エピローグ:隣席の少女


俺は、立ってカーテンを首に巻いていた。

もうすぐ中学生になる俺は、その時何を考えていたんだっけ。



《――「優生!! 何して……!」――》



俺はそのまま、『座り込む』。

当たり前のように――カーテンは俺の首を絞めつけて――


――暗転。




―――――


―――



《――「――うおっ優生すげー!!」――》

《――「はっはっは、俺にソフトボール投げなんてさせたら駄目だって」――》

《――「頼むから次の試合助っ人でも良いから来てくれ」――》

《――「マウンドで疲労困憊でも良いなら」――》

《――「守護神として起用しよう」――》



それは、相野市に居た頃の事。

助っ人で野球をやった事もあったっけ。


楽しかった。

チームスポーツってのは良いよな。大会でも結構いいところまで行ったんだよな。あの時はテンションが上がりまくって9イニング投げた事もあったっけ。


はあ、本当に楽しかったよ。

大事な俺の青春だ――





―――――


―――





「――っ!! って夢かよ……」


「……えらく荒れた起き方ですね」


「うわびっくりした!!」



嫌な過去の夢かと思えば楽しい夢。

そんなジェットコースターのような夢から俺が飛び起きると、横にいつものえみりさんが居た。

この病室にももう大分居た気がするが、未だにこの人には慣れないな……



「今日から学校ですが、時間はもう8時を超えていますね」

「いや、起こしてくれよ!」


「病人を無理やり起こすわけには行きませんので」

「……まあ確かに」



そう、俺は今日から学校に再度通いだす。

暫くは様子見って事で、この病室からだが……


アレからすでに一週間が経過。これ以上学校を休むのは流石に……という事で、退院ではないが登校は出来るようになったわけだ。



「ほら、あまりお喋りする時間はないはずですが?」



結局えみりさんは最初からこれまで、俺専属かってぐらい付き纏って……いや、看病してくれた。

勿論他の患者さんも診てたけどさ。



「……今、失礼な事考えませんでした?」

「! そんなバカな」


「……そうですか」


まったく……心を読めるのかこの人は?


慌てて訂正してよかったな。



「ほら、時間が無いんだって。着替えるからどっか行ってくれ」

「……? もうとっくに制服じゃないですか」


「えっ――!? 何でだ!?」



自分の恰好を見て驚く。

昨日たたんで置いておいた制服は……確かに消えて、俺が着ていた。

流石に――俺は寝ながら服を着替えられるほど意味不明な寝相じゃない。



「うふふ」



……何かを含んだような笑いをするナースさん。

いやいや、まさか、寝ている間に……



「ほら、可愛い同級生も待ってますから」


カーテンの外を叩いて、急かす彼女。

あーもう考える時間もない!



「――あ。でもちょっとだけ」

「!?」

「ほらリラックスリラックス……」

「ああ……」



彼女は俺の頬を両手で触り、目を合わせてくる。



「『笑って』」

「……ありがたいけど。今やる必要あった?」



瞬間。

えみりさんの異能により――俺の表情は笑顔に変わる。

この前話した時から事あるごとに彼女はそれをやってきた。

いやまあ相野町の楽しかった思い出を再生してくれるのは本当に嬉しいんだけど。



「今急いでるんだって!」


「笑いながら怒ってて面白いですね」

「……行ってくるわ」


「貴方の顔、好きですよ。子供みたいで」

「はいはい……行ってきます」


「どうぞ、気を付けて帰ってくるんですよ」

「はーい」



靴を履いて、俺はカーテンを開ける。



「おう、おはよ」

「! ……おはよう」


「そっちはもう身体大丈夫なのか?」

「……うん」

「そっか」


そこには、既に制服を来た音無が居た。

彼女も同じく病室からの登校を続けるらしい。


病院から学校まで。『友達』と登校するのはえらく久しぶりな気がするな。

それは同じ病院に居るから、自然な流れで一緒に登校するとなったのだが。

……主に、えみりさんの一声で。


冬らしくマフラーを巻いて、ヘッドホンを装着した彼女。

頬がほんのりと紅い。寝起きだろうか。



「行くか」

「……うん」



時期は一月の中旬。

色々あり過ぎた様な気がするが……何はともあれ。

今日からまた再スタートだ。

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