第21話 ようやく解決!


イオルは、鎖を辿って歩いていたのだが馬車の姿が見えてから自分のミスに気づいた。

鎖は馬車の車輪に絡まっておりその側には御者と思われる男が1人立っているだけだった。


(あっ!ゆっくり歩いて来たけどドンゲルに逃げられてるんじゃね?)


「おい、中に人は乗っているのか?」


「い、いえ…先ほどまでは居ましたが…」


御者と思われる男は怯えた様子で答えた。


「分かった。」


イオルは、御者の男に返事を返すとドンゲルが進んで行ったと思われる方向へ走り出した。


少し走って馬車の姿が見えなくなったらイオルは突然立ち止まりしゃがみこんだ。

イオルは、御者の前では冷静を装っていたが内心はすごく動揺していた。


(うあぁぁぁぁ〜〜〜、はっずかしいよぉ〜〜余裕ぶっこいて歩いて来たのに逃げられてるって何だよぉ〜〜)


顔を赤くして一人で森を転がっていた。

しばらく転がって恥ずかしさも薄れたのか何事もなかった様に立ち上がるとふと思い出したかのように魔力探知を使いドンゲルの居場所を探した。



少ししてドンゲルの魔力を見つけると今度は逃さないように自分にエンチャントを掛けて走って追いかけはじめた。


(向こうのスピードはそれほどでもないし直ぐに追いつく事が出来そうだな)



走っているとドンゲルの後ろ姿が見えてきたので鎖を出現させあっという間に拘束した。


「ぐっ!な、何をする!」


地面に倒れてながらドンゲルが叫ぶ。冷ややかな目でそれを見下ろしながらイオルは


「お前がドンゲルだよな」


「そ、そうだ!だからさっさと解放しろ!金は幾らでもくれてやる!」


ドンゲルは立場を分かっていないような偉そうな態度でイオルに言う


「いや、金とかいらないから。お前は兵士の詰所に突き出してやるから」


「な、なんだと⁉︎それはやめろ!」


兵士に突き出すと言われて流石に焦り始めるドンゲル


「まあ、アリーシャを狙ったのがいけなかったな。他に何もしてなかったらそこまでの罪にはならないだろうぜ。アリーシャ生きてるし」


イオルは、一応フォローを入れるがドンゲルは顔を青くしていた。


「他にも心当たりがありそうだな。自業自得だ

それじゃさっさと馬車の元に戻るか」


そう言うとドンゲルをスリープで眠らせきた道を引き返していった。


しばらく森を歩いているとアリーシャ達のいる場所に戻ってきたが戦闘の音は止んでいた。


「あ、イオルさん!大丈夫でしたか?」


イオルに気づいたハンナが駆け寄ってくる。


「おう、そっちも終わったのか?」


「はい、先ほど無事に勝利しました。」


「そりゃ良かった。ほれ捕まえてきたぞ」


そう言うと鎖で捕まえたドンゲルをハンナに突き出すイオル


「捕まえたんですね…それでそいつどうするんですか?」


ハンナは、憎しみが籠っている目でドンゲルを睨んでいた。


「兵士の詰所に引き渡そうと考えているけど…」


それを聞いたとハンナは必死にイオルに詰め寄ってきた


「イオルさん、甘いですよ!会長の命を狙ったんですからここで始末してしまうべきです!」


「いやいや、落ち着けって。こいつ殺したら入ってくる金も入ってこなくなるぞ」


2人がそんなやり取りをしていると戦闘の音がしなくなったのに気づいたのか馬車の中にいたアリーシャがこちらに走ってきていた。


「2人とも無事だったのね!」


「あぁ、問題ない。」


「はい、会長大丈夫でした。」


アリーシャは安心したようで胸を撫で下ろしていた。


「それで、何の話をしてたの?」


2人が言い合っているのに気づいていたのか問いかけてくるアリーシャ


「うん?こいつをどうするか話し合ってたんだよ」


そう言ってアリーシャに眠っているドンゲルをみせる


「ドンゲルじゃない!捕まえたのをね。それで、どうするって?」


「いや、兵士の詰所に引き渡すか殺すかだよ」


そう言ってアリーシャの意見を求めるイオル


「会長どうされますか?」


ハンナは、アリーシャの意見を尊重するようで答えを待っている


「うーーーん」


しばらくアリーシャは唸りながら考え込んでいたがようやく結論が出たのか顔を上げた


「決めたわ!こいつは兵士に引き渡すわよ!」


アリーシャの答えが意外だったのか尊重するつもりだったハンナは思わずアリーシャに質問する


「ど、どうしてですか会長!こいつは会長の命を狙ったんですよ!」


納得出来ないハンナにアリーシャはしっかり説明をして。


「まあ、落ち着きなさい。こいつを殺してもいいけどそれじゃあ私たちのメリットにはならないじゃない」


アリーシャの言っている意味が分からなかったようでハンナは首を傾げていた。


「どういうことですか?」


「つまり、殺したら何も手に入らないが兵士に引き渡せばあいつの商会から金を奪えるかもしれない上に罪が重かったら商会が潰れる可能性もあるからそしたらそれはアリーシャの利益になる。」


ハンナの質問に今度はイオルが答えた。


イオルは、ドンゲルの所為で仕事をする羽目になったので多少は恨んでいたがアリーシャの性格を考えると私怨よりも利益を優先するだろうことは分かっていたのでこの提案をしたのだ。


「わかりました…」


イオルとアリーシャの意見を聞き完全には納得していないようだったがハンナは引き下がった。



「それじゃ疲れたしさっさと帰るか」


話し合いは終わったのでイオルは乗ってきた馬車の方へ歩いていった。



それからアリーシャ達は襲ってきた冒険者たちをイオルの鎖で縛り動けなくすると流石に人数が多く連れていけないので森に転がしておき魔導士とドンゲルだけ馬車に詰めて森を出発した。



森を出てからは特に何もなく街の前まで着くことが出来た。

門の前に着くとハンナが馬車を降りていき門番と少し話して戻ってくると馬車は街の中に通された。


門の前には、他にも街の中に入るのを待っている人たちが並んでいるのを見ながらイオルは、


(やっぱ、アリーシャの商会の力ってすげぇんだなぁ)


そんな事を考えていると、馬車は街の中に入っていき本来なら真っ直ぐ商会に戻る道を今日は兵士の詰所に向かって進んでいた。



詰所に着くとドンゲルと魔導士を突き出したアリーシャに、兵士たちは驚き事情の説明を求めてきたのでアリーシャとハンナは詳しい説明をしていた。イオルは、めんどくさかったので馬車の中に残り眠そうに舟を漕いでいた。




どれくらい経ったのか分からなかったが戻ってきたアリーシャにイオルは起こされた。


「ちょっとあんた!何私たちが苦労して説明してきたのに寝てるんじゃないわよ!」


眠っていたイオルに腹を立てたのか大声で起こしてくるアリーシャ。

ハンナも寝ていたイオルに思うところがあったのかシラーッとした目でイオルを見ていた。


「う、うぅん?あぁ2人とも戻ってきたのか…」


まだ眠いのか目はほとんど閉じたまま問いかけるイオル


「そうよ、ようやく説明が終わったから帰るわよ!」


まだ、怒りが収まっていないアリーシャは、いつもより少し大きな声で返事をした。


「それで、どうだったんだ?」


目は完全に開いてはいないが状況は忘れていなかったようだ


「ドンゲルは、これから商会の方にも調査が入ってそれから判断するそうよ。とりあえずこちらには幾らかのお金が入ってくるみたい。魔導士の方もお金と他に罪が無いか確認するみたいよ」


アリーシャは、予想通りお金が入ってくることで納得いるのか淡々と説明してきた。

ハンナは、少し不満そうな顔をしていたが


「そうかい、そりゃ良かったな。それじゃ帰ろうぜ」


アリーシャが納得しているならイオルは特に何も言うつもりはなかったので帰りを促して再び目を閉じ寝息を立てはじめた。



そんな様子のイオルに、一瞬アリーシャは文句を言ってやろうと思ったが文句をを呑み込んで

この場に男がいたら誰しもが見惚れるであろう満面の笑顔で別の言葉を伝えた。



「ありがとうイオル。本当に感謝してるわ。あなたが居てくれて良かった。………大好きよ」


アリーシャの最後の言葉は小さくて聞こえなかったが感謝の言葉は同じく馬車に乗って居たハンナには聞こえていたのかハンナは微笑ましいもの見た顔をしていた。


それに気づいたアリーシャは、慌てて顔を赤くしながら言い訳をし始めた。


「べ、別になんでもないのよ!こんな奴のこと何とも思ってないし変な勘違いしないでよね!」


「大丈夫です。私は何も勘違いなどしていませんから」


ハンナは最後の言葉が聞こえていなかったので本当の事を言っているのだがアリーシャは、自分の気持ちがバレたと思い必死だった。


そんな二人の他の人からすれば仲のいいじゃれ合いにも見えるやり取りは馬車が商会に着くまで続いた。



「うぅ〜〜ん。うるさぁい……」










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る