第20話 なんか戦闘短かった
イオルは、魔導士を抑えていたが徐々に焦りが大きくなってきていた。
戦いは、人数が少ないにも関わらずアリーシャの冒険者達も頑張っているが既に2、3人が馬車の方に抜けていた。
(あれ?これやばくね?このままじゃハンナがこっちに来る前にアリーシャの馬車の結界が破られちまう…)
戦況が芳しくないことを感じつつ時間を稼いでいたイオルだったが、流石に保たないと感じ作戦を変更することにした。
(もう、出来るだけ速くあいつを倒してドンゲルを倒すしかないな。)
敵の魔導士であるアルスは、イオルの動きの変化を感じていた。
(うん?何かさっきまでと動きが違う…というよりは何かを狙っているような気がしますね)
アルスも戦闘の経験が豊富なのでイオルの変化に気づき警戒をしながら攻め続けた。
アルスから放たれる魔法は、どれもイオルの盾で防げる威力なのだがほとんど間髪を開けずに発動してくるため反撃の隙を見つけるのが難しかった。
(このままじゃ時間切れで負けちまうか…。)
アルスの方もこのままでは無駄に魔力を消費するだけの状況に嫌気が指したので強い魔法を使って片付けることにした。
「悪いですがもう終わりにさせてもらいます。」
アルスはそう言うと左手に持った杖を天に掲げ詠唱をし始めた。
「雷光よ 地に轟く怒りよ 降り注げ!」
アルスが詠唱を終えるとバチバチという音が戦場に響き渡り上空に蒼い雷が出現していた。
突然の音に戦闘をしていた者達は皆戦いを止めて上空を見上げていた。
蒼い雷が出現してからは、ほとんど一瞬の出来事だった。
雷は、槍の様な形になると上空からイオル目掛けて放たれた。
今までを遥かに凌ぐ轟音が響き渡りイオルのいた周りは眩い光に包まれていた。周りの冒険者達は何が起こっているのかハッキリとは分からなかったが先ほどの雷が放たれた事だけは分かっていた。
「イ、イオルさん!」
イオルが負けるなんて考えていなかったハンナだったが今、目の前で起きている光景をみていると最悪の予感が頭をよぎっていた。
「これで終わりですね。」
完全に勝利を確信したアルスは、アリーシャの乗っている馬車に向かおうとしたがそれは叶わなかった。
雷は10秒ほど降り続けていたがやがて収まると何やら戦場がざわついている。そんな様子に気づいたアルスが先程までイオルがいた場所を見てみるとそこには、立っているべきでは無い人物が立ち続けていた。
アルスが魔法を放つ直前、イオルは雷が出現したのを確認したら直ぐに自分の上にシールドを出現させ得意のエンチャントを掛けギリギリ防御に成功していた。雷は、イオルの予想より威力が大きかったが魔法をかけ直し続けて防ぎきっていた。
(あっぶねぇ〜。間に合わなかったら一瞬で死んでたわ…)
内心少し死を覚悟したイオルだったが何とか生還した。
「な、なんだと⁉︎あの上級魔法を防ぐのか⁉︎」
まさかあの雷を防げるとは思っていなかったアルスは動揺して隙を見せてしまった。
その隙を見逃さすイオルでは無いので動きを封じるための杭を放つ魔法を発動させた。
「我が敵を貫き拘束せよ!」
中級魔法のパイルランスで6本の杭を生成しアルスに向かって放った。
アルスもそれに反応して躱そうと身体を捻っていたが避けれたのは2本だけで4本は身体を貫いていた。
杭自体にダメージは無いが身体を貫かれたことによってバランスが崩れ立っている事が出来なくなり倒れ込むアルス
「くそっ!」
なんとか杭を抜こうとするアルスだったがイオルは、追撃の手を緩めることなくさらなる魔法を発動させた。
「我が敵を縛り上げろ」
イオルが最もよく使う拘束系の魔法であるチェインバインドで光の鎖を出現させると貫かれた状態の上からさらに縛り完全に動けないようにした。
「さてさて、これでお前は何も出来なくなった訳だが何か言うことある?」
ニヤニヤしながらアルスに嫌味ったらしく問いかけるイオル
「くっ…何もない」
「まあ、中々強かったぞ。雷落とした後に隙を見せてなければもう少しヤバかったと思ぞ。次は多分ないけど今言った所を治せば良かったぞ」
そう言うとイオルは、地面に拘束されて倒れているアルスに向かってスリープを使い眠らせた。
ひと段落したので戦場を見渡してみると敵側の兵達には動揺が走っていた。
アルスは、敵の中心的人物であり戦闘面でも精神面でも要的な存在だった。だからこそイオルは敵の士気を落とし劣勢の戦況を変えるために作戦を変更したのだ。
ここまで、思い通りに戦況が傾いたことにイオル自身も驚いていた。
(やばい、うまく行きすぎて逆に怖い)
そんなことを考え少しぼーっとしていたイオルだったが直ぐに現実に引き戻された。
「イオルさん!その魔導士を拘束したのでしたら早くドンゲルの元へ行ってください!こちらは私たちだけで充分ですから!」
敵はまだ動揺しているのかさっきまでより動きが悪いが、それと対照的にこちら側は士気が高まっており戦況は大分有利になっていた。
自分たちの勝利が近いことを感じていたハンナは敵の兵と戦いながらイオルに叫んでいた。
現実に引き戻されたイオルは、先ほどまで戦場の後ろにいた馬車の方へ視線を向けたが魔導士の敗北によって負けを感じたのか馬車は既にそこには居なく森の中を進んで逃げ出して居た。
「おいおい、味方の兵を置いて逃げ出すのかよ…」
そんはドンゲルの行動にイオルも思わず呆れた声を漏らした。
アルスの敗北など予想もしていなかったドンゲルは、敵の魔導士であるイオルに恐怖を感じ直ぐに戦場を後にした。
「おい!もっと急げ!戦場から早く離れるんだ!」
自分がアリーシャに行ってきた事を考えると捕まったらタダでは済まないと分かっているのでドンゲルは馬車の御者に怒鳴り散らす。
「くそっ!くそっ!何故アルスはあんな奴に負けたのだ!使えん奴め!」
込み上げてくる不安を押し込めるように大声を出し続けているドンゲルだったが直ぐにそれも止まることになった。
ガタン!
馬車の御者も突然の出来事で何が起こったのか分からなかった。中に乗っていたドンゲルも急停止に馬車の壁に身体をぶつけていた。
「な、なんだ⁉︎何が起こった!」
「確認してきます!」
慌てて御者に質問するが答えは御者にも分かっていなかった。御者が降りて馬車を確認すると馬車の車輪には鎖が絡みついていてその鎖は後方から伸び続けていた。
既に馬車が見えなかったイオルは、走って追いかけるのも面倒だったのでどうせ馬車の通れる道なんて一つしか無いんだから魔法を撃てばぶつかるだろう位の気持ちでテキトーに鎖を放っていた。
しばらく鎖を放った先を見つめていると6本放ったうちの2本に衝撃が伝わったのを感じた。
「……捕まえた。」
そう呟くととイオルはゆっくりと鎖を辿って歩き始めた。
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