第9話 魔道具制作は進まない



次の日、イオルは朝からたたき起されていた


「イオル!さっさと起きなさい!そして魔道具の説明を私にしなさい!」


王城ではなかったので結界を張って寝ていなかったのでアリーシャの声を遮るものはなく流石のイオルもあまりのうるささに目を覚ました


「うるせぇなあ、アリーシャもう少し寝かせろよ。」


「何言ってんの、もう8時よ。普通に起きる時間でしょうが」


「いや、俺が起きるのは基本的に昼からだから8時とか早すぎだから」


「うるさいわね。私の家に泊まってるんだから私がルールよ」


イオルは何を言っても無駄だと思ったのか眠そうな目を擦ってアリーシャに問いかけた


「朝食ある?」


「あるわよ、食堂に用意してあるから食べたら魔道具の説明をしてよね。」


「お前、今日予定とかあったんじゃねぇの?」


「そんなの全部キャンセルしたに決まっているじゃない。あんたとの話以上の儲け話なんて無いわよ」


自信満々にそう言うとアリーシャにイオルは呆れた表情を浮かべていた。





朝食を食べ終え昨日通された部屋に入るとアリーシャは待ちきれないとばかりにいきなり切り出してきた


「それで、その遠隔通信の魔道具はどんなのなの⁉︎」


「まあ、落ち着け。まだ作成途中だがこれがその魔道具だ」


イオルはそう言うと昨日ローブを出したのと同じように何もないところから手のひらより少し大きいくらいの金属で出来た長方形の物を取り出した


「それが魔道具?意外と小さいのね」


「ああ、こっちは声だけ届けるように作ったものだ。映像も届けようとすると大きくなって持ち運びは出来そうにない」


「それは別にいいんじゃない?映像つきの方は大事な約束の時とか家に居る時に使う用に作れば問題ないと思うわ。持ち運びのほうも問題なさそうね。あとは、昨日言っていたこととコストの問題ね」


「そうだな。それで昨日言った連絡する相手を選ぶ方法が思い付かなくてどうしようかと思ってるんだよ。」


「そうね…。魔石には今回どんな魔法陣を刻印したの?」


「今回は単純にテレパシーの強化版みたいなやつだよ。普通のテレパシーは一定範囲内にいる人物に声を届ける魔法だが、これは距離は関係なくお互いの魔道具がテレパシーの魔法を使い繋がるようにしている」


「それって試作した2台間でだけ繋がってるの?」


「そうだ、3台目も一応作ったんだが全く繋がらなかった。」


「なるほど…」


しばらく2人は意見を出し合ったが話し合いに進展はなく時間だけが過ぎていった。




「どうする、イオル?」


「なにが?」


「もう、お昼よ?」


「そうだな、じゃあ気分転換がてら外に食べに行くか」


「わかったわ、すぐに準備するから待ってて」


「了解」


そう言うとアリーシャは部屋を出ていった


アリーシャが部屋を出ていって少ししたら部屋のドアが開いて誰か入ってきた


「おはようございます、イオルさん。魔道具の件の話し合いはどうですか?」


部屋に入ってきたのは昨日会ったハンナだった。


「いや、まだこれといった案は出なくてな。完全に詰まってるんだよ」


「そうなんですか…。私も何か力になれればいいんですが、一般の魔導士では力になれませんよね。」


「いや、別にそんなことないぞ。アリーシャは魔導士ってわけじゃないし必ずしも詳しい奴の意見が正しいとも限らないしな。思わぬ所から正解が出てくる可能性もあるからな」


「ありがとうございます。では、私も何か考えてみます。」



「イオル〜行くわよー」


準備が終わったのかアリーシャが部屋に戻ってきた。


「あら、ハンナが居たの。ちょうどいいからハンナも一緒に昼食でもどう?」


「はい、会長が行くのでしたら護衛の私もついていきます」


キリッと護衛の表情になるハンナだがそんなハンナを見たアリーシャは苦笑しながら


「今日は、護衛の必要ないと思うわよ?」


「ど、どうしてですか?」


ハンナは理由がわからないのか同様している


「だってイオルがいるもの。イオルが何て呼ばれてるか知らないでしょ。」


「え?はい、知りません」


「教えてあげるわイオル「おい、アリーシャ止めろよ」はね」


イオルは自分の恥ずかしい通り名を呼ばれる前に話に割って入ってうやむやにしようとした


「何よ…邪魔しないでよね。今いい所なんだから」


「そうですよ、イオルさん。」


自分の話をしていたはずなのに何故か邪魔者扱いされたイオルは、もう止められないと諦めたのか黙って話の成り行きを見ていることにした。


「イオルの通り名はね、《絶対防御》よ!」


「《絶対防御》!す、すごいカッコイイ通り名ですね!」


「まあ、こいつが攻撃魔法使わないで結界魔法とかしか使ってないからそう呼ばれてるだけだけどね。攻撃魔法使えるのに…」


「そうなんですか、何で攻撃魔法使わないんですか?」


今の話を聞けば当然気になるハンナの質問を聞いたイオルは苦しそうな表情を一瞬したがすぐにいつも通りの表情に戻り


「まあ、いろいろあるんだよ。じゃあ昼食に行こうぜ」



イオルはそう言って部屋を出ていったがハンナは先ほどの質問をした後のイオルの雰囲気の変化に気づいており何か機嫌を損ねてしまったのでは無いかとショックを隠しきれていなかった。


そんなハンナをフォローするようにアリーシャが


「大丈夫よ、あれくらいじゃイオルは何とも思ってないから。私が前に同じこと聞いちゃった時もさっきみたいな表情してたけど別に怒ってはなかったし。でも、これからは、あいつの前であの質問はダメだからね」


「はい、わかっています。」


そう言うとアリーシャとハンナも部屋を出ていった。






昼食を食べるために街に出るとイオルは昨日は馬車の中にいたので見れなかった街の景色を楽しんでいたイオルだったが何故か周囲をキョロキョロ確認していた。


「どうかしたの?」


「…いや、半年前に来たときとあんまり変わってないけど何か前より綺麗になっなと思っただけだ」


「そうね、私たちが作った水の浄化装置たその改良版のトイレにつける浄化装置を街中に設置したからね」


「あれを設置したのか、じゃあこの街は今、王都よりよっぽど綺麗だな」


「そうかもね。まあ、ほとんど私の商会がお金を出して設置したんだけど」


「お〜お〜、相変わらず儲けてるまたいだな」


「あなたの所にもお金入ってるでしょ、開発料として売り上げの3割をちゃんと渡してるし」


「そういえば最近冒険者ギルドに入ってないから残高を確認できてないな」



この国ではお金を持っている貴族以外のほとんどの者は冒険者登録をしてギルドにお金を預けるのである。登録の時に貰える冒険者としてお証のギルドカードを店で専用の魔道具にかざすことによって買い物をする事ができるのだ。最近は、ほとんどの店にその魔道具が設置されているので現金を持たない冒険者も多い。


「だから私の存在を忘れるのよ。普通毎月お金を渡してる人のこと忘れないわよ」


「いや、開発した当初は確認してたんだけどよ月日が経つにつれてあまりにも額が大きくなっていって使いきれないくらいの額になってからは見るのやめたんだよ」


「まあ、あんたあんまり使わなそうだしね。それに宮廷魔導士としての給料もあるだろしね」


「そうなんだよな、使うのは魔道具作るときの材料が欲しくなった時くらいだ」



そんな事を話しながら歩いていたがハンナが突然とまり


「今日の昼食はここにしましょう」



その後もイオルは周囲を気にする素振りを見せていたがハンナが止まった先にあったいかにも大衆食堂というような店に入り昼食を食べた。





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