タッグ試験・下

衝突する二人


この学園は風変わりで、異能を持つ生徒を募集している。そんな噂をちらっと聞いた。


実際、母親の力もあってココに入れたんだが……それだけじゃきっと無理だろう。

異能持ちを取り入れるという星丘の方針があってこそ、俺がココに入れたってもんだ。


実際『異能持ち』の差別を反対する組織とかも居て、ソイツらは異能を魔法と同列に扱う様世界に訴えかけている。

テレビで見た。

この平等主義(笑)のご時世。そんな組織に配慮したのがこの学校なのだろう。

真意は知らないけど。


「……良いのか悪いのか分からんけどな」

「?」

「ごめん何でもない」


呟いた俺を不思議そうな顔で見る音無。

独り言が多くてごめんね。


「ふーむ」

「?」

「そわそわ」

「だ、大丈夫……?」

「大丈夫じゃないかも」

「……!」

「冗談だって」


今日闘う相手が気になって仕方ないんだ。

これまでの人生、異能を武器にする奴なんてあまり居なかった。

実際俺の異能は最初からこんなんだった訳じゃない。


何の根拠も無いが、この肉体を鍛え続ければ魔力が生まれる……そう思い無茶に身体を痛めたのと。

異能という異物から解放されたくて死地に飛び込み続けるのを繰り返していたら、皮肉にも、『魔法』じゃなく『異能』の方が変に強く変わっていった。


色々あり親に泣かれてからは死ぬ気は失せたけど、この力は全く衰えずに健在だ。クソが。


「……はぁ」

「碧君?」

「ああごめん。マジで大丈夫」


タッグ相手に心配させたら駄目だな。

でも――イマイチ気が乗らないんだよ。


同じ異能持ち、この世界の『異物』同士。

争う訳じゃなく、ただお互いを慰め合いたいぐらいだったのに。


「ま、頑張るか……」


Aクラスに向けての道に、こんな苦境が待っているとは思っても居なかった。



「……あ」

「ボク初めて見た……アレが噂の?」


決闘場。

そこに現れたのは――二人の生徒。当たり前か。


一人はオレンジ髪の少年。

一人は白髪の少女。


二人とも魔法威力が下がる代わりに、魔力量消費が少なくなる魔道具……『オーブ』を装備している。

……第一印象はそんな感じ。ぶっちゃけ強そうには見えなかった。


でも彼らの視線はこれまでの奴らと全く違う。軽蔑とか嫌みとか、悪い感情を全く感じない。Bクラスの奴らとも違う。


こんな事ある訳ないのに。

それはまるで――


「良いの炎? お礼は」

「流石に闘う前に言ったら駄目だろ……」


雲の上の芸能人を見るようなモノで。


ますます分からなくなった。

闘う意思がどんどんと削がれていく。


というか、あのオレンジ髪どっかで見たぞ。

確か学校の校舎裏で――


「だ、大丈夫? 碧君……」

「ああ。ごめん、いつもの作戦通りじゃなく、音無はあの男の方を狙ってくれ」

「……分かった」


「えー、それではそろそろ時間になりますので準備よろしくお願いします~」


先生の声。

……ああクソ、やるしか無いのか。

同じ異能持ち同士で。




「それでは、音無&碧ペア、土石&真野ペア、決闘開始!」




掛かる声。

同時に俺は、右手に輪ゴムを装填。


「らあああああ!!」


そして赤髪の彼も突っ込んでくる。

魔法でもないただの突撃。

隙だらけのそれ。


「音よ、我の元に集い――」

「『発射』」


「!? 痛ッ!」

「破壊の音色を奏で――」


猫だまし成功。

この土石って奴は音無の追撃に任せて。

俺は後ろの、何もしてこない白髪の少女に照準を合わせる。


「『伸縮強化』」


右親指、爪に次のゴムを引っかけ装填。

左手で思いっきりそれを引っ張る。


「放て――『サウンドボール』!」

「ッ――輝!!」


音無はその音弾を土石へ。

俺はゴム弾を真野へ。


瞬間。


「ぐあッ――!!」

「『シックスフィンガー』!」


音を凝縮させた様な球体は、彼に衝突し三メートルほど吹っ飛んで。

一方俺のゴム弾は――突如と現れた彼女の『翼』によって防がれた。


理解が追いつかないまま、目の前の少年は立ち上がりそのまま走り出す。

……普通の奴なら、音無のアレで大体意識を失っていたのに。


「うおおおおおお!!」

「っ――『装甲化』」


そして迫る土石。

ああ、受けて立ってやるよ。


至近距離。


「燃えろ――『パイロキネシス』!!」

「!?」


少年の手に、一つの火が宿り。

俺の腕に触れた瞬間――視界が燃え上がる。


全身が火だるまになっている事に一拍遅れて気が付いた。

服に力を注いでいなければ、きっと今俺はタダでは済まなかっただろう。


「『脚力強化』――!」

「がは――」


「暴れて――『サウンドノイズ』!」

「……っ!? あああああ!」


靴により脚力を強化し、蹴りをぶち込む。

吹っ飛んだ彼に追撃の爆音。


……ここまですれば。


「ほ、炎!」

「はあっ、はぁ――はは、流石だな。思ってた以上だ」


しかし――土石はボロボロになりながらも笑っている。まるで俺との対戦を楽しんでいるかのように。

彼に駆け寄る『翼』の少女。

追撃のチャンスだったが、俺は攻撃をしなかった。

決闘中にお喋りなんてするべきじゃないだろう……でも今は、彼と話したかった。


「なあ。その火は異能か?」

「! おう、碧と同じの……」


なんで『さん』付け?

コイツは俺をどんな目で見てんだ。

同級生だぞ。


「お互い大変だな、こんな異物を抱えてこんなトコに来ちまって――」


俺は彼を慰めるつもりだった。

きっとコレまで、色々と大変な目に合っただろうと思って。


異能というモノを抱え、ようやく全勝したと思ったら、そんな奴ら同士で闘う事になっちまって。


……なのに。





「――――“異物”?」





彼は、さっきまでの眼差しから一転。

声が低くなり――どこか疑問の感情が見えた。


「? ああ」

「オレは……そんな風に思った事ない。何だよそれ」


「おいおい何怒ってる? 常識だろ、コレのせいで俺達は魔法を――」

「――碧さんは、自分の異能が嫌いなのか?」


彼は問う。

……そりゃそうだろ。


いくら便利でも。いくら強い力でも。

俺は――親や兄弟と同じ様に、『魔法』が使いたかったんだ。

世間から蔑まれる特殊能力なんて興味も無かった。


「当たり前だろうが。こんなもん持って生まれたくなかった――ふざけてんのか?」


「……ッ。何だよそれ――」

「ほ、炎!」


分からなかった。

どうして彼が拳を震わせているのか。


そして苛ついた。

彼のその、手にある杖に。


「お前、オーブを付けてるって事は魔法が使えるんだよな」

「……そうだけど」


「俺はお前が羨ましいよ。可能であれば『こんな』異能を投げ捨てて、お前の様に少しでも魔法が使える身体になりたかったさ!」

「――ふざけんな!!」

「ふざけてんのはお前だろうが……!」



ああクソ。

苛つく。

何なんだよコイツは――この世界じゃ、異能は『異物』で。

そんなモンより魔法の方が良いに決まってんだろ。



「世界が異能をそういう目で見るからか」

「ああ? そうだよ」

「碧さんの母親が、凄い魔法使いだからか?」

「っ! さっきから何を――」


「……世界がなんだろうが、オレはその異能が好きだ、そしてそれを使う碧さん自身も。まとめてオレは憧れてる」


「は……?」


訳が分からん。

『憧れ』?

コイツは何を言って――



「もう、もう良い……再開だ。碧さん」

「……」


思考が纏まらない。

そのまま――彼はゆっくりと近付く。


「あ、碧君!」


そんな音無の声にも、俺は反応出来ずに。


「――『パイロキネシス』!」


そして次の瞬間。

俺はその、『青い火』に包まれたのだった。

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