第10話宮廷魔導士仕事をする


昼食を食べ終え街をぶらぶら歩いきながら会話をしていると


「……ん?」


イオルは周囲を気にするように辺りを見回すが特に気になることは何もなく首をかしげた


「ねぇ、イオル。あんたはどれくらいこの街にいれるの?」


「え?休みをもらったのは明日までだから一応明日帰るつもりだけど…」


一応とつけるあたり明日帰りたくなくなったらこの街に残る気満々なイオルだがおそらくそれをすると王都に帰ったあとのミレイアの怒りが倍増することになるのは容易に予想できる。


「明日⁉︎じゃあ、あの魔道具はどうするの⁉︎明日までには多分完成しないわよ!」


「まあ、そうだろうなぁ。」


「そうだろうなぁ、じゃ無いわよ!完成させるために私のところに来たんじゃないの⁉︎」


「いや、今回来たのは魔道具を見せてアイディアを考えてもらう為であって直ぐに完成させようとは思ってねーんだよ」


イオルがあっさり完成させる気は無いと言ったのでアリーシャは呆けてしまった。


「そ、そうなの…?じゃあ、ホントに魔道具を見せるためだけに来たのね。」


「ああ、そうだ。俺の方でもアイディアを考えてみるけど何か思いついたら王城に手紙でも寄越してくれ。」


「わかったけど…王城の人にちゃんと話つけときなさいよ。じゃないといくら送ってもあんたに届かないから」


「わかってる、わかってる。ちゃんと話は通しとくよ」


イオルの返事はてきとうだったが王城の件が解決しそうでアリーシャは嬉しそうだった。




「それじゃあ、イオルこれからどうするの?魔道具は別に完成させるつもりはないんでしょ?」


「いや、完成させるつもりが無いとは言ったけど早く出来るに越したことはねーんだよな。だからまた、魔道具についての意見の出し合いでもしねーか?」


「そうね…今出来ることと言ったらそれくらいしかないと思うしそうしましょうか」


「じゃあ、早く商会に戻ろうぜ」



そう言って商会に向かってイオル達は歩きだしたのだが少し歩いてからイオルが声を小さくして話を切り出してきた。


「なあ、誰かにつけらてるっぽいんだけど何か心当たりあるか?」


「え!…それ、本当?」


アリーシャは大声を上げそうになったがすぐにマズイと思ったのか声のボリュームを落とした


「本当ですかイオルさん?」


一緒にいて護衛をしているハンナも声をかけてくる


「うーん。たぶんな。確証はないんだけど何か視線を感じるような気がするようなしないような…」


「それ、どっちなのよ。ハッキリしなさいよ」


「だけどまあ、そんな大したことにはならないと思うぞ。普通に俺に気づかれてるくらいだしな」


「ですが、イオルさんは宮廷魔導士ですから気づかれたのかもしれませんし、現に私と会長は気づけませんでした」


「そうなのかなぁ?ホントは何でもなかったから気づかなかっただけかも知れないぞ」


「それを言ったらキリがないじゃない。今はあんたが感じた視線が本物だった場合について考えましょう」


「そうですね。最悪、会長を攻撃してくる可能性もあります」


イオル達は極力相手を刺激しないように先ほどより声のボリュームを落とし周りを警戒しながら商会までの道を辿っていた。


「でも、そうするとイオルがいる間に攻撃してくれた方が私としてはありがたいんだけどね」


「おいおい、勘弁してくれ。厄介ごとに巻き込まれるのはゴメンだぞ」


「あんた、私がどうなってもいいの⁉︎命を狙われてるかもしれないのよ」


「そうですよ、イオルさん。会長が危険にさらされてもいいと言うのですか?」


先ほどまでストーカーを警戒して慎重に会話していたのに二人してイオルに詰め寄ってきたのでイオルは慌ててしかし声のボリュームはちゃんと落として言った


「お前ら今の状況わかってんのか!妙な動きしてバレたと思われたらどうすんだ⁉︎」


その言葉を聞いて冷静さを取り戻したのか二人は慌てて離れて平静を装いはじめた


「あんたが変なこと言うからいけないのよ」


「別にお前の命が狙われていいとは言ってねーだろ。それに、そういう時の為の護衛だろうが」


「そうだけど…そうなんだけど…」


ハンナが居る手前イオルの方が頼りになるから守ってと言いたいがアリーシャは口籠ってしまった。


「会長…」


アリーシャの様子をみて何かを感じたハンナはイオルに向かって頭を下げた。


「お、おい⁉︎何頭なんか下げてんの⁉︎さっき相手を刺激しない方がいいって言ったばっかだろ」


「すみません、ですがお願いします!会長を守ってください。私よりも宮廷魔導士であるイオルさんの方が強いですし会長も安心できると思います。」


「おい、とにかく頭あげろ」


イオルがそういうとハンナはようやく頭を上げイオルの目を見てきた。アリーシャも何かを期待するような目でイオルを見つめている。


「ハンナに一つ言っておくが俺は別に強くはない、攻撃魔法使わないしな。それに俺は明日帰らなきゃいけないんだぞ、だから守るって言っても明日の昼くらいまでだぞ」


「そこを何とかなりませんか?」


「いや〜、俺も別にすぐに帰らなきゃいけないような理由がある訳でもないんだけどな」


「良いこと思いついたわ!」


アリーシャは何か考えが浮かんだようで声をあげた。

こんな会話をしている3人だがなるべく周りにバレぬようにと不自然にならないようにちゃんといつも通りを装って歩き続けていた。


「それで、良いことってなんだよ」


勿体ぶってるアリーシャにイオルが聞くと


「それは、私から王城あてに手紙を出すのよ。イオルに頼みたい仕事があるのでしばらく貸してくれってね」


「いや、けどそれで国王様が許可だすと思うか?」


「私からの仕事の依頼として手紙を出すのよ、そうすれば当然成功すれば王城にお金を払うことになるし、何より普段全く仕事をしないあなたに仕事をさせることが出来るのよ」


「それで納得するとは思えんのだが…」


まだしっくりきてないイオルに更にアリーシャは説明する


「よく考えなさいよ、どうせ王城に帰ってもあんたは多分仕事をしないわよね?」


「まあ、よほど気が乗らないと何もしないな」


「そんな奴を仕事しない可能性の方が高い王城に返すか王城に帰るのは遅くなるけどもう仕事をしているか、だったらどっちを選ぶと思う?」


「なるほど…そしたら後者を選ぶかもな」


「そうでしょ!だからしばらくは私の護衛をよろしくね」



ちょうど会話の結論が出たところでイオルたちは商会の前に到着していた。


「…結局何もなかったですね」


ハンナが辺りを窺いながら切り出してきた


「そうね、だけど今回は様子見だったのかもしれないわ」


「まあ、俺の気の所為の可能性もあるけどな」


「気の所為だったらそれでいいのよ。とにかくあと数日は私の護衛をしてよね」


改めて年を押すアリーシャに対してイオルは


「わかった、わかった。ちゃんと護衛してやるからそこは心配すんな。普段仕事してないけどちゃんと宮廷魔導士だから」


「知ってるわよ。護衛の仕事じゃあんたよりすごい人なんて知らないもの」


顔を少し赤くしながらアリーシャが言う


「へいへい、そりゃありがたいな」


「私も同じ護衛として頼もしいです。」



そんな会話をしながら3人は商会の中に入って言ったがその後方では1人の男が



「あの会長、街を出る前は護衛は1人だったはずなのに増やしやがったのか。くそ!上に報告しないといけないな」


そう呟くとその男は街並みの中に消えていった

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