第25話 服選び


店の中に入ると、そこには煌びやかなドレスやタキシードなどが並べられていた。


ミレイアは、その光景に驚き店の入り口で立ち止まっていたがイオルは、そんなの関係ないとばかりにドレスやタキシードの前を素通りして店の奥に進んでいった。


「ちょ、ちょっと待ってくださいイオル様。」


置いていかれそうになったミレイアは慌ててイオルに近寄る。初めて来た高級店で1人になってしまったら怖かったのだ


「へいへい」


そう言いながらも店の奥に進んで行くとさっきまでのパーティなどで着るような服ではなく普段着れそうな服が並べられていた。


「これは…」


ミレイアが驚いているのをみてイオルが


「そうだぞ。ここはドレスとかも売ってるがこういう普通の服も売ってるんだ。じゃなきゃ俺がここの店で服を買う訳ないしな。」


店に入った時の衝撃がすごかったのでイオルがこの店で服を買っていたことなど忘れていたミレイア。そう言われると確かにイオルがタキシードなど着ている所は見た事がない。


「なるほど。そうだったんですね」


「よし、じゃあこの中から好きな服を選んでこいよ。値段は気にしなくていいから気に入ったのを選べよ。あと、俺が選んだ服も着てもらうからな」


「えっ、イオル様も選ぶんですか?」


ミレイアは不安そうな顔でイオルを見てくる。


「なんだよ、その顔は不満なのか?」


「い、いえ…そういう訳ではないのですが」


明らかに何かありますといった顔でミレイアが言う


「別に気にしねーからさっさと言えよ」


イオルがうんざりするように告げるとミレイアが口を開いた。


「言いにくいのですが…イオル様の普段の服のセンスを見ているとどんな服を選ぶのかと不安になりまして」


心苦しそうに言うミレイアにイオルは心外だとばかりに


「おいおい、ミレイア。流石にそれは失礼だぞ。俺は、普段どこにも行かないから着心地の良いだらっとした服を着ているが別にちゃんと選ぼうと思ったら選べるわ、現に、今日だってちゃんとした格好だろ?」


イオルの弁解を聞きミレイアは、イオルの全身を見る。今日最初に会った時から思っていたがイオルのこんな格好は初めてみた。


「確かにそうですね。今日の服は素晴らしいと思います。」


素直に謝るミレイアに機嫌を良くしたのか


「分かればいいんだよ。それじゃあ、服を選んできてくれ」


「はい、わかりました。」


そう言うとミレイアは、服を手に取り楽しそうに選んでいた。




ミレイアは、なかなか服が決まらないのかしばらく店の中を右往左往していた。イオルもミレイアがあまり着なさそうな服を探して店の中を歩いていた。



ようやく選び終わったのかミレイアがイオルの元にやってきた。


「決まったのか?」


「は、はい。」


そう言ってミレイアが持っていた服を見るがミレイアは一着しか持っていないようだった


「なんで一着しか持ってないんだ?」


もっと多く選んでくると思ったのでイオルは聞いた


「え、ええっと…高かったですし何着も買ってもらう訳にはいかないかなと…」


ミレイアはイオルに遠慮しているようだったので


「そんな事気にしなくていいからさっさと他に気に入ったのも持ってこいよ。普段苦労させてるしこれくらい気にするなよ」


普段苦労させている事を分かっていてイオルはだらけているのかと一瞬思ったミレイアだったが気にしなくていいと言われたので先ほど泣く泣く諦めた何着かを持ってきた。


「ふむ…」


イオルはミレイアが選んできた服を見て何か考え込んでいた。


「…どうしました?」


服を見て考え込むイオルを見て不安を覚えたのかミレイアが恐る恐る聞いた


「いや、なんでもないぞミレイアらしい服だなと思っただけだ。」


ミレイアが選んだ服はどれもシックな物でイオルが見たかった意外性のある服はなかった。少しがっかりしたがそんな時のために、しっかりイオルもミレイアの服を選んでいた。


「それじゃあ、ミレイアこれを着てきてくれ」


スッとミレイアの前に先ほど既に会計を済ませておいた服を差し出す。

差し出した服を見てミレイアが慌てていた。


「ちょ!イオル様こんな服着れませんよ」


イオルが差し出したのは、ピンク色のワンピースで脚が見えるセクシーなものだった。

普段、長いパンツしか穿かないミレイアには、脚を出す事がすごく恥ずかしかった。

顔を真っ赤にして断ろうとするミレイアだったが次のイオルの一言で何も言えなくなった。


「大丈夫だって、ちゃんと似合うから。それにこれ着ないとさっきの服代出さないかもよ?」


先ほどまで気にするなと言っておきながらすぐに手のひら返しをしたイオルは、ニコニコしながらミレイアに言った。


それを聞いたミレイアは、もう抵抗を諦めたのかイオルが持っていたワンピースを手に取り試着室の方へ歩いていった。




少しして着替え終わったのかミレイアが戻って来たのだが、イオルは自分で選んでおきながらその姿をみて驚いていた。


「お、おお!すごいな。普段と印象が全然違っていいと思うぞ。」


ミレイアが今まで着ている事を見た事がないピンク+ワンピースというだけでも破壊力がすごいというのに、さらに普段はタイツなどで隠されている生脚まで見えていてイオルにも効果抜群だった。


「そ、そうですか…ありがとうございます。」


イオルの反応にホッとしつつもやはり恥ずかしいのか顔を赤くしながらワンピースを必死に伸ばして脚を隠そうとしているがその姿がまた可愛い。


ミレイアのワンピース姿を満喫したイオルは、先ほどミレイアが選んだ服の会計を済ませると店を出て行こうとしたがミレイアが止めた


「待ってください、イオル様。私は着替えてくるので少し待っててください。」


そう言って試着室に向かおうとするミレイアにイオルが声をかけた


「その必要はないぞ、ミレイアにはこのままの格好でいてもらう」


後ろを向いて歩き出そうとしていたミレイアの足が止まった。そして顔だけギギギとイオルの方へ向けると


「何を言ってるんですか?」


底冷えするような声を出すミレイア


「ただ着て終了なわけないだろ。それにミレイアがさっきまで着ていた服はここにある」


そう言ってミレイアに見えるように袋に入ったさっきまでミレイアが着ていた服を出すイオル


「な、何をやってるんですか⁉︎」


流石に服を取られているとは思っていなかったのかミレイア顔を赤くしながら驚愕の声を出した。


「ははっ!まあ、諦めてそのワンピースで来るんだな」


そう言い残すとイオルは本当に店を出て行ってしまった。


ミレイアは、しばらく決心が出来ずに店の中で迷っていたがいつまでもこうしていられないと思い覚悟を決めて店を出て行った。


「ありがとうございました」


深々と頭を下げる店員さんに見送られながら…


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