S.燃え移る火

同じ場所


【☆スターヒル・ドロップアウト☆】


222:名前:名無しの落ちこぼれ

おい大ニュース大ニュース!!!


223:名前:名無しの落ちこぼれ

なんか最近大ニュース多いね……


224:名前:名無しの落ちこぼれ

俺の昼飯パクられた!!!


225:名前:名無しの落ちこぼれ

かわいそう


226:名前:名無しの落ちこぼれ

そりゃ大ニュースだな


227:名前:名無しの落ちこぼれ

あの嵐の転校生が一対三十一の決闘に勝利

そして学園八位の弟を退学に追いやった異能使いの登場


あれから一週間が過ぎていた……


228:名前:名無しの落ちこぼれ

ほんと二、三日はマジで俺達恐れられたよな


229:名前:名無しの落ちこぼれ

ちょっと気持ちよかったわ


230:名前:名無しの落ちこぼれ

本当にね ボクをいじめてきた奴らも一時的に収まってた


231:名前:名無しの落ちこぼれ

一時的に  あっ


232:名前:名無しの落ちこぼれ

悲しいね


233:名前:名無しの落ちこぼれ

はい、普段通りです


234:名前:名無しの落ちこぼれ

今日もパシリにイジメにシカトに頑張っていこうぜ!


235:名前:名無しの落ちこぼれ

嫌すぎて草


236:名前:名無しの落ちこぼれ

お前らネタだよな? な?


237:名前:名無しの落ちこぼれ

真実は闇のみぞ




「出席とるぞ~」


アレから、オレの日常は変わった。なんたってタクマが退学したから。

そして当然アイツが居ないって事はパシリなんてしなくて良い。

むしろクラスメイト達はオレを怖がっている気さえする。


「土石!」

「はい」


今日も元気に点呼へ返事。

……ただ、人ってのは欲深い生き物なもんで。パシリから脱却した今、普通に友達が欲しくなってしまった。


「はぁ……」


「っ!?」

「や、やべぇ」

「燃やされるぞ……」


デッカいため息を一つ。

すると周りが急にビクビクとし始める。

いや、お前ら一週間前の自分への態度と違い過ぎない?

息を付くだけでコレって。

まるで優等生の中に一人居る問題児みたいになってんじゃん。


「それじゃ一限目始めるぞ~」


異能が開花しようが、魔法技能だけはどうしようもない。

せめて学業だけは優等生のままで居たい。

そう思い、今日も授業へ取り組んだ。



キーンコーン……


「……ふぅ」


昼休み。

ずっとパシリにされてきたけど、いざなくなれば休憩時間は倍近くになっていた。


「……」


こういう時、友達とか居れば一緒にご飯とか食べるんだけどさぁ。


「……また誰か燃やすのかなアイツ」

「……お前聞こえるぞ!」


教室はずっとこんなんだし。

気晴らしに散歩でもするか……。

幸い星丘はかなり広いから、歩いていても全く飽きることが無い。

そしてオレの足は、過去に異能が開花した――校舎裏へ向く。


今思えばアレからそこを見ていなかった。

そんな思い入れとかある訳じゃない。

ただもしかしたら、オレみたいな奴がそこに居るんじゃないか――そう思ったからだ。


「ま……流石に無いか」



「――おらッ! 『六本指』が!」

「なんでお前みたいな奴がココに――」

「聖属性が使えるからって、その魔力量じゃゴミだろうが――消えろ!」


「う――がっ……」


で。

校舎裏――そこでは、三人の生徒が一人の生徒を罵倒し、殴っていた。

三人は制服だが、やられている生徒は体操着姿だった。


まさか本当に居るとは。

いや、この学校やばいだろ……。


「おいお前ら! そんなことして良いのかよ!」


「!?」

「なんでこんなトコに――」


「ちなみに今先生呼んだ」


「っ、早くずらかるぞ!」

「クソが――」


ちなみに先生なんて呼んでない。

馬鹿だなアイツらと笑って見てると――



「ごめん……ありがとう」

「おう。オレは土石炎、お前は?」

「ま、真野輝まのひかる



体操着姿でボロボロになった真野は頭を下げた。

珍しい白色の髪と中性的な顔つき。

男にしては少し長めの髪も相まって、可愛いよりのイケメンってやつだ。 

羨ましい……嫉妬もあったんじゃないかアイツら。



「土石君は何で助けてくれたんだ?」

「いや、やられてたし。あと炎でいいよ」

「……それだけ? 炎君」



不思議そうな顔をするソイツ。

言うべきか迷ったけど、変に隠すより良いか。


「オレも、ココで昔やられてたんだ」

「えっそうなの」

「……異能持ち。それが理由で三人から殴る蹴るの暴力だよ。さっきのお前みたいに」

「……」

「ほら、えーっと、着火」


手の平に小さな火を灯してみせる。

普通これが魔法の火であれば、術者の手の上に火の玉が『浮いている』だろうが……これは異能。


まるで手が着火剤であるかのように、火は手からくっついて絶対に離れない。

本当に近距離専用の異能だよな。


「助けた理由としては十分だろ」

「……」

「どうした」

「なんで、その手の火で……そんな誇らしげに話せる?」  

「オレの異能、結構気に入ってるから」

「な……」


考えられない、そんな反応をする彼。


「――分かってるのか!? 異能ってのはゴミで、ゴミだけならまだ良い、捨てる事なんて出来ない、魔力量も全部コレのせいで吸われてんだぞ!?」

「あ、ああ」

「コレさえなければ、ボクはこの、回復魔法で沢山の人を――!!」


急に饒舌になってびっくりした。

コイツなりに色々抱えてたんだな。


「真野の異能は?」

「……教えないと駄目なのか」

「いや、オレもそうだったんだけど……異能ってさ、何か進化するんだよ」

「は?」

「いや、は? じゃなくてマジで。あの学園八位は知ってる?」

「うん」

「あの弟のタクマはどうだ?」

「え……退学したって聞いた。噂だけど、異能持ちを瀕死まで虐めたあげく返り討ち。なんか燃やされたはずなのに外傷はあまり無くて不思議な――ん?」


なんというか、彼は結構長文喋るよな。


「それオレだ」

「ええ!?」

「ははは、ちなみにお前の異能は?」

「……」

「大丈夫、絶対に馬鹿にしない」

「……本当に?」

「ああ。それがお前を助けるモノになるかもしれないんだ」


彼の目を見て言う。

オレはその気はもちろん無いけど、そのイケメンフェイスにドキッとした。


当然自分にその気は無いぞ!


「分かった……『シックスフィンガー』」

「! お前あのスレッドの」

「あは、うん。でも本当に笑わないんだね」


彼の綺麗な手には、五本指の他にもう一本指が生えていた。

場所で言えば小指の隣。肌色では無い真っ黒のそれ。


「当たり前だろ。何かそれを出してる時に変化とかは?」

「……何もない。ただここに有るだけ。しかも出してるだけで凄くしんどい」

「し、しまっていいぞ」

「っ――と。で、本当にコレがボクを助けるって?」


彼が力を入れるとその指は引っ込む。

そして上ずった声でそう言った。

不安、期待……希望。そんな感情がこもったそれに。


「ああ、きっと。この自分がそうだったんだから」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る