帰路


「……すみませんでした」


「魔法練習所では人に向けての魔法は御法度だ、知らなかったのか? 決闘場の様に、怪我しても終われば元通りなんて事にはならないんだぞ」


「ほんとすみません」

「本当に音無奏は『事故』で彼に魔法を放ったんだな?」


「はい!」

「いや何で優生が答える?」

「ごめんなさい……」

「……はあ。ああ分かった分かった。とりあえず優生はまた今通っている病院で診てもらう事。良いな」


「はい。あ、そういえば俺のお見舞い来てくれてたんですよね? ありがとうございます」

「! いや、その、先生として当然だ……あまり私を心配させるなよ、君は星丘の生徒なのだから」

「はーい」



アレから。

騒ぎを聞きつけた松下先生からお説教を食らう事十数分。

ようやく解放された。ついでに納得した煉も帰って行った。

二人には無事だって言ってもあまり信じてもらえなかった。こんなピンピンしてんのにね。


「はー、疲れたな音無」

「?」

「お前、あんだけ魔法バンバン撃って平気なの」

「うん」

「すげーな。魔力量どんだけあるんだ?」

「……半年前測った時は、百万ぐらい……」

「は?」


確か、魔法使いの平均が十万だったよな。現役バリバリの人達でそれだぞ?

……音無って結構凄いんじゃないの。

魔力は成長して増えていくからまだ発展途上だろうし。


「でも、音魔法は魔力いっぱい使うから……そんなに」

「へえ」


燃費を食うが威力はデカい、そんな感じか。

詠唱もフルだとあれだけ長いし。


それでもその魔力量があれば普通よりも戦えるだろう。

我ながら凄い友達だ。


「碧君は……?」

「ゼロ」

「も、もしかしたら今測ったら――」

「毎月測ってるよ。気が乗った月は毎週。それでもずっとゼロだ」

「……」

「そんな顔すんなって」

「でっでも魔力ゼロってありえないんじゃ……」

「うん。普通今歩けてないね」


魔力とは、血と同じく無ければ倒れる。

魔法の使いすぎで魔力量が少なくなると、身体の防衛機能で気絶するし。


始めて魔力測定でゼロが出た時は、俺よりも測定機の方を疑われたらしい。


「なんで生きてんだろうな、俺」


呟いた言葉が、虚しく響く。

それは二つの意味を込めて。



《――「あの二人から生まれたなんて……きっと優生君は、すんごい魔法使いになるんだね!」――》



子供の頃、周りからの声。

それがいくら強力だろうが、『異能』は必要なかった。

この星丘に入って、周りが全て魔法使いという状況になって、消したはずだった考えが再び浮上する。

決して浮かべてはいけないそれが。


魔法が使えない人生なんて、一体何の意味があるんだ?


「――っ」

「! どした?」

「死にたい、みたいに言わないで……」

「はは……そういう意味じゃないって」


音無が俺の腕を両手で掴む。

ま、これは不意に現れる発作みたいなもんだ。面倒くさくてごめんね。


「……」

「ほんとほんと」


嘘である。でも仕方ない。


「……嘘、ついてる」

「えっ」


ジト目で俺を見る音無。

え、まさか音魔法? 便利過ぎない?


「お願い。僕を一人にしないで……」


切ない声だった。

思わずドキっとする、それは卑怯だ。

そして嬉しかった。

自分の事にそこまで言ってくれるのは――恐らく両親と妹ぐらいだったろうし。


「死なないって。家族とお前、全員が死んだら流石に死にたくなるけど」

「……!」

「どうよ。嘘じゃないぞ」

「うぅ」


途端に顔を紅くする音無。腕からも離れる。

……俺なんか変な事いった?


「とにかくまずはタッグ試験だな」

「!」

「色々練習していくぞ、どうぞよろしく」

「うん……!」

「俺が働かなくていいぐらい」

「うん!」

「罪悪感!」


そんな、頼りがいのあるタッグと共に。

俺達は帰路についたのだった。



▼作者あとがき

本日はもう一話投稿します。

19時頃になるかなと。

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