『碧優生』
子供の頃。
優秀というには生温い程の、魔法使いの家系だった俺は。
《――『えーっと、優生君。将来の夢は?』――》
《――『おとーさんとおかーさんを超える、『さいきょうのまほうつかい』です! まだ『まりょく』? は無いみたいだけど……』――》
元気よく答えた当時の自分。
小学校に入る前の、テレビか何かのインタビュー。実際かなり期待されていた。
《――「ゆーせー君ってあの優さんがママなんだよね?」――》
《――「うん!」――》
《――「でも『まりょく』ゼロなんだよね? ほんとにまほうつかいになれるの?」》
《――「だ、大丈夫! おかーさんが家に『まりょくそくていき』? 買って、それで毎日はかってるから。いつかきっと……」――》
……何も大丈夫じゃなかった。
《――「おかしい。どうしてこの子はずっと魔力ゼロなの? なんでそれで意識があるの……?」――》
《――「考えすぎるな優」――》
《――「……でも! 優生はこのままじゃ魔法使いには絶対に」――》
物陰から覗く両親の会話が、ますますその事実を実感させた。
俺は魔法が使えない。
『憧れ』の両親の様にはなれないと。
《――「もしかしたら。あの子供離れした物の扱いは……」――》
《――「何かの『異能』を持っているって事?」――》
《――「魔法適正も一切反応無し、魔力もここまで低いという事は、そうとしか……」――》
ゼロばっかりの魔力値測定表を眺め、苦悶の表情をする母さん。
自分のせいで家族全員が苦しんで、悲しんでいる。
そこからだった。
俺自身と――自身に眠る『異能』を恨む様になったのは。
☆
「――『パイロキネシス』!」
視界には青が映っている。
魔法やライターの火とは違う……不思議で、綺麗な火。
火だるまになっているはずなのに、俺の服や肌は焦げていない。
しかしその火は――確実に俺を燃やしている。
身体に感じる温度。
その火で、溶かされ、焦がされている感覚。
まるで魂を燃やされている様な。
言葉にするなら『念火』。
苦しい。
痛い。
でも、ここで倒れる訳にはいかない。
「っ――」
「はっ、はあっ……」
視界から火が消え、俺は体勢を崩し座り込む。意識を削り取られたが何とか保つ。
後数十秒やられていたらマズかった。
そして土石も息を切らしながらフラッと倒れ――後ろの彼女に支えられた。
……異能は魔法と比べ体力、気力を一気に消耗する。
つまり燃費が異常に悪い。
そう長くは出来ないのだろう。
「さ、『サウンドヒール』!」
「『再生』!」
優しいオルゴールの音色。
やっぱり彼女の魔法は効く。
前に居る真野とやらの翼も強力みたいだ、彼の顔色がどんどん良くなっていく。
《――「……世界がなんだろうが、オレはその異能が好きだ、そしてそれを使う碧さん自身も。まとめてオレは憧れてる」――》
……憧れ。
俺が両親に向けていた感情と同じモノ。
目の前のコイツは、それを自分に向けて抱いていたんだ。
そりゃ怒るよな。
俺にとっちゃ、自分の親を馬鹿にされるようなモノなんだから。
「お前、名前は?」
「……炎だ、土石炎」
「良い名前だな」
「!」
名は体を表すと言うけれども。
ここまで似合う奴は初めて見たよ。
その異能も、性格も髪色も全部。
彼の親はセンスあるね。
「音無、今だけは俺に任せてくれ」
「……!」
頷く彼女を確認し。
彼らに声を掛ける。
「来いよ、炎」
「待ってよ! 炎は」
「いいや。大丈夫だ輝」
彼はそう言って、横の彼女を制した。
良いね。男のぶつかり合い。
「今なら、もっと『上』に行ける気がする」
「そうか。じゃあソレで来い、待ってやる」
「良いのかよ」
「もち」
「ありがとう……後悔すんなよ――」
戸惑う様に話す炎。
……異能ってのは成長する。
炎の中のソレも目覚め始めているんだ。
俺はお前の『憧れ』。
余裕の一つや二つ持ち合わせておかなきゃ務まらない。
「『パイロキネシス』……『
彼は目を瞑り唱える。
手の中、灯される火。
そして一拍置いてその身体が燃え上がる。
肩、腕、足。あちこちから。
青く、美しい火が彼を
「行くぞ」
「ああ」
歩いて。
そして走って。
「『装甲化』――」
近付いてくる炎に、俺はただ待った。
その一撃を受ける為に。
「らああああああ!!」
目の前。
俺の腹に到達した彼の拳。
「――『
そして。
その拳から火が爆発したかの様に生まれ、馬鹿デカい衝撃が俺を襲う。
「――っ!!」
パリン、と。
鈍いガラスが割れる音と共に。
「ははは、服が滅茶苦茶だ」
俺の服はビリビリに破れ役目を果たす。
上半身はもう何も残ってない。
受けたのが腹で良かったよ。顔ならどうなってたか。
「く、そ……ッ!?」
「あんま見るなよ恥ずかしい」
「でもその傷――」
「こんなもんどうでも良い。お前は全部使い切れたか?」
「あ、ああ」
「そっか。じゃあ俺の番だけど」
ふらつきながら答える炎。
立っているのがやっとの表情。
「降参する?」
「まさか」
「ははは! そうか――な。俺の異能、どれが印象に残ってる?」
「へ……?」
「良いから答えろ。何でも良い」
「そ、そりゃ……あの生徒達を全員殴ってた所とか」
そう答える彼。
……殴ってた所って、そこ異能使ってねえ!
「了解。んじゃ『拳』で行くね」
でも。
彼がそう言ってくれるのであれば。
全身全霊のソレを、炎にぶつけてやろう。
「ははっおいおい……こんな状況で笑うのか?」
「それは碧さんこそ」
覚悟を決めた様に笑う彼。
俺も覚悟を決める。
今から炎にぶつけるのは、あの時隕石が降った日にも使ったモノだ。
いわば『切り札』。
俺が出せる最大火力。
……ぶっちゃけココまでする気は無かった。
Aクラス相手にも使うかどうか分からなかった。
でも今、目の前に立っている男には。
俺の全力を見せてやりたい――不思議とそう思ったんだ。
「ふー……」
深呼吸。
力を引き出す為に感情を高めていく。
瞑想、目を瞑る。
己の身体をモノとして、世界から切り離していく
今この瞬間から。
俺の異能は、一段階『上昇』する。
「『
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