タッグ試験・上

プロローグ:辿り着く場所


朝礼の時間。

今日は何となく、先生緊張してるような。


「えー、今日はお日柄も良く……」


え?

何言ってんだこの人……今日曇りだぞ。


「めでたい事に二人のクラスメイト達もこの学び舎に戻り……」


笑顔を張り付けたままの先生。

帰ってきたの一週間前だけどね。


「えー、こほん。それでは年度末のクラス分けテストが近付いて事は知っていますね?」



ざわつく教室。

『クラス分けテスト』。

AからG、実際一番優秀な者が集まるAクラスなら、将来の幅は増えそうだ。



「……ばん!! この年度末のクラス分けはタッグ試験! そして本日から――タッグ相手の選定期間となります!」


「「「――!」」」



瞬間、クラスメイトの雰囲気が変わった。

机を叩く振りで効果音を声で言っているのは突っ込まないが。

それに誰も突っ込まないという事は、本当に大きな事なのだろう。


何にせよ『タッグ』。

二人一組で、その学期末テストをやるって事か。


「選考期間は一月中。それでは!」


壇上から降りて、先生が教室から出ていけば……


「おい! やっぱ年度末はタッグ試験だっただろうが!」

「くっそー、そうだよなあ……」

「ねえねえ私と組もうよ!! タッグ!」

「えー、アンタあんまり強そうじゃないし……」

「はあー!?」


騒ぎ立てるクラスメイト達。

誰か、説明してくれない?




「というわけで説明役の登場だ!」

「……あ? それ何かムカつくんだけど」

「ごめんごめん。とりあえず年度末試験について教えてくれませんか」

「はあ? そんなことも――ってそりゃ知らないか」


目の前には紅い髪を下げた、威圧感バリバリの女の子が座っている。

威圧感……つっても、俺じゃなく周りなんだけど。

ここ最近、昼休みになったら俺のクラスに突入してくる彼女。


昼休みの度にクラスメイトがざわついてるんだわ。絶対気にして無いだろうがコイツは。

あと俺の机を椅子と勘違いしていませんか? これだからヤンキーさんは。


ってコイツそういやAクラスだったわ。

俺は椅子です。


「はい、そッス煉さん。世間知らずの俺に――」

「うわやめろ気持ちワリぃ!! センコーから聞いただろ?」


彼女に頭を下げて、俺はそう言えば拒否の反応を示された。あの元舎弟のマネしたのに。

傷付くね。



「何かタッグ試験がどうとか言ってたな」

「その名前の通り、二人一組で組んで学年全体でヤり合うんだよ」



ニヤッと笑い煉はそう言う。

コイツが言ったら洒落になんねーって。



「もちろん、『非戦闘』組は普通に一人で別試験だ。お前は違うだろ」

「……非戦闘組って何?」


「あー、簡単に言えば……戦闘以外で魔法を取り扱う……魔道具生産職とか魔法研究職とかあるだろ?」

「うん」


「そんな職業に就きたい奴らも居るんだよ、ここには」

「確かに」

「その場合は別の試験をやって、おまけ程度にタッグ試験をやる」



アタシは絶対嫌だけどな、と笑って言う煉。

今は魔法使いというだけで選ばなければ職業には困らない。

魔法警察への就職や傭兵に専属の契約を結ぶ護衛役など、戦闘に関したモノ意外にも魔道具の職人や研究職など職業は様々だ。魔法産業はまだまだ発達中。


実際星丘にはその卵達が集まり……そこへ飛び立っていく者はその三割程度だろう。

この世界も甘くない、だが『選ばれた者』は将来を約束される。


そして。

俺は生まれながらに『選ばれなかった』側なんだけどな。

こうしてココに居て――煉と喋っているのが不思議で仕方ないよ。



「……お前は」

「ん?」

「お前は――最終的に、どうなりたいんだ?」



ふと。

煉が、俺を見て言う。



「それは――」



何だ?


俺はこの学校を出て、どうなりたい? そもそも将来の夢は何だ?

平凡な日常か。魔法とは無縁の生活か。

分からない。

俺は一体どうなりたいんだろうか。


……でも。

たった一つ確かに言えるのは。



「魔法を使えるようになりたい、かな」

「はあ?」



煉が、不思議そうに俺を見る。

そうだ――魔法を当たり前のように使えるんだから、そんな反応になるよな。

俺はそれにずっと憧れて来た。子供の頃から今に至っても。

この『異物』ではなく――魔法という力が欲しい。

でもそれはきっと叶わない。

叶わないならどうするか?


使えないなりにその世界で藻掻くんだ。

『何か』が俺の中で見つかるまで。

寝て起きたら、異能が消えて魔力が宿るなんて夢物語――それに未だ焦がれる自分も居るんだけどね。


「その試験で、お前のクラス――Aクラスまで上がれるのか?」

「ん? ああ」

「じゃあ、目標はそこだ」


Aクラス。

星丘魔法学園、一学年150名中、選ばれた15名。

それが所属するクラス。

言わば星丘のトップだ。


「……アタシより強い奴とも、相手するかもしれねーぞ?」

「望む所だな」

「一度でも負ければ恐らく無理だ」

「負けなければいい」


藻掻くなら高い方が良い、出来る限り高い所まで。


「大した威勢だなオイ。アタシを倒した男だから当たり前だが……で」

「ん?」


「タッグの相手はどうすんだ?」


……。


「どうしよ」

「はあ!?」


「煉さ――」

「同クラスのみに決まってんだろ! パワーバランス考えろ!!」


「……」


そんな強く言わなくてもさ……まあ分かってたけど。

当たり前の話だ、俺が煉と組めるのなら他もAクラスの連中に殺到してるって。


「……!」


タッグ。

その言葉を聞いた時点でそれを組む相手は決めていた。

……さっきから、俺の方をチラチラと見ている彼女。


「音無」

「! ど、どうしたの?」


「組むかタッグ」

「! ……うん」

「良かった」


年度末試験まで、後一週間。



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