決着、Bクラス


「……はぁッ、はッ……」

「ッ……」


二人の将来有望な魔法使いは、その状況とは裏腹に苦悶の表情を浮かべていた。


怒りに任せ、挑発に乗り。

無抵抗な相手を蹂躙した。

それも『無用の長物』――格下どころか、世界から哀れみの目線を向けられる者に。


目の前の彼は見る影も無い。

右腕はあらぬ方向へ曲がり、吐き出された血ごと雷によって身体は焼け焦げ。

目を瞑った彼は――もはや気絶ではない。

『死』だ。

無論決闘場だから死ぬ事は無い。瀕死だろう……現実なら死んでいる。


「あ、碧君……っ」


駆け寄る少女の声が、より一層悲壮感を際立たせた。


(今日の事は忘れるのよ……)

(挑発したアイツが悪いんだ。忘れてまた明日から――)


そう思考を逃しながら。

それでも二人は、再度魔力を込める。

この最悪の戦闘を終わらせる為に。


「い、雷よ――」

「鉄よ――」


――ピリリリリリリリリリ!!


瞬間。

詠唱を開始したその時、この決闘場にそのアラームが響き渡ったのだ。


「――うるせぇ!」


「!?」

「はッ……?」


「あ、碧君」


その光景に、彼以外は唖然としていた。

間違いなく死んでいた彼が、突如鳴ったアラームと共に生き返ったのだから。



「おはよう」








「なッ」

「コイツなんで……」


「うっ! ……凄い顔色悪いけど。どうしたの」


身体全部痛ぇ! 過去の俺は何やってんだ。

前を見れば顔面蒼白の二人が居たからそう声を掛けてやった。


「何故あんな無茶な、無意味なハンデを」

「イケると思ったから」


「答えになってないわ!」

「俺はAクラスに行く。だからお前ら程度にはコレぐらいしてやらないと」

「は……?」


「で。お前らは二十秒で俺を倒せなかった」

「……!」

「だから次は、俺達が十秒でお前らを倒す」


「なッ、我らにも無抵抗を強制すると? 先のハンデはこれが狙いか――」

「――別に好きに動いて良いよ。十秒経ってお前らが意識失って無かったらお前らの勝ち。分かりやすいだろ?」


「こ、この機に及んで意味不明な……!」

「何様のつもりだ貴様」


「こうでもしないと認めてくれなそうだし」


「!」

「それは……」


分かりやすい対比だ。

二人で無抵抗の一人を倒せなかった奴と、二人で二人を倒した方……どっちが『上』かなんて一目瞭然。


「って訳で音無よろしく」

「う、うん」


……普通俺が音無の立場だったら怒ると思うんだけど、彼女は何も言わず俺に頷いた。


「――じゃ、アラームセットするね……音無は守城に攻撃よろしく」

「……!」


小声で彼女に伝えて。

携帯画面、カウント『10』。


「始めようか――『スタート』!」


「ッ、雷よ我をもっと早く――」

「鉄よ、我にその加護を――」

「音よ我の元に集い、放て――」


「『通電』、『』――」


それぞれ唱える。

そして一番に終えたのは自分で。


電池と靴の同時発動。

そのスピードは、俺が出せる限界ギリギリ。

つまり彼女と最初戦ったアレよりも早い。


「ッ――ぐうッ!?」


そのまま、一瞬で稲城の元に移動。

勢いを生かし彼女へ左ボディをぶち込んだ。

……まず一人。


「『サウンドボール』!」

「ッ……『アイアンアーマー』!」


飛んでいく音の球体。

少し詠唱が遅れた彼には、身体全体に鈍い銀のオーラが宿る。


「ッ――こんなもの!」


守城は腕をクロスさせ、その音の球体をガード。ありがとう音無。動きを止めてくれただけで十分だ。


残りカウント、『5』。


「『強度増加』、『装甲化』」


イメージは安全靴。

手を触れ鉄板の如くカチカチに。


「『通電』、『脚力激化』――」


更にもう一度足の強化重ね掛け。

そして俺は靴紐を緩める。


「っ――らあ!」


その後目標を定め、思いっきり蹴った。

放たれる、紐を緩ませておいたソレは。

俺の足から超スピードで射出されていく。


さっきのお返しだ。

トラックじゃなく靴だけど。



「ぐごッ――!?」



守城の魔道具は粉砕。

その勢いのまま決闘場の壁まで吹っ飛ぶ彼。


残りカウント『0』。


「…………こ、こほん。稲城さん、守城さんの意識喪失の為、音無&碧ペアの勝利です!」

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