ることができるのかを検証してみることになった。


 まずは寝ようとしてみる。


 やり方としては、私と美景は視界を閉じ、何も考えないようにぼーっとしてみる。


 そういえば目なんてないはずだけどどうやって見てるんだろう。瞼ないのにどうやって視界を遮ってるんだろう。謎だ。


 しばらくそのままにしてみるが一向に眠たくならず、結局謎が増えるだけだった。


 次は睡眠が必要なのか検証。


 これは単純に寝ないで過ごすだけなので、私たちは談笑することにした。

 

 もちろん思念でのやり取りなので、第三者が今の私たちを見たら、不動の姿勢で赤い大樹の下に鎮座する変なスライムに見えることだろう。


 というかむしろスライムとして認識されないんじゃないだろうか。


 今度人が通りがかったら動かないで見よう。モンスターだったら・・・うん。車になってさっさととんずらだ。


 そして時は過ぎ、早朝を迎えた。


 鳥らしき声がうっすら聞こえてきます。


 はい、朝チュンです。


 けれど一向に眠くならない私たち。ちなみに疲労感もなく、むしろ太陽光を浴びてすっきりとした状態です。 


 う~ん。いい朝です。


 (全然眠くならなかったね。)


 (そうだね。というか疲れないし眠くならないし、もしかしてスライムって不眠不休で動ける仕事大好きっこなのかな?) 


 (仕事はわからないけどずっと動き続けられそうだよね。エネルギーとかどうなってるのかな。)


 確かに。

 

 スライムといえど生き物。ならばエネルギーが必要なのではないだろうか。

 

 モンスターだから魔力的なものを取り込めばいいのだろうか。それとも普通に肉とか野菜とか食ってエネルギーを生成するのだろうか。スライムだから消化器官みたいなものはないけど、物を取り込めば溶かして吸収とかできそう。


 ということで実験。


 赤い大樹の付近にある草を吸収してみる。


 と、そこで問題が一つ。どうやって取り込むの?


 今まで形状変化やら回転やらで体の動かし方はそれなりにできるようになってきたけど、体へのものの取り込み方は全く分からない。


 大体全体が体であり手であり足なので、口に当たるものがまったく見られない。


 ゲームで出てきたリアルっぽいスライムは確か相手に触れたり乗っかったりしてそこから消化吸収していたように思えるけど、私が草とか石とかに乗っかっても吸収しないどころか引っ付くこともない。


 そういえば粘液でできているくせに全くその粘液が他に付着することがない。

 

 これおかしくない?


 もしかして表面にある粘液は触っても問題ない上に中身の粘液が漏れないような保護膜の役割があるんじゃ。


 そこまで考えてひらめいた。けどこれって結構危ない?


 (思いついたんだけど、表面の粘液に穴をあけて、そこに物を入れたら吸収できるんじゃないかな?)


 (でものーちゃんの仮説だと中の粘液は垂れ流れたり周りに付着したりするかもってことだよね。もし中身ぶちまけちゃったりしたら危ないんじゃないの?)


 (上のほうを開ければ大丈夫だと思う。あと小さく開ければそれだけで一気に漏れ出ないようにできるし。一度試してみていい?)


 (まあちょっとだけならいいか。)


 頭脳担当からのお許しも出たので早速頭上に小さな穴をあけてみる。なんかスースーする感じがするけど気のせいかな?


 そしてトング型アームで草を少量引き抜き、いざ、実食!


 あけた穴に入れた草は中の粘液に触れた瞬間少し白い煙を上げながら溶けていく。草が完全に粘液が浸かったところで穴をなくしてしばし消化を観賞。なんか体の中を直接見るのって変な感じ。


 味は全く感じない。感じないか~。まあ草だし別にいいかな。で、少し体に変化があった。草が消化されている間にそれに比例して少しずつ体が大きくなったのだ。


 でも本当に些細な変化しかしていないから誤差の範囲。薄皮一枚くらい大きくなったかなって感じだから大きくなったったって実感があんまりわかないんだよね。


それでも何故大きくなったのがわかったかというと、大きくなる寸前、体の表面に薄い膜のようなものが覆って、それが体に馴染んだからだ。


うーん。ファンタジー!

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