『碧優生』


子供の頃。

優秀というには生温い程の、魔法使いの家系だった俺は。


《――『えーっと、優生君。将来の夢は?』――》


《――『おとーさんとおかーさんを超える、『さいきょうのまほうつかい』です! まだ『まりょく』? は無いみたいだけど……』――》


元気よく答えた当時の自分。

小学校に入る前の、テレビか何かのインタビュー。実際かなり期待されていた。


《――「ゆーせー君ってあの優さんがママなんだよね?」――》

《――「うん!」――》

《――「でも『まりょく』ゼロなんだよね? ほんとにまほうつかいになれるの?」》

《――「だ、大丈夫! おかーさんが家に『まりょくそくていき』? 買って、それで毎日はかってるから。いつかきっと……」――》


……何も大丈夫じゃなかった。


《――「おかしい。どうしてこの子はずっと魔力ゼロなの? なんでそれで意識があるの……?」――》

《――「考えすぎるな優」――》

《――「……でも! 優生はこのままじゃ魔法使いには絶対に」――》


物陰から覗く両親の会話が、ますますその事実を実感させた。

俺は魔法が使えない。

『憧れ』の両親の様にはなれないと。


《――「もしかしたら。あの子供離れした物の扱いは……」――》

《――「何かの『異能』を持っているって事?」――》

《――「魔法適正も一切反応無し、魔力もここまで低いという事は、そうとしか……」――》


ゼロばっかりの魔力値測定表を眺め、苦悶の表情をする母さん。

自分のせいで家族全員が苦しんで、悲しんでいる。


そこからだった。

俺自身と――自身に眠る『異能』を恨む様になったのは。






「――『パイロキネシス』!」



視界には青が映っている。

魔法やライターの火とは違う……不思議で、綺麗な火。

火だるまになっているはずなのに、俺の服や肌は焦げていない。


しかしその火は――確実に俺を燃やしている。

身体に感じる温度。

その火で、溶かされ、焦がされている感覚。

まるで魂を燃やされている様な。

言葉にするなら『念火』。


苦しい。

痛い。

でも、ここで倒れる訳にはいかない。



「っ――」

「はっ、はあっ……」



視界から火が消え、俺は体勢を崩し座り込む。意識を削り取られたが何とか保つ。

後数十秒やられていたらマズかった。


そして土石も息を切らしながらフラッと倒れ――後ろの彼女に支えられた。

……異能は魔法と比べ体力、気力を一気に消耗する。

つまり燃費が異常に悪い。

そう長くは出来ないのだろう。


「さ、『サウンドヒール』!」

「『再生』!」


優しいオルゴールの音色。

やっぱり彼女の魔法は効く。


前に居る真野とやらの翼も強力みたいだ、彼の顔色がどんどん良くなっていく。



《――「……世界がなんだろうが、オレはその異能が好きだ、そしてそれを使う碧さん自身も。まとめてオレは憧れてる」――》



……憧れ。

俺が両親に向けていた感情と同じモノ。


目の前のコイツは、それを自分に向けて抱いていたんだ。

そりゃ怒るよな。

俺にとっちゃ、自分の親を馬鹿にされるようなモノなんだから。


「お前、名前は?」

「……炎だ、土石炎」


「良い名前だな」

「!」


名は体を表すと言うけれども。

ここまで似合う奴は初めて見たよ。


その異能も、性格も髪色も全部。

彼の親はセンスあるね。


「音無、今だけは俺に任せてくれ」

「……!」


頷く彼女を確認し。

彼らに声を掛ける。


「来いよ、炎」

「待ってよ! 炎は」

「いいや。大丈夫だ輝」


彼はそう言って、横の彼女を制した。

良いね。男のぶつかり合い。


「今なら、もっと『上』に行ける気がする」

「そうか。じゃあソレで来い、待ってやる」


「良いのかよ」

「もち」

「ありがとう……後悔すんなよ――」


戸惑う様に話す炎。

……異能ってのは成長する。

炎の中のソレも目覚め始めているんだ。


俺はお前の『憧れ』。

余裕の一つや二つ持ち合わせておかなきゃ務まらない。



「『パイロキネシス』……『ブースト増幅』!」




彼は目を瞑り唱える。

手の中、灯される火。

そして一拍置いてその身体が燃え上がる。


肩、腕、足。あちこちから。

青く、美しい火が彼をみなもととするように。



「行くぞ」

「ああ」



歩いて。

そして走って。



「『装甲化』――」



近付いてくる炎に、俺はただ待った。

その一撃を受ける為に。


「らああああああ!!」


目の前。

俺の腹に到達した彼の拳。



「――『リリース放出』!」



そして。

その拳から火が爆発したかの様に生まれ、馬鹿デカい衝撃が俺を襲う。



「――っ!!」



パリン、と。

鈍いガラスが割れる音と共に。



「ははは、服が滅茶苦茶だ」



俺の服はビリビリに破れ役目を果たす。

上半身はもう何も残ってない。

受けたのが腹で良かったよ。顔ならどうなってたか。



「く、そ……ッ!?」

「あんま見るなよ恥ずかしい」

「でもその傷――」

「こんなもんどうでも良い。お前は全部使い切れたか?」

「あ、ああ」

「そっか。じゃあ俺の番だけど」



ふらつきながら答える炎。

立っているのがやっとの表情。



「降参する?」

「まさか」

「ははは! そうか――な。俺の異能、どれが印象に残ってる?」

「へ……?」

「良いから答えろ。何でも良い」

「そ、そりゃ……あの生徒達を全員殴ってた所とか」



そう答える彼。

……殴ってた所って、そこ異能使ってねえ!



「了解。んじゃ『拳』で行くね」



でも。

彼がそう言ってくれるのであれば。

全身全霊のソレを、炎にぶつけてやろう。



「ははっおいおい……こんな状況で笑うのか?」

「それは碧さんこそ」



覚悟を決めた様に笑う彼。

俺も覚悟を決める。

今から炎にぶつけるのは、あの時隕石が降った日にも使ったモノだ。

いわば『切り札』。

俺が出せる最大火力。


……ぶっちゃけココまでする気は無かった。

Aクラス相手にも使うかどうか分からなかった。


でも今、目の前に立っている男には。

俺の全力を見せてやりたい――不思議とそう思ったんだ。




「ふー……」




深呼吸。

力を引き出す為に感情を高めていく。

瞑想、目を瞑る。

己の身体をモノとして、世界から切り離していく想像イメージ


今この瞬間から。

俺の異能は、一段階『上昇』する。



「『増速駆動オーバードライブ』」




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