S.負けられない理由
「おはよっ炎」
「おはよう、ちょっと髪伸びた?」
「うん♪ まだまだ全盛期には遠いけど」
通学中、駅で待ち合わせしていると輝から声を掛けられた。
あれからDクラスの連中は輝に全くいじめて来なくなった……というか、俺がずっと彼女と居るからアイツらも来ないんだろう。願ったり叶ったり。通学中まで一緒に居る必要は無いかもしれないが、まあそれはそれだ。
――「おいアレ、例の」「翼生えてたって奴?」「隣のは氷眼の弟をヤッた奴だ」――
周囲の声。
オレはともかく、輝の事も結構聞こえてくるようになった。
「ボク達人気者ですなぁ」
「お、おう」
だがそんな声を気にする事なく歩く彼女。
ショートから少し髪が伸び……女の子らしく、可愛くなった。
オレなんかの隣にこんな美少女が居ても良いんだろうか?
というか全盛期ってコレよりヤバいの?
よく笑い、よく話す彼女。
元々こんな元気な子だ。
そしてオレはそんな輝に元気をもらっている。
あの時、闘っていて良かった。
また碧さんへのお礼が増えたな。
「何考えてるの?」
「ナンデモナイ」
「教えてよ~」
「そ、そういやそろそろ試験発表だなって」
「ああ……そうだね。例年通りならタッグ試験らしいよ」
からかう様に覗き込む彼女から目線を逃しながら、そんな話題を投げる。
タッグ試験……そうか。オレの天敵である『二人組作って』って奴か……。
「勿論ボクと組もうね♪」
「え、G組だぞ自分。大丈夫なの」
「普通なら無理だけど……この前、ボク達決闘でD組の三人に勝ったでしょ?」
「おう、それはそうだけど」
「この学校ってね、決闘結果をしっかり取ってるの。だから炎はもうD組相当の実力があるって分かってるはずだよ。流石にボクがABC組とかだったら駄目だけど」
輝はそう言う。なるほど、そういう理屈か。
「よく知ってるな」
「あはは、二年の先生に聞いたんだよ。炎の名前を出したらすぐ大丈夫だろうって言ってた」
「……魔法じゃなくて、ほとんど異能の力だけど良いのか?」
「実戦魔法組なら、異能だろうが魔法だろうが関係ないよ……じゃなきゃボク達ここ居ないと思う」
「へぇ……」
「実際Bクラスには、体術の方が得意な魔法使いとかいるし」
要は戦闘能力を見れれば何でもいいって訳か。
戦闘能力……少し前の自分なら、絶望していた所だけど。
自分にはこの異能がある。
輝とオレで、這いあがってみせるんだ。
☆
□
100:名前:名無しの落ちこぼれ
はい
つーわけでタッグ試験なわけですけどもね
101:名前:名無しの落ちこぼれ
はい二人組作って~w
102:名前:名無しの落ちこぼれ
あああああああああああああああああああ!!!!!
クソクソクソクソくそ
おっおっおっおっおおっ!?!? っファイアボー!wwww!!?????wwwww
103:名前:名無しの落ちこぼれ
古の呪文によりまた一人壊れてしまった
104:名前:名無しの落ちこぼれ
学園は俺達に退学してほしいと思っているのだろうか
105:名前:名無しの落ちこぼれ
やだねぇ
106:名前:名無しの落ちこぼれ
まあ俺実戦魔法組じゃないからなぁ……
107:名前:名無しの落ちこぼれ
元々ココ入ったの、魔道具関連の仕事に就きたかったからだしな
108:名前:名無しの落ちこぼれ
やっぱそうだよね
109:名前:名無しの落ちこぼれ
それでも一応、戦う側の視点の知識も居るからね
タッグ試験からは逃げられない!
110:名前:名無しの落ちこぼれ
気は楽だけど、ボコられるの嫌だなぁ
111:名前:名無しの落ちこぼれ
降参すると点数下がるしね
□
「なんて意気込んだけど、皆はあんまりみたいだな」
「ボクも元々はそうだったしね。魔法医療の魔道具開発とか魔法都市の看護師さんとか」
「そうなのか」
「うん。ボク回復魔法三回で空になっちゃうし。最前線の魔法使い達は一日ずっと戦えるらしいし……」
「……そうか」
「でも不思議と、この異能あんまり疲れないんだよね」
「え、異能なのに?」
「うん。ボクが一番びっくり」
どうやら彼女の翼は大分効率? が良いらしい。
オレなんて五回ぐらい燃やしたらきついぞ。
「一気に未来が広がったって感じだな」
「……うん。炎のおかげでね」
「おいおい、もっと自分を褒めろって」
「それは炎こそ」
「ううむ」
慢心したら終わりそうだ、止めておこう。
「もっと頑張らないとな」
「あはは、ボク達はもっと異能に注力して練習してみようか」
「確かに。放課後ちょっと魔法練習所行くか……」
「ボクも行く!」
☆
……異能ってのは魔法と違って、決まった詠唱なんて無い。
『発火』とか『燃えろ』とか『着火』とか、意外と何でもいける。
ただ――『パイロキネシス』と唱えた時だけは別だ。
あの時は、自分の手だけじゃなく敵も燃えたからな。
「よくわかんないよね」
「うん」
「ボクなんて未だにシックスフィンガー! だし」
「はは、確かにな」
「生えろ! とかじゃ反応しないんだよね。もっとカッコいいのが良かった……」
不思議なもんだ。
どう見ても指なんて代物じゃないからな。
「でもやっぱり、そうなると対応した言葉を探す価値はあるかも」
「うん。ちょっと考えてみようか」
こういう時、掲示板は役立つ。
色んな異能を持つヤツがココには居るからな――
□
【☆スターヒル・ドロップアウト LEVEL25☆】
201:名前:名無しの落ちこぼれ
突然だけど、お前らって異能発動する時何て言ってんの?
202:名前:名無しの落ちこぼれ
個人情報って知ってる?
203:名前:名無しの落ちこぼれ
まあ具体的には言えねーけど、なんか曖昧でも行けるよね
204:名前:名無しの落ちこぼれ
不発の時も多いけどな
205:名前:名無しの落ちこぼれ
何なんだろうなこれ。結局自分の想像次第なんじゃ?
206:名前:名無しの落ちこぼれ
それはある
207:名前:名無しの落ちこぼれ
魔法もある程度は詠唱を自分に合うように変えれるけど、異能はもう自分だけのものだからね
自由というか、答えが無さ過ぎると思うけど
208:名前:名無しの落ちこぼれ
何で俺達異能についてこんな真剣に語り合ってんだ……
209:名前:名無しの落ちこぼれ
この住民ほとんど異能持ちかよ草
210:名前:名無しの落ちこぼれ
想像もあるけど、自分の異能とマッチする言葉じゃないと駄目だ
異能が教えてくれる? みたいな。上手く説明できんけど
211:名前:名無しの落ちこぼれ
確かに気付いたらその言葉が浮かんでたな俺も
異能って魔法と違って個人個人で違い過ぎるから参考にはならんが
212:名前:名無しの落ちこぼれ
異能って奥深いね笑 能力はゴミなのに爆笑
は?
213:名前:名無しの落ちこぼれ
はい解散
□
「……」
「……参考になった?」
「ちょっとは。異能に聞くってのが大事かも」
「あはは。確かにね」
あの時――タクマに殺されそうになった時は、本当によく聞こえた。
いや実際に耳で聞いたわけじゃないが、何をどうすれば良いかが身体で分かったんだ。
そして多分、一番大事な事。
それは――きっと必死さ。
タクマの時。
輝と闘った時もそうだった。
窮地で、体力も尽きかけて……その時、オレの異能は『成長』した。
もしかしたら関係ないかもしれない。
でも、試す価値はある。
「……まずはギリギリまで出し切るか」
右手を眺め――オレはそう呟いた。
□
230:名前:名無しの落ちこぼれ
でも、『彼』とかでも異能は結構体力使うんだなって思うよね
231:名前:名無しの落ちこぼれ
そういえばあの炎剣との決闘後倒れてたらしいな
232:名前:名無しの落ちこぼれ
めっちゃしんどそうだった
まあアレだけ色々やればね、というか普通異能って出来ること一つじゃねーの……?
俺のと何もかも違い過ぎる
233:名前:名無しの落ちこぼれ
異能にそこまで力使うのも馬鹿らしいって
234:名前:名無しの落ちこぼれ
……一回試したことあるわ 何回か繰り返したら徹夜明けみたいにしんどくなった
まだ行けたけどアレ以上やったら気絶してたな
235:名前:名無しの落ちこぼれ
俺は頭めちゃくちゃ痛くなった ガンガン響いて寝られんかったわ……
236:名前:名無しの落ちこぼれ
お前らそんなんなんだ! 自分はひたすら胸が痛くなった
237:名前:名無しの落ちこぼれ
草 流石異能、デメリットも個人で違うんすね笑
238:名前:名無しの落ちこぼれ
けどお前ら案外試してるじゃん
あと237は悲しいからだよ 泣いていいよ
239:名前:名無しの落ちこぼれ
まあ一応自分だけの力ですし
240:名前:名無しの落ちこぼれ
ゴミなのは変わらんけど、身体の一部みたいなもんだからな……試すもんは試した
241:名前:名無しの落ちこぼれ
もうコイツと付き合っていくしかないんだわ泣
242:名前:名無しの落ちこぼれ
今日も勉強頑張るぞー! 非戦闘組の試験も近いし
243:名前:名無しの落ちこぼれ
そうだな
俺も資格取らなきゃ、せっかく星丘入ったんだ……
244:名前:名無しの落ちこぼれ
頑張ろ
245:名前:名無しの落ちこぼれ
あーあ、俺も『彼』みたいな異能が欲しかったなぁ~
246:名前:名無しの落ちこぼれ
……もしかしたら、異能って変化するのかもね
生まれながらにあんなん持ってたら大騒ぎだと思う
247:名前:名無しの落ちこぼれ
だと良いな
248:名前:名無しの落ちこぼれ
俺の異能もいつかチートと化す可能性が!?
249:名前:名無しの落ちこぼれ
仮にそうだとしても、ただ待ってるだけじゃ駄目だと思うけどね
……ま、無い可能性を話しても駄目か
□
「はっ、はっ……『パイロキネシス』」
これで五回目。
手のひらから溢れる火を目にしながら、壁に寄り掛かる。
身体が怠い。
でも――明らかに前までよりも気力が残ってる。
これならまだまだ行ける。
聞け、その異能の声を――
「『パイロキネシス』――『パイロキネシス』!」
二回連続、一気に発動。
燃え上がる火。気付けばそれは青く輝いていた。
輝と闘った時の最後のような。
……まるで、火力が上がったようなそれ。
「まだだ……」
ココまでようやく辿り着けた。
もっと。
もっと――
「っ……!」
「ほ、炎! 無茶し過ぎだよ!」
気付けば視界が急転し、床がそこにあった。
頭を打ち付ける前に輝が支えてくれたのだと気付いたのは、数秒後。
「……ごめん、止めないでくれ」
「でも」
「今ならこの先に行ける気がする」
「……分かった」
「ありがとう」
彼女の手を解いて、オレはまた立つ。
そうだ。
今の自分は輝も居て、どこか安心してしまってる。
考えろ。想像しろ。必死に行け。
この試験で勝ち上がれなかったら――オレ達はそのまま。
自分はGクラス。彼女はあのクソ野郎共が居るDクラスのまま。
「『パイロキネシス』!」
青い火が手から燃え上がる。
気力と体力を吸い上げながら。
「っ――」
立っていられなくなり、オレは膝を付いた。
それでも火はそのまま。
《――「ボク――この星丘に入学して良かった!」――》
思い出す、彼女の顔。
オレの異能はあの時、間違いなく輝を変えた。
力を貸してくれる火が、より好きになった。
この異能は、ガキの頃からずっとオレの誇りで。
だからこそ――
“もしオレが、優生と同じ様に勝ち上がれたら”
“きっと、自分みたいに思える奴らが増えていくと思うんだ”
心の中で声を響かせる。
それでもあの時、優生が俺達に見せたモノを、オレが見せる事ができたのなら。
こんな自分でも。
この世界を――ほんの少しでも変えられるんじゃないかって思うんだよ。
「だからオレは、何としても勝ち上がらなきゃいけないんだ」
火が勢いを増す。
まるで、『手のひら』だけじゃ物足りないと言うように。
――なあ、応えてくれ。
オレはどうしたら強くなれる?
「!」
身体の中、ふと響く。
その言葉が――
「『パイロキネシス』――『ブースト』!」
気付けば呟いていた。
そして同時に、美しい青い火が俺の『身体全体』に広がっていく。
前とは明らかに火の量が違っていた。
脚が軽い。
力が沸き上がる。
まるでオレの全てに、不思議な『火』が流れている様だった。
今なら――何か、新しい事が出来そうな気がする。
「……ぐっ」
でも、残念ながら。
今日はここで電池切れみたいだ。
「……はは。これだよこれ――っ」
「炎!」
倒れ掛かるオレを支えてくれる彼女。
もう全部出し切った。
何もできない。ただ言いようのない達成感がある。
「試験、頑張ろうな」
「へ? こんな状況で何言ってるの!」
「ははは」
試験までもう少し。
オレ達は、絶対に勝ち上がってやる。
この異能で!
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