帰路
「……すみませんでした」
「魔法練習所では人に向けての魔法は御法度だ、知らなかったのか? 決闘場の様に、怪我しても終われば元通りなんて事にはならないんだぞ」
「ほんとすみません」
「本当に音無奏は『事故』で彼に魔法を放ったんだな?」
「はい!」
「いや何で
「ごめんなさい……」
「……はあ。ああ分かった分かった。とりあえず優生はまた今通っている病院で診てもらう事。良いな」
「はい。あ、そういえば俺のお見舞い来てくれてたんですよね? ありがとうございます」
「! いや、その、先生として当然だ……あまり私を心配させるなよ、君は星丘の生徒なのだから」
「はーい」
☆
アレから。
騒ぎを聞きつけた松下先生からお説教を食らう事十数分。
ようやく解放された。ついでに納得した煉も帰って行った。
二人には無事だって言ってもあまり信じてもらえなかった。こんなピンピンしてんのにね。
「はー、疲れたな音無」
「?」
「お前、あんだけ魔法バンバン撃って平気なの」
「うん」
「すげーな。魔力量どんだけあるんだ?」
「……半年前測った時は、百万ぐらい……」
「は?」
確か、魔法使いの平均が十万だったよな。現役バリバリの人達でそれだぞ?
……音無って結構凄いんじゃないの。
魔力は成長して増えていくからまだ発展途上だろうし。
「でも、音魔法は魔力いっぱい使うから……そんなに」
「へえ」
燃費を食うが威力はデカい、そんな感じか。
詠唱もフルだとあれだけ長いし。
それでもその魔力量があれば普通よりも戦えるだろう。
我ながら凄い友達だ。
「碧君は……?」
「ゼロ」
「も、もしかしたら今測ったら――」
「毎月測ってるよ。気が乗った月は毎週。それでもずっとゼロだ」
「……」
「そんな顔すんなって」
「でっでも魔力ゼロってありえないんじゃ……」
「うん。普通今歩けてないね」
魔力とは、血と同じく無ければ倒れる。
魔法の使いすぎで魔力量が少なくなると、身体の防衛機能で気絶するし。
始めて魔力測定でゼロが出た時は、俺よりも測定機の方を疑われたらしい。
「なんで生きてんだろうな、俺」
呟いた言葉が、虚しく響く。
それは二つの意味を込めて。
《――「あの二人から生まれたなんて……きっと優生君は、すんごい魔法使いになるんだね!」――》
子供の頃、周りからの声。
それがいくら強力だろうが、『異能』は必要なかった。
この星丘に入って、周りが全て魔法使いという状況になって、消したはずだった考えが再び浮上する。
決して浮かべてはいけないそれが。
魔法が使えない人生なんて、一体何の意味があるんだ?
「――っ」
「! どした?」
「死にたい、みたいに言わないで……」
「はは……そういう意味じゃないって」
音無が俺の腕を両手で掴む。
ま、これは不意に現れる発作みたいなもんだ。面倒くさくてごめんね。
「……」
「ほんとほんと」
嘘である。でも仕方ない。
「……嘘、ついてる」
「えっ」
ジト目で俺を見る音無。
え、まさか音魔法? 便利過ぎない?
「お願い。僕を一人にしないで……」
切ない声だった。
思わずドキっとする、それは卑怯だ。
そして嬉しかった。
自分の事にそこまで言ってくれるのは――恐らく両親と妹ぐらいだったろうし。
「死なないって。家族とお前、全員が死んだら流石に死にたくなるけど」
「……!」
「どうよ。嘘じゃないぞ」
「うぅ」
途端に顔を紅くする音無。腕からも離れる。
……俺なんか変な事いった?
「とにかくまずはタッグ試験だな」
「!」
「色々練習していくぞ、どうぞよろしく」
「うん……!」
「俺が働かなくていいぐらい」
「うん!」
「罪悪感!」
そんな、頼りがいのあるタッグと共に。
俺達は帰路についたのだった。
▼作者あとがき
本日はもう一話投稿します。
19時頃になるかなと。
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