4話 鬱憤晴らし 後

「霊能力者、ですか?」

 古子は一言一句、慎重に言葉を発した。

「ええ。私は科学では説明できないことができる…そういう人のことを、貴女たちは超能力者とか、霊能力者とか呼ぶのでしょう…?そのどちらかといえば、霊能力者なのです」

 わけがわからない、と古子は心の中で舌を打った。突然無くなった痛みと、余裕を取り戻しつつあった古子はまたこれは理不尽な渦中にいる、と思わずにはいられなかった。

「今は子錆という街にいまして…バイパスが…いえ、ここら辺の説明はまた今度、ということで。別のところから貴女と話しています」

「はあ…」

「受け入れやすいかなと思って貴女の部屋を模したのですが…」

「あ、そういうことなんですか」

 古子は部屋を見渡した。あの朝、出て行った時と変わらない。積みあがった課題、文庫本と郵便物の混じった山、つけっぱなしのテレビに何も書いていないカレンダー。

 和装の…髙崎竜胆は音を立てず手を合わせた。

「では重要なことを話すので、聞き逃さないでください」

「まず、目が覚めたら、貴女はある程度動けるようになっています…包丁を抜いてはいけませんよ?それは楔です…そして、動けるからといって外に出ようともしないように…まあどうせ出られませんが…」

「あとは、ぬっへんほっふに会ったら、逃げずにこう唱えてください。


ばじゃーるすた ぷりしちみーにあ ばじゃーるすた


「繰り返さなくてもいいですよ」

「ぬっへ、なんです?」と古子。

 髙崎竜胆はああ、と手を口元にあてた。

「ぬっへんほっふは、あのレインコートのことです。ただ今は他にもいるみたいなので…そちらに会ったら、どうぞ、全力で逃げるように。朝までとは言いません。私がそちらに行くまで…そんなにかからないでしょう…それまで、殺されないで待っててくださいね」

「………」

「では、さようなら。また会えるといいですね」

 髙崎竜胆が目の前からかき消える。

 それだけではない。先ほどまで髙崎竜胆がいた場所は真っ黒く、ぽっかりと穴が開くばかりになっている。

 少しずつ、体が引っ張られているのを感じた。

 ひゅごぅーっ。


 古子は目を覚ました。今度こそ、はっきりとした覚醒である。

「クソ、もう、なんだってんだよ…」古子は頭に手を当てた。胸の上に刺さった包丁が動かされ、鈍い痛みを生む。鈍いものだ。掌をこすると、傷がなくなっていた。ストレッチャーから足を下ろせば石膏が煩わしい…が、古子の力でははがせない。このまま歩くしかない。

 古子は床に倒れた警備員の死体に気づき、ヒッと息を吐いた。立ち上がり、廊下に出る。相変わらず、緑色の、非常口への順路のみが光を発している。

 ここからどうしたものか。

 いや、どうするのではない。とにかく見つからなければいいのだ…あのレインコート人間…「と、他の何か…?」足元の警備員をみやる。これをやったのが他の何かなのか…?だとして何故自分は見逃されたのだろう。

「それは考えても仕方ないか…」

 とにかくここにはいないほうがいい。しかし、どこにいこう?入院してかれこれ3週間になるが、病室以外はほとんど知らないのだ…どこにいれば安全かなんてわかったものじゃない。食堂?ナースステーション?手術室?「こういうときのセオリーは…」

 屋上、か?

「…」さあ、どうする?

 古子は迷う。正解のない問いほど困るものはないのだ…と古子は思う。知恵熱がいらだちを生む。

「クソ、クソ、クソ、クソ」

 足が地団太を踏む。古子は石膏の足を引きずりながら階段へ走り出した。


 そのとき、彼女が目を覚ます。

 ここまで眠り続けた彼女は、喧騒の鳴りやんだ静かな病室で意識を浮上させる。

 

 レインコート人間は廊下を当てもなくうろついていた。出刃包丁と、奇妙な従者を伴い、自分の邪魔をした連中に出くわすまでうろつき続けるつもりでいる。


 キィ、と響く金音に古子はびくついた。屋上だ。古子は屋上に出ると、背後の、扉の前を見られる位置に、換気口に足をかけて上る。匍匐前進の体で下を覗く…今はなにもいない。古子は安堵のため息を吐いた。

 いや、安心するのは早い。

 一階と、二階と、三階。それらを探索しきったレインコート人間が屋上の扉に目をつけていた。

 レインコート人間と一人の男…警備員だった男は、屋上に向かおうとした。事実、レインコート人間の左足らしきものが階段の一つ目に足をかけ…主を見上げる警備員だった男に、針のようなものが直撃した。

 何が起きているか…もはや思考力もない警備員だった男にも、もちろんレインコート人間にもわかりはしなかった。ただ針のようなものに肩口を貫かれ、その部分があっという間に腐食し、ついには刺された肩から外にかけてが吹き飛ばされた。警備員だった男が反撃のためにその方向へ向き直る…今度はまた逆方向、背後から首を刺される。警備員だった男が何かする前に、胸元までが腐食し、頭が落下する。出てきたのはカビの生えた肉とすえた血。転がった頭の上に力なく体が倒れてくる。

 レインコート人間は刺身包丁を構え、廊下に出た。針が首と、胴に突き刺さるが、レインコート人間は意に介さない。針が抜かれ、再度別の場所に突き刺さる…が、やはりレインコートを貫通するだけで、肝心の本体には効いていないようだった。

 何かが駆ける音がする。非常灯に照らされ、ぬらぬらと光を灯す四足の獣…?ピンク色の肉塊に足と、小さな羽が生えている。真ん中に棘のついた口らしきものがある。歯舌歯のようなものだろうか…獣はレインコート人間に目掛け跳び、前足がレインコート人間の胸を直撃、そのまま押し倒したかのように見えたが、そうではない。レインコートがはだけ、無力にも落下したのである。獣は、その誰もいないレインコートをすぐずたずたに引き裂いたのではなかった。向かいからもう一匹の獣が現れる。こちら豚鼻で、羽毛のようなものが生え、蠍のような尻尾がある…まだ動物らしい姿だ。レインコートに鼻を近づけ、ふがふがと匂いをかぐ。会話でもするみたいに、首を振った。

 倒したわけではあるまい…そう言いたげである。あれがなんなのか、獣たちにはもちろんわからなかった。獣たちは意図して生み出されたものであるが、当人たちにその意識はない。ただこの病院で動くものすべてを殺せと、頭の中が言っているのである。

 よってこの場で殺せなかったとしても、それを深く掘り下げる真似はしなかった。

 二匹は顔…を見合い、示し合わせたように動く。豚鼻が階段を下に降りて行った。肉塊は屋上に向かう。

 一段、二段と短い脚で器用に階段を上る肉塊。

「うんみにーと うんみにーと」

 と、肉塊の背後から声がする。反射的行動ではない、これも、ただ音がしたから振り返っただけである。獣は、どこで見ているのか、振り返り、刺身包丁を振りかざす、右肩と首を失った警備員を認めた。すぐさま歯舌で胸を貫く。警備員服の刺身包丁が肉塊の表面に突き刺さる…真っ赤な血があふれ出て、肉塊は悲鳴を上げた。人間の女のような声だった。


 古子は扉から現れた人物を見て、思わずあっと声をあげそうになった。最近よく向かいにいるではないか、あれは、小野崎加恋である。

 小野崎加恋がふらふらと、屋上を歩いている。

 レインコート人間や、看護婦はどこへいるのだろう?それと、他の何かも。偶然か、それともなにか理由があって見逃されているのか、ここまで辿りつけた…何しに来た?

 古子は息を潜めて小野崎加恋を見守った。

 小野崎加恋。小野崎美玲の姉。小野崎家唯一の生き残りとなったもの…今はもうないが、古子の傷の遠因でもある。これまで寝たきりだった彼女が、このタイミングで目覚めるとは…いや、もしかして目覚めてない?古子は考えた。

 夢遊病か何かでここらへんを彷徨ってる…とか?

 声をかけそうになり、レインコートを思い出す。声は出ない。小野崎加恋は揺れながら歩いている…なにかを探しているようでもある。左右に揺れ、前後に揺れ、足取りはおぼつかない。古子はまたも声をかけそうになる。喉から、小さな『あ』が飛び出しそうになったとき、階下から女の悲鳴が聞こえる。小野崎加恋がくるーりと回れ右をした。目が合う。にっこりと笑われる。古子は苦笑いで返す。

 いや、今のなんだよ。

 苦笑いのまま、やはり沸々と脳が沸いている。心の中で古子はまた泣きそうになっている。「わけわかんねえよーぉ…」

 小野崎加恋が手招きをするので、古子は固まり、それから恐る恐る屋上の地面に降り立った。開いたままの屋上の扉を気にして、手招きに従ってしまう。

「ここ、すっげー危ないから、別んとこ行ったほうがいいよ」

「へ、えっと…」

「下で今ぬっへんほっふと叨がやり合ってるから。叨も悪くないけど…どうかな、たぶんぬっへんほっふが勝っちゃうだろうね。相性がクソほど悪い」

「…もしかして髙崎さんのお知合いですか」

「あん?ああ、君ももうちっと生きたいでしょ…いずれ死んじゃうんだろうけど、ほら、どっかいきなよ」

 質問はスルーですか、と、古子はもう次の言葉を喋れない。

「でもそうか、下でちょうどやってるんだもんな、迂闊に降りれないか…ちょっとサービスしてあげるよ。てぇ出して」と云いつつ、古子の手を取る小野崎加恋。

「あのこれ、マジでなんなんです?」

「移動!」

 暗転。

 気が付くと、トイレにいる。

 古子は頭を抱えた。

 ここまでのすべてを整理させるのに、このトイレの個室という空間はぴったりだった。それだけに、このわけのわからなさが苛立った。情報が致命的に不足しているのだ…この状況がいったいなんなのか、正確に説明することなどできないし、これといった予想建もできそうになかった。

 自分の立ち位置はどこになるんだろうか?

 支離滅裂すぎないか?

 自分は爆弾にやられたのだ…それで、えっと、やっぱり今、命を狙われているのかもしれない。それ以外は何一つわからない。わからないといえば、自分が律儀に入口へ向かわなかったことも分からない。髙崎竜胆の言葉なんかに従わず、すぐ外に出てみるべきだったのでは…?そもそも自分は本当に髙崎竜胆に会ったのか?あれは夢では…しかしなぁ…と掌を撫でる。足踏みもする。説明のつかないことは多い。

 考えたことは、それだけではなかった。髙崎竜胆と会ったとき(会ったとするならば)に現れた自分の部屋。ああ、もう…頭をぶつけたくなる。

 事実、軽くだが、のけぞるようにして頭が壁にぶつかる。乾いた鈍い音がする。

「そこに誰かいるの?」

 古子は個室を出た…懐中電灯を持った看護婦が立っていた。


「戻ったら夕月くん(若い警備員)が倒れてて…あなたもいないし…」

 看護婦は息を切らせながらそう云った。どうやらずっと病院の中を走っていたらしい。なんか変なものみませんでしたか、と訊くと、「さあ」と答えた。

「今が変なのはわかるけどね…」

 看護婦は険しい顔で云った。

「電話も繋がらないし、一回外に出てみようと思っていたの。そしたら貴女がトイレに…あのレインコートから逃げてたんでしょ?」

「えっと」古子はどう答えたものかと思った。どう話しても荒唐無稽になりそうで、看護婦が変なものを見ていないというなら、これが正気かわからなかった(仮に嘘であるなら、どういう事態であるかだけはわかるだろう)。

「はい、そうなんですけど、なんかそれだけじゃないみたいで」

「どういう意味…?」

「これです」

 古子は掌を差し出した。

「これ…これは…」と看護婦。「治ってる…の?初めからなかったってわけじゃないわよね」

「足もなんです。普通に動くんです」と足をプラプラ。

 看護婦はますますわからないという顔。

「さっき夢を見て…なんか変な女の人と話して目が覚めたらこうなってて…屋上に小野崎加恋がいて、それで…」

「小野崎加恋?あの子が目覚めたっていうの?」

「…なんかおかしいことなんですか?」

「まだわからないけど、あの子はほとんど植物状態だったのよ…いきなり目覚めるなんて…もちろんないとは言わないけど、こんなタイミングで…」

 看護婦はきっと眉を締めた。

「助けに行かないと、どこにいたの?」

「いや、いえ、あの!」古子はいまにも飛び出していきそうな看護婦の裾をつかんだ。「屋上ですけど、たぶん行かなくても大丈夫だと思います。落ち着いてるっていうか、なんか知ってる風な感じだったので」

「どういうこと?なんであの子がそんなに知ってることがあるの」

「いや私に訊かれても…」

 看護婦は参ったと頭に手を当てた。

「あなた以外に訊けないでしょ!」

「もっともです。はい」

 古子はひれ伏した。

「でも、上はやっぱり止めたほうがいいですよ…さっきのレインコートがいる(らしい)ので…あと他にも何か…」

「他?他っていうと…」

 看護婦は言いかけた。蒼白な顔になり、古子の腕を引いて走り出した。

 古子は引っ張られるままに回転しながら、廊下の向こうに四足の獣がいるのに気が付いた。豚鼻に羽毛…上階からレインコートを探しに降りてきた、叨の一匹であった。

 叨の針が飛ぶ。射程ぎりぎりにいた古子の後ろ髪の半分から下が溶けて落ちた。突然うなじに冷風を感じた古子は「ひゃひぃ」と驚き、転倒、看護婦を巻き込み、叨の二撃目が病院の壁に突き刺さる。

 ぎしぎしと壁から音が鳴った。かなり深いところまで差し込んでしまったか、針が抜けないらしい。チャンスだと古子は起き上がり、看護婦の手を取って走り出す。

 針の周辺が音を立てて溶けだした。金属を溶かし、無理やり針が引っこ抜かれる。叨は三度針を飛ばそうとし、止めた。古子たちは射程外に出ている。豚のように短い四肢ではしって追いかけるのにどれだけかかるかは分からないが、叨は走り出した。

「あれなんなの、あんなの見たことない」と看護婦。

「えと、たぶん叨っていうやつかと…」と古子。

 看護婦は走りながら古子を胡散臭げな眼で見た。

「それはあの子…加恋ちゃんが言っていたの?」

「はい…なんかぬっへん…なんとかと叨が戦ってるとかなんとか」

「上がまずいなら下に行きましょう。ここを出るのよ」

 廊下のコーナーを曲がる直前、はるか後方に走る叨の姿を見る。

 古子は息継ぎがうまくいかず、出られないと云えなかった。それを云おうとしたときにはまた別の疑問がわいていた。

「あの、さっきからなんですけど、加恋ちゃんて…あの子のこと知ってるんですか?」

 階段をどんどん降りる。三階から二階、二階から一階へ。

「ええ」と看護婦はあっさり云った。「あの子、体が弱くて…一年に一回は入院していたわ。爆弾は初めてだけどね」

「はは…」

「いい子だったわ。花を並べて見るのが好きでね、将来はフラワーアレンジメントの仕事につきたいとよく言ってた」

 つまり呪術やなんかとは関係なかったってことか。

 それが何故あんなこと言い出したのだろうか…猫かぶり?

 古子は先ほど会った和装の美人を思い出した。次いで、グスク・ニエ。今あれはどこで何をしているのだろう。そして古子は自分がグスク・ニエの云っていたことをちゃんと憶えていることに少し驚きつつ、中里介山に、行きついた。

 中里介山。作家ではない。大菩薩峠を書かなければ、氷の華も、高野の義人も書いていない、なんとか宗の呪術師。グスク・ニエに言わせれば彼(彼女?)こそが全ての元凶だという。

小野崎加恋は中里介山に取憑かれているのではないか?だからレインコートや獣のことを知っていた?もちろんあれがまた別の法から来た新手の何かでなければ、の話だが。

一階、エントランス。待合の席が暗く並ぶ、外界への出口。

「さて、外に出てみましょう」

 そういうと看護婦はスタスタ歩いて上下の鍵を開けた。

 考え事をしていた古子は一歩で遅れて、思い出す。

「それなんですけどあの」

「なに?」と看護婦。その手にかかった扉は、半分開いている。

「あれ…?」開くの?と古子は思う。開くのならまあ、いいのだが、竜胆の云っていたことは何だったのだろう。

 冷たい風が入り込む。看護婦に続いて外に出た古子は、肩口に刺さったままの包丁に手を添えた。

「抜いちゃだめよ。先生が捕まり次第処置してもらうから」

「はい」

 外は不気味なぐらい静かだった。日中水をずっと吐き出していた噴水は静止し、風にあおられた街路樹が静かに揺れる。今、何時ぐらいだろう。ぼんやり考える。

 視界の隅で看護婦が携帯を出していた。

「…ダメね。外に出ても携帯通じない。どうしよう…民家に助けを求めるか、近くの交番まで走っていこうか…」

 どっちにしてもこの病院の敷地からでないといけない。扉のほうに目をやると、病院内には深淵が広がっている。叨やぬっへん…の姿はないがずっとというわけではないだろう。

「あれ?」古子は違和感に気づいたが、それがなんなのかは分からなかった。

「行くわよ」看護婦が云う。古子は、はい、と従って、正面口から外へと歩く。

「あいたっ」

 病院から出て緊張が解けたのか、看護婦の間の抜けた声が聞こえた。

 見ると看護婦が不思議な顔で膝をさすっている。「なにが?」と云おうとした。次の瞬間、看護婦はまたしても、膝を、そして今度はつま先も、虚空のどこかにぶつけてしまったのだった。「ここに…ここになにか…?」

 看護婦はペタペタと虚空に触れた。と、今度は古子の頬に飛沫らしきものが飛ぶ。「ひっ?」拭う。しかしそこにはなにもない。液体だけが感覚として残っている。

「なんか、変ですよ」

 それ以外に云うことはなかったし、云えることもなかった。何かが起こっている。

「なにって…なに」

 看護婦は虚空を撫でていた。この異常を、どうにも言葉にできないようだった。

 音がする。木枯らしの音。

 古子は気が付いた。風が吹いている、にも拘らず、風を受けていないことに。遠くの枝が揺れる。噴水に舞った木の葉も動いている。しかし、病院の扉を開けた、その瞬間以外に、自分は、恐らくは看護婦も、風の影響を受けていない。

 ここから導き出される結論は?わからない。わからないが、看護婦がどこかに落下した。

「え?」

 いや、あるいは吸い込まれるようなものだ。虚空に蹴りを入れていた看護婦の、その足が何かをけ破り、崩壊し、看護婦は出来上がったばかりの穴に落ちた。

 古子は、今さらながらパニック状態に陥った。どうやっても説明がつかない。それらしいこじつけもできそうにない、全く未知の現象に、初めて古子は奇妙な敗北感とともにパニックになった。目は眼孔か、あるいは脳の中でぐるぐると動き、呂律は回らず、内臓と云う内臓が“わからない”ことに対する不快感を紛らわすべく暴れまわっていた。

 古子は耳をふさぎ、その場にしゃがみこむ。

 結果としてそれは正しい選択であった。


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