ハンデ



「ッ。こんなもので倒れるか」

「完封負けなんて、一生の恥よ……」


立ち上がる二人。

Bクラスだけあって、やはり今までの奴らとは耐久も違う。


「そっか」


「……俺達は将来、魔法世界を守る人材なのだ」

「こんなところで――『無用の長物』と『落ちこぼれ』に負けないわ……!」


その言葉は俺達に言っている様で違う。常識を、『自分』に語りかけているんだ。

まるで鼓舞する様に、追い込む様に。だから悪意が籠もってない。

純粋で、それでいてこちらの精神を抉る声。質が悪い。


「じゃあ、それに負けるお前らは何だ?」


「……ッ」

「勝つ。それで問題ない!」


「……」


この魔法世界は実力主義だ。

だが学園に入って分かった、魔法使いはプライドも高い者が多い。


……別に俺が言える事じゃないが。

肩書きや評判だけで勝手に実力を判断するのは止めた方が良いだろう。

立派な魔法使いになりたいのなら尚更。

きっとこのままでは、二人は何時か『死んでしまう』。色んな意味で。


だから今そのプライドを、常識を叩き折ってやる。


「十秒やるよ。その間だけは異能の発動も、逃げる事もしない。でももし音無に攻撃を向ければ即解除だ」


「……何を」

「ふざけるな」


「んじゃ二十秒」


「ッ!」

「さっきから、戯けた事を――」


「まだ分からねーのか? このままじゃ普通に勝っちまうから『ハンデ』だよ」


言い放つ。

プライドの高いコイツらでも、ここまで煽れば――


「ッ、ここまで舐めた奴。初めてだわ……!

「後悔するぞッ」


「……んじゃ音無は後ろで下がっててくれ」

「で、でも」

「勝手に話進めてごめんね」


声を掛けると、渋々離れる音無。

さあ、やろうか。

あっちもやる気満々みたいだし。


「んじゃタイマー測るぞ。『二十秒』……」


携帯画面、タイマー機能を開いて『設定』。

アラームとバイブON、は……無しで良いか。“そこまで”じゃない。


「『スタート』……じゃ、どうぞ」


「ッ……我に宿りし雷よ、その力を四肢全てに与えたまえ――『サンダーステップ』」

「この身を守る鉄の加護よ、今敵を粉砕する武器と顕現せよ――『アイアンブラスト』!


長い詠唱。

これだけで五秒……だが。

それが終わった瞬間、俺の目の前に『剛鉄』の巨大な塊が迫り来る。


「ぐはっ――」


右手で形だけでも心臓を守るが意味なんて無い。

衝撃。痛み。

骨が、身体の内部が悲鳴を上げている。

まるで猛スピードのトラックに轢かれたような、今もっと酷い感覚。

これなら異世界三回ぐらい行けちゃうね――


「――『サンダーストーム』!」


次いで。

上空から現れた彼女。そして『落雷』。


自然災害が俺の身体を襲わんとする。


「ぎっ、が……」


声にならない声。

痺れて動けない、脳まで焼き尽くされる様な感覚。

四肢全てが反応を失い、その場にただただ立つ尽くす。


「貴様が悪いのだぞッ……『アイアンブラスト』!!」


そして。

ギリギリ生きている視界には――もう一度、あの『鉄塊』が迫る。



「頼んだぞ、未来の俺」



そう呟いて。

迫るソレを受け入れる様に、俺は目を瞑ったのだった。

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