試験、三日目
「音無さんと碧君! 今日は対戦相手が居ますよ! いきなりD組の人達だけど、大丈夫?」
「やっとか……もう闘えるなら何でも良いですよ」
試験開始三日目。
ようやく先生からそんな声が掛かる。
試験開始から俺達は一度も闘っていない。
疲れないから良いんだけど、マジで達成感が無いというか。
つーかクラス分ける大切な試験なんだろ?
「ねえ先生、何で俺達こんな戦えないの?」
「先生に聞かないでよぉ……普通対戦拒否なんてしないんだよ? でも皆君達と闘うってなったら――」
「――『君達』? 音無も入ってんの?」
「あんまり言っちゃ駄目だけど、魔法練習所での噂がね?」
「ああ……」
梅野先生が困ったように言う。
俺、耳から血出てたもんな。
「良かったな音無。お前もしっかり加担してるぞ」
「う……」
「はっはっは」
申し訳なさげに俯く音無。
俺だけじゃない、彼女のせいでもあるわけだ。俺は悪くない!
で、だ。
このタッグ試験では大きくABC組とDEFG組で分かれており、その二つのブロックで基本的に闘うらしい。G組でも全勝とかしたら六日目からABCと闘うらしいけど。
大半はその二つで完結する。
俺達は一応二勝したから、このブロックで勝ち上がってきたD組と当たるのは当然って訳だ。
ちなみに今日勝てばD組確定。頑張ろうね。
「じゃ、やるか。音無」
「うん」
☆
決闘場は、もれなく観客の入場は禁止だ。
タッグの情報が洩れるからね。終わった後情報共有とかされたら意味ないんだけど。
シーンとしたその場所で、俺達の対戦相手の声が聞こえる。
「アレが噂の転校生と……誰だ?」
「チッ、何でも良い。異能持ちってだけでアイツ思い出してムカつくんだよ」
「ああ。クソ……さっさと終わらせるぞ」
対峙するは、口の悪い二人。
手に持つ魔道具で使用する魔法を分析。
赤く長い杖を持つ彼は、恐らく火魔法で攻撃魔法主体。青く短い杖を持つ彼は回復、支援魔法を用いるはず。
この場合真っ先に叩くべきは青い方。
隣の少女は、そのヘッドホンが魔道具だってんだからあんまりアテにならないけど。
「音無、そういうわけで青の方ね」
「……うん」
「――あ! アレってBからEに落ちた『音魔法』だ、思い出した」
「えっマジ? 何だよそれ! 異能持ちにはお似合いじゃん」
彼女に耳打ち。
そして聞こえる汚い笑い声。落ち込む音無。
やっぱ観客居た方が良かったかも。
最悪俺が一瞬で決めるけど――それは彼女の為にならない。
「大丈夫か? 気にすんなよ」
「あ、碧君」
「ん?」
「勝ったら、後で褒めてくれる?」
「もちろん」
「! じゃ、頑張るね……」
震える彼女。
何て謙虚な娘だ、そんなに嬉しい?
って、闘う前に勝つ事を考えちゃ駄目か。目の前の敵に集中しよう。
出来る限り俺は省エネに徹して、音無の魔法を活かせる様に。
その為に色々練習してきたからな。
☆
「えー、それでは時間になりましたので……音無&碧ペア対、兼田&津根ペア、決闘開始!」
「『ファイアーランス』!」
「『装甲化』――っと!」
「お、音よ、敵の元に集まりて――」
開始と共に、高速の火槍が音無の元に。
ダッシュで庇う――そして始める彼女の詠唱。
こんなもんどうってことない。
だがそれは相手も分かった様子で――
「遠距離攻撃は無駄だ、詠唱を止めさせろ! 『ウォーターベール』!」
「分かってるッ、火よ、敵を破壊する拳を――『ファイアーナックル』!」
水使いは、火使いへ水のベールを。
そして走り出した彼は、拳に火を宿し俺の元へ。
ウォーターベールは魔法と物理への耐性付与。そしてフレイムナックルは――
「――!?」
「『発射』!」
拳に火を宿し、それによる破壊力を上昇させる。そう、『近接攻撃』だ。
『拳』には『拳銃』で。
俺は右手に装填していた輪ゴムを銃のイメージで強化……彼の額にブチ当てた。
ベールのせいで威力は減少したが――
「っ……!?」
「おっおい! 何立ち止まって――」
輪ゴムの衝撃と爆音。
火使いの彼は、猫だましを食らった様な状況。大きく怯むのは仕方ない事だ。
そして後ろの彼には、それが比にならない程の爆音をお見舞いしよう。
俺じゃなくて音無が。
「暴れて――『サウンドノイズ』!」
「――ッ!? な――あ、ああああああああああ!!」
既にその詠唱が完了し、水使いの鼓膜を破壊!
そして俺は――怯みから
「……! な、止め――痛い痛い痛い!」
そのまま左腕で相手の首を抱えて、右腕で腕を掴んで固める。
相野市に居た頃、高校の授業で習った簡単な関節技だ。星丘でもやるんだろうか?
「暴れんなって……じゃ、音無さん後よろしく」
「う、うん。音よ、敵の――」
「ひぃッ――こっ降参! 降参だ!!」
音無が詠唱を始めようとした所で――火使いが叫んでストップ。
見れば、水使いは意識を失い倒れていて。
「あ――音無&碧ペアの勝利です!」
先生の声が、決闘場に響いたのだった。
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