音魔法の実力



「はいはーい! お三方ですね!」


「そうっすね」

「……」


「んじゃ貴方達はE-11にどうぞ! はいはーい! えー、次は二人――」


放課後。

慌ただしく動く案内係の少女。

俺達は今『魔法練習所』に来ている。


星丘の誇る施設の一つ。

見た目は大きな体育館って感じだが、一定の区間ごとに魔法を吸収する透明な障壁が生成されている為安心して魔法がぶっ放せる。


しかも中で放った魔法から一部魔力を回収出来るというエコな仕様である。

当然その障壁は大抵の魔法では壊れない。


「どうなるんですか煉先生」

「あ? 壊れたら再生成されるだけだろ」

「安心だな」

「自慢じゃないがアタシはぶっ壊した事あるぞ、そこの壁とかも」


何て話す彼女はめちゃくちゃ自慢気だ。

偏見だけど、ゲームのパンチングマシーンとかぶっ壊して得意げに笑ってそう。


「……あ?」

「なんでもないっす」

「……っ」

「あーごめん音無。大丈夫? 怖かったな」

「だ、大丈夫……」

「なんかお前コイツに甘くねぇ?」

「そりゃ俺のタッグ相手様だし」


煉のせいでいちいちビクッとする音無に声を掛ける。


「オイ、そんなんで優生のタッグ務まんの?」

「……ご、ごめんなさい」

「まあまあ、それを今日確かめるんだから――ここか」


――「おい、アレ炎剣じゃね?」「しかも横のって例の……」「もう一人は誰だ?」――


区域に入っても、さっきから聞こえてくる周囲の声は消えない。

どうやらこの障壁に防音機能は無いらしい。

ああ、音無みたいに俺もヘッドホン買っちゃおうかな。




「――じゃ! 音無、ぶっ放して良いぞ」


何はともあれ、ようやく彼女の魔法が見れるわけだ。


「ぁ……」


……訳なんだが。

中々音無は魔法を発動しない。


「……あ? 何だ、さっきからお前黙ってばっか――」

「だから一々威圧すんなって煉……なあ音無、今日調子悪いのか?」


一緒にタッグを組むって事は少なくとも実用魔法組な訳で。


「……碧君、僕の魔法見ても幻滅しない……?」

「えっいやならないし、というかずっと音無は俺に使ってたろ」

「し、知ってたの」

「最初のチャイム音から知ってた。あの時の回復魔法っぽいのも……だから、ただ友達だからって訳じゃなく、コレまでの実績を見込んで音無にタッグを申し込んだ」

「ぁ……ありがとう」


実際かなり使えると思うんだよな。

回復魔法に関しては、普通の回復とも違う何かを感じたし。


「……一応言っておくがよぉ、コイツは元B組だぞ」

「え」

「……っ」

「半年毎にウチは試験があるんだ、その時コイツは――Eに落ちた」

「そうだったのか」

「……今アタシがココに居るのは、本当にコイツにB組程度の力があるのか試したかったからだ」

「寂しかったからじゃないんだ」

「あぁ!?」


いやぁ煉の反応は面白いな。

でも――BからEってのは相当だ。

ヘッドホンしてても授業態度は意外と良いし。

……うん。そこに触れるのは止めとくか、男の勘だが間違いない。

きっとそれはデリケートな――


「なぁお前なんでBからEに落ちた」

「っ……!」


あ。

煉さんさぁ、思い切り良すぎだよ。

でもやっぱり聞かれるのは嫌みたいだ、俯く表情が暗くなってる。


「あー別に良いってそんなの。大事なのは未来、そうだろ?」


「……」

「お前ほんとコイツに甘くね?」


最もらしい事を言って、俺は何とか空気を流したのだった。

過去を聞かれるのは自分もスゲー嫌だからな。親近感湧くんだよね彼女には。



「さ……『サウンドノイズ』」

「うおっ何だコレ気持ち悪ぃ!」

「うん、これは知ってるな――次頼む」


「『サウンドステップ』……っ」

「おー早い早い」


「『サウンドボール』」

「すげー、音の球体だ。バチバチしとる」

「へぇ。雷属性に似てるな」



……そんな感じで、音無には色々と音魔法を実践してもらったが。

終始どこか遠慮している様子だった。


「オイ、お前手抜いてんだろ? 詠唱も最小限だし。確か音魔法って結構詠唱長い属性だったろ!」

「ご、ごめんなさい……」


……魔法は詠唱によって発動する。

その詠唱は、属性により長さも変わったりするらしい。そして長ければ長い程魔法の威力もデカくなる。


ただ長いとその分集中力も魔力も必要だから、フル詠唱・ノーマル詠唱・短縮詠唱・無詠唱みたいな感じで詠唱の長さを使い分けるのが魔法使い。


異能? そんなもんない。

イメージと一番噛み合う言葉を、身体の奥からグッと発すると異能が発現する。

魔法みたいに長々した詠唱なんて無いのだ。その分体力の消費がエグいんだけど。

……ま、これは俺の一例だ。異能は個人個人で大分使い勝手が違う。俺の地元じゃ全く疲れないなんてヤツも居た。そういう所も研究が進まない要因だよね。



「音無。良かったらこれ使うか」

「! これ」


渡したのは、ただのマスク。

風邪の時とかに着けるアレ。



「……」



あ、大分楽そう。

音無はずっと口元を気にしてたからな。理由は分からないが。


「あんなの着けたら、詠唱のが落ちて魔法の威力が下がるぞ」

「まあ良いじゃん――これで詠唱ありで行けるか? 音無」


「うん、頑張る……」


「は? なんで?」

「乙女には色々あんだよ」

「お前男だろ! ってオイそれじゃアタシが乙女じゃないみたいな――!!」



音無が頬を染めながらマスクを装着。アレは恥ずかしいじゃなく、嬉しい方の表情だ。もう分かるようになってきた。

煉が横で騒いでるが気にしない。



「そ、それじゃ――音よ、我の元に集い……」



ヘッドホンに手をやり、詠唱を開始。

マスク越しでも何とか聞き取れる。

音無の詠唱なんて始めて聞くが、小さくも綺麗な声と思った――



「破壊の音色を奏で――重ねて、重ねて、重ねて――」



詠唱が続く度に、彼女の手へとバチバチと針の様なオーラが集まり、凝縮していき、球体を形成していく。


なんか思っていた以上に長くない? これはとんでもない事になるのでは?




「放て――『サウンドボール』!」


「ッ!?」

「うお――!」




詠唱が完了すると同時に、壁へと放たれるその球体。


バリバリバリと、その障壁を破る音。

それでも球体は消えず、未だ壁を抉る。


そして――




「あっ」




壁、破っちゃった。

役目を果たしたかの様に消える球体――そして一秒後、壁は修復され元に戻る。



――「え、誰?」「また壁ぶっ壊されてる」「どうせあの炎剣だろ」――


聞こえてくる声。

対して黙り込む俺達。



「……」

「……す、凄いじゃん……」

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