タッグ試験・中

試験開始



もはや慣れた病室。

何時もより早く起きた(起こされた)理由は――


「今日からクラス決め試験ですね」

「俺いつ退院出来るの?」

「……そんなにここから出たいんですか?」

「え」

「……」


ジトっとした目で見てくる彼女。

よく見たら結構美人だよなえみりさん。

そんな彼女に看病されている俺は幸せ者なのかもしれない。


「いや、別に居心地は悪くないけど」

「そうですか」

「いつもありがとうね、えみりさん」

「! 褒めても何も出ませんよ」

「もういっそここに住みたい」

「そっ、そんな……だから何も出ませんってば」


何か出てきても困るんだが。

でも彼女の照れてる表情はレアだから嬉しい。


「たださ……それでもこんな元気なんだよ? 病室圧迫してない?」

「その時は一時的に自宅療養になりますのでお構いなく」

「何だそれ……あ、だったらナースさんが家に来てくれるの」

「!? はっはい!?」

「冗談だよ冗談。流石に傷付く」

「いや、あ、もう……ごめんなさい。あっほら、そろそろお時間ですよ」

「はーい」


ま、彼女が言っていたが。

今日からクラス分け試験の開始である。


いそいそと着替える。

この制服も慣れたもんだ。ネクタイ? もう余裕ですよ余裕。

余裕過ぎて引きちぎりたくなる。邪魔なんだよこれ!


「はぁ。勝てなかったらどうしよう」

「……」

「何か言ってよえみりさん」

「だらしない人ですね。それでも男ですか」

「確かにカッコ悪かった」

「……貴方なら大丈夫です」

「嬉しい!」


激励を貰ったところで。


「……碧君」

「お、行くか」


現れた音無。

最強のタッグ相手様である。

キリッとしてるね目が。髪で隠れて見えないけど多分。


「……は、恥ずかしい……」


ヤバい見過ぎた。

とにかくまずは一勝だな。




タッグ試験。

一日一回行われ、そしてそれを二週間、毎日続ける。

計十回の決闘を通し……各生徒の来年度のクラスを決定する。

決闘はレート戦のようなモノで、闘って勝てば勝つほど強い者同士、勝った者同士で闘う事になる。


分かりやすい話、全勝したらAクラス入りは確定って訳だ。

Eクラスの俺がこんな事考えても意味ないんだが、Aクラスの奴らはAクラス同士で闘うんだろうか? だとしたらかわいそうだよな。


「緊張してる? 音無」

「……うん」


ぷるぷるしてる、スライムかお前は。

隣にコレだけ震えてる奴が居るおかげで全く俺は緊張しない。


……ま、やる事をやるだけだ。

負ける時は負ける。死なない時は死なない。

これまでと同じ――俺の異能を暴れさせてやるだけ。


さあ! テンション上げてやっていこう!

初戦、頑張るぞー!!





対魔法使いとの戦闘において、装備を見るのは大事だ。

例えば――



ロッド……長い杖。 攻撃魔法を扱う者向け

ワンド……短い杖。 回復魔法・補助魔法を扱う者向け

オーブ……手に付けるタイプのコンパクトな杖。 魔力消費量を削減できるが魔法威力は低下。


特殊例

煉……竹刀、見たら分かるが近接戦多め

音無……ヘッドホン ?? 見て分からない。時には諦めることも大事。



ノートを閉じた。

こんな感じに、ある程度装備で何をしてくるか分かる。

つまり闘う前から勝負は始まっているのだ。

決してその情報を逃してはならない。

対峙した時点で敵を見定め、計画を練る――これが喧嘩(決闘)の極意。


《――「テメェ話聞いてんのか? 続けるぞ」――》


ちなみに全て煉先生からの受け売りです。

眼鏡を掛けて解説しだした彼女には、危うくギャップで惚れかけた。

アイツ頭も滅茶苦茶良いんだよ。凄い。



「ココまでしてもらったんだし勝たなきゃな」

「うん!」



俺は拳を握りこんだ。

何よりこの試験は俺だけのものじゃないんだ。


音無の将来もここで決まる、そんな覚悟で挑まなければ。


――さあ。


勝ちに行こうか!








「……あー、えっと。音無&碧ペア、対戦相手の降参により不戦勝になります」


「……」

「……」


試験開始、一日目。

結果。

決闘場、寂しく響き渡る先生の声。


……何だよそれ!

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