告白


「……本当に良いのか?」

「う、うん」


アレから放課後。

話は早いもので、今オレ達は決闘場に居る。


「あのぉ、本当にお二人闘うんですか?」


「ああ」

「うん」


「分かりました……最近は変な決闘が多いですねぇ。それじゃ指定の位置にどうぞ」


立会人である彼女が慣れたように案内する。

そういや決闘なんて初めてだったわ。


「それでは――始め!」



「あ、『アースボール』!」

「や……っ!?」


「ご、ごめん大丈夫か?」

「っ……大丈夫じゃ駄目だと思うんだけどな」

「それもそうか――んじゃもう一発!」

「わぁちょっと待って! 深呼吸させて……」

「あ、ああ」


なんというか、オレ達何やってんだろ。

でも仕方ない。

少なくとも分かっている条件は『魔力ほぼゼロ』で『瀕死』、かつ『異能発動状態』。


ネットにも当然そんな情報は落ちてなかった。

そしてそれが不気味で、怖かったのだ。


だから掲示板にも、ネットにもばら撒くことはしなかった。

もしそれをしてしまったら――何の確証もないけれど、とんでもない事になってしまいそうな気がして。



「し、『シックスフィンガー』! 来て!」


「土よ、敵へ土塊を――『アースボール』!」

「やっ……!? はぁ、はぁ……」



異能は発動しているだけで体力を大きく消耗する。

早めに彼を……その、楽にしなければ。


「手っ取り早く行くぞ、今からオレの異能をお前にぶつける」

「……わっ分かった」

「大丈夫――この火が消える頃には、お前の異能もきっと変わる」

「うん、うん……!」


彼へ接近。

その震える肩を左手で持って。


右手の小さな火を、彼の身体に――


「うっ、うぅ……怖い、怖いよ」

「!」

「ごめん、ごめんね……ボク、怖くて……ごめん……」


目の前。

彼は泣きながら――崩れ落ちていた。


……そうだ。

普通に考えて怖くない訳がないんだ。

生半可な覚悟で出来る話じゃなかったのに。


オレは、何をやってんだよ……。





アレから、決闘は中断して近くの物陰へ。

ずっと泣いていた彼からは背を向け待っていた。

男なら、きっと自分の涙なんて見られたくないだろうし。


「……」

「お、落ち着いたか?」

「……うん」

「その、本当にごめんな……」

「……なんで君が謝る」


沈黙。

どう声を掛けて良いか分からない。


「顔洗ってくるね」

「あ、ああ」


そう言って、彼は近くにあったトイレへと向かった。

……ん?


「おっ、おい――」


そこ、女子トイレ! なんて言う間も無く彼は行ってしまう。


……ちょっと待て。

色々とこれまで引っかかった点について整理しよう。


男にしては高い声に中性的な顔つき。

抱えた時の驚く程の体重の軽さ。

近くに居ると感じる甘い香り。



「もしかして、アイツって……」



女の子、かもしれない。





「……うん、ボク女だよ」

「……」

「あは、やっぱり勘違いしてた。でも良いんだ、ボクもそのつもりだったし」

「え」

「きっと女だと分かってたら、決闘の時遠慮してたよね?」

「それは……」

「結局遠慮させたけど!」


自虐気味に笑う彼『女』。

泣いたせいで充血したその目は、どことなく悲壮感があった。



「……ボク、もう学校辞めようと思うんだ」

「!」

「異能も理由の一つだけど、ボクって本当に駄目だから」



また、彼女は涙を流し始める。

オレを見ながら。

まるで答えを求める様に。



「気が弱くて、いじめられても何も出来なくて、先生にも嘘ついて。さっきみたいに肝心な時にも弱っちゃって」


「学校も辛いだけなんだ、貴重な聖属性に適正があったからDクラスに入れたけど、入れた『だけ』で、異能持ちって知られただけですぐにいじめられた」


「憧れだった可愛い制服も破かれて滅茶苦茶にされて、大事にしてた、背中まであった髪も無理矢理ハサミで切られちゃって……っ、うっ、こんな事なら――ボク、星丘に入学するんじゃ無かった。叶わない夢なんて追いかけずに、普通の女の子として、普通の学校に行っていれば……っ!」



目の前の彼女は、涙を地面に落としながら話す。オレは頭が何かで埋め尽くされ――真っ白になった。

同情とか哀れみとか、そんな言葉で表現出来ない感情。


彼女は一体これまでどれだけの悲痛を受けてきたのか。

制服を破かれた時も、手入れしてきた髪が無理矢理切られた時も。

そしてその度、自分の弱さに嫌になった時も。夢を諦めるその瞬間も。



「ごめんな真野、気付いてやれなくて」

「……!」



泣きじゃくる彼女を静かに抱き寄せた。

このままだと壊れてしまう気がしたから。

そして今――覚悟を決めた。



「もう遅いかもしれないけど。オレがお前をそうした奴ら、今から全員ぶん殴ってやる」

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