試験、四日目


試験期間中、決闘までは教室で自主学習である。

結局朝から登校しなくてはならない、その代わり試験終了次第帰れるんだけど。


――「……アイツ」「卑怯だよな」「元Bクラスとかセケ―だろ」――


「……」

「気にすんなよ音無。これは俺に対しての目線だ」


そんなこんなで、試験四日目。

朝の登校中に掛かる声と嫌な目――おかしい、昨日完勝したはずなのに。


――「アイツ全然働いてなかったらしい」「ホントに『炎剣』倒したのか不思議なぐらい」「確か決闘後おぶってたんだろ? デキてんじゃねーのか」――


「……は?」


――「お、おい」「居るって」「逃げろ」――


思わず呟くと、そんな話をしていた集団はどこかへ消える。

……どうやら、面倒な事が起こっている様だった。


「あ、碧君」

「大丈夫。喚く奴らは結果で黙らそう」

「う、うん!」


音無の為にも。煉の為にも。

『省エネ』とかは、言ってられないか。



「……ごめんねぇ、碧君。少し生徒の間で君に対して『よくない』声が出てて」

「はい」


教室。

ホームルーム終わり……梅野先生が、また申し訳なさそうに俺に話をする。


「元Bクラスの音無さんがEクラスに居るのって結構異例でね。それで半分抗議的な感じで降参してたみたいで……」


「はあぁ……やっぱそんなトコか」


心の底から出たため息一つ。

いや、元居たクラスとか関係無くEクラスなんだからしょうがないだろ。


「それでまた、その決闘した相手の子がね、君がほとんど闘ってなかった事を広めて……加えて不公平だって意見が大量に来てね」

「……」


俺が悪いのは分かる。

でも、面と向かって来れば良いものを。

魔法の才能を持つわりに小さいよホント。


「……で、俺に話し掛けて来たって事は何かあるんですよね」

「うん。校長の提案なんだけど、良ければ今日だけ、特例でBクラスと闘ってみないかって」

「えっ」

「断っても全然良いよ! 降参でもペナルティは無いから」


EからいきなりBですか。

でもAクラスへ一気に近くなる。

うーん、でもな。音無に相談かな。


「ちょっとタッグ相手に聞いて――」

「大丈夫、だよ」

「え」


Bクラス。音無が元居た場所……だからこそ、元クラスメイトと顔を合わせる事になるわけで、きっと嫌だろうと思ったのに。

彼女は簡単に頷いた。


「お、終わったら、あたま、撫でて……」

「良いよ!」


最近音無が色々要求してくる。構わんけど。

そしてジト目で俺達を見る先生。


「あのぉ……受けるって事で良いんですねぇ? それなら校長からの助言が……『もうちょっと碧君頑張ってね』とのことです」

……はい、頑張ります。




「先生持ち物チェック」

「はい?」

「コレ持ってって良い?」

「え……え? これ? 別に良いけど……」

「ありがとうございます」


決闘場。

少し早めに音無と来て、ポケットの中身を先生に見せる。何てこと無い『日用品』だ。購買に売ってるレベルの。


そして――現れるBクラスの二人。


「……アレが私達の相手ね」

「フンッ、さっさと終わらせるぞ」


やはりというか、Eクラスに居る様な者とは格が違う。

佇まい、そして杖も普通のものじゃない。


一人は女、手に杖を……持っていない。

あるのは『足』。

見るからに装飾が施されているその靴は、きっと魔道具だ。


そしてもう一人。

男で、身体が大きい……というか太ってる。

それでも強そうだ。そして杖をコイツも持ってない。

あるのは『鎧』。同じく装飾が施されており、魔道具が防具の役割を果たしているのだろう。


「これでまた一勝……B残留は余裕そうね」

「気を抜くなよ稲城いなしろ

「ふん」


あ、舐められてる。

でも――コレまでの奴らと違って何か余裕があるな。悪口とか言わないし。


「『音無奏』……『対策』もしてる。余裕よ」

「あの異能は?」

「ふんっ、問題ないわ。『炎剣』を倒したとはいえ……アイツは私に触れさえ出来ない。作戦通りあの男を一瞬で潰す」


……一応、彼らの名誉の為に言っておこう。

今俺は、例の『イヤホン』で彼らの会話をキャッチし盗んで聞いてる。


かなり小さい声だ、本来なら俺達に聞こえてこない。


「でも……対策か」

「?」

「いいや。何でも無い、音無はよく敵を見ておいてくれ」

「うん」

「よしよし」


音無を馬鹿にする所か、むしろきっちり何かを企んでる。

これが……ま、やる事やるだけだ。


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