告白
☆
「……本当に良いのか?」
「う、うん」
アレから放課後。
話は早いもので、今オレ達は決闘場に居る。
「あのぉ、本当にお二人闘うんですか?」
「ああ」
「うん」
「分かりました……最近は変な決闘が多いですねぇ。それじゃ指定の位置にどうぞ」
立会人である彼女が慣れたように案内する。
そういや決闘なんて初めてだったわ。
「それでは――始め!」
☆
「あ、『アースボール』!」
「や……っ!?」
「ご、ごめん大丈夫か?」
「っ……大丈夫じゃ駄目だと思うんだけどな」
「それもそうか――んじゃもう一発!」
「わぁちょっと待って! 深呼吸させて……」
「あ、ああ」
なんというか、オレ達何やってんだろ。
でも仕方ない。
少なくとも分かっている条件は『魔力ほぼゼロ』で『瀕死』、かつ『異能発動状態』。
ネットにも当然そんな情報は落ちてなかった。
そしてそれが不気味で、怖かったのだ。
だから掲示板にも、ネットにもばら撒くことはしなかった。
もしそれをしてしまったら――何の確証もないけれど、とんでもない事になってしまいそうな気がして。
「し、『シックスフィンガー』! 来て!」
「土よ、敵へ土塊を――『アースボール』!」
「やっ……!? はぁ、はぁ……」
異能は発動しているだけで体力を大きく消耗する。
早めに彼を……その、楽にしなければ。
「手っ取り早く行くぞ、今からオレの異能をお前にぶつける」
「……わっ分かった」
「大丈夫――この火が消える頃には、お前の異能もきっと変わる」
「うん、うん……!」
彼へ接近。
その震える肩を左手で持って。
右手の小さな火を、彼の身体に――
「うっ、うぅ……怖い、怖いよ」
「!」
「ごめん、ごめんね……ボク、怖くて……ごめん……」
目の前。
彼は泣きながら――崩れ落ちていた。
……そうだ。
普通に考えて怖くない訳がないんだ。
生半可な覚悟で出来る話じゃなかったのに。
オレは、何をやってんだよ……。
☆
アレから、決闘は中断して近くの物陰へ。
ずっと泣いていた彼からは背を向け待っていた。
男なら、きっと自分の涙なんて見られたくないだろうし。
「……」
「お、落ち着いたか?」
「……うん」
「その、本当にごめんな……」
「……なんで君が謝る」
沈黙。
どう声を掛けて良いか分からない。
「顔洗ってくるね」
「あ、ああ」
そう言って、彼は近くにあったトイレへと向かった。
……ん?
「おっ、おい――」
そこ、女子トイレ! なんて言う間も無く彼は行ってしまう。
……ちょっと待て。
色々とこれまで引っかかった点について整理しよう。
男にしては高い声に中性的な顔つき。
抱えた時の驚く程の体重の軽さ。
近くに居ると感じる甘い香り。
「もしかして、アイツって……」
女の子、かもしれない。
☆
「……うん、ボク女だよ」
「……」
「あは、やっぱり勘違いしてた。でも良いんだ、ボクもそのつもりだったし」
「え」
「きっと女だと分かってたら、決闘の時遠慮してたよね?」
「それは……」
「結局遠慮させたけど!」
自虐気味に笑う彼『女』。
泣いたせいで充血したその目は、どことなく悲壮感があった。
「……ボク、もう学校辞めようと思うんだ」
「!」
「異能も理由の一つだけど、ボクって本当に駄目だから」
また、彼女は涙を流し始める。
オレを見ながら。
まるで答えを求める様に。
「気が弱くて、いじめられても何も出来なくて、先生にも嘘ついて。さっきみたいに肝心な時にも弱っちゃって」
「学校も辛いだけなんだ、貴重な聖属性に適正があったからDクラスに入れたけど、入れた『だけ』で、異能持ちって知られただけですぐにいじめられた」
「憧れだった可愛い制服も破かれて滅茶苦茶にされて、大事にしてた、背中まであった髪も無理矢理ハサミで切られちゃって……っ、うっ、こんな事なら――ボク、星丘に入学するんじゃ無かった。叶わない夢なんて追いかけずに、普通の女の子として、普通の学校に行っていれば……っ!」
目の前の彼女は、涙を地面に落としながら話す。オレは頭が何かで埋め尽くされ――真っ白になった。
同情とか哀れみとか、そんな言葉で表現出来ない感情。
彼女は一体これまでどれだけの悲痛を受けてきたのか。
制服を破かれた時も、手入れしてきた髪が無理矢理切られた時も。
そしてその度、自分の弱さに嫌になった時も。夢を諦めるその瞬間も。
「ごめんな真野、気付いてやれなくて」
「……!」
泣きじゃくる彼女を静かに抱き寄せた。
このままだと壊れてしまう気がしたから。
そして今――覚悟を決めた。
「もう遅いかもしれないけど。オレがお前をそうした奴ら、今から全員ぶん殴ってやる」
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