聞こえた声



「出席とりまーす! 〇〇君! ××君!」



今日も元気な担任の声から、朝のホームルームは始まっていく。

朝の眠気が少し残るが……これのおかげで目が少し覚めるな。ほんの少し。



「音無さん! ……欠席かな? あれ、何も連絡貰ってないんだけど……まあ先に、△△さん!」



先生が困ったように呟く。そう……今日は隣の音無が居なかったのだ。

てっきり風邪か何かと思っていたが、連絡が無いとなると寝坊か何かだろうか?

まさか寝る時もヘッドホン着けてたりしないよな、音無……。



「点呼終わり! 誰か、音無さんから何か聞いてたりしない?」


「「「……」」」



そういう先生の問いに、無言のクラスメイト。



「うーん、そうですか……また後で電話してみようかな。今日の連絡事項は――」



そのままホームルームは進行していく。

誰も居ない隣席ってのは寂しいもんだな。



『キーンコーン……』


チャイムが鳴る。

結局音無は、四時限目になっても隣に来ることは無かった。

寝坊にしては遅すぎる……恐らく病欠だろう。


「寝よ」


今日はやけに眠い。というか怠い。

何故かは分からないが……俺も疲れているんだろう。

誰かさんの病気がうつってたりしてな。


「これでいいか」


ポチポチと選曲する。

今日はよく眠れるように、静かめな曲にしよう。


『……♪』


やがて、俺の耳をピアノの音色が包んでくれる。


『……♪♪』


心地良い音色。

ゆっくりと意識が落ちて――


『……◇……■□……』

「っ!?」



飛び起きる。

……今。確実に、『何か』が耳の中で聞こえた。

反射的に取ってしまったイヤホンを、俺はまじまじと見てみるが……何もない。


――「そうそう、それでさ」「次の授業体育だっけ?」「俺体操着忘れた」――



耳に伝わる教室の声。

そしてそれには、さっきのノイズのような声は聞こえなかった。



『…………』



何だってんだよ、全く。



「……? でもこの音、どこかで……あ」



違和感。

耳に残ったノイズに、記憶が知らせる。

これはただの雑音じゃない。


「……まさか」


ふと、過去の事を思い出す。



《――『『i◆u□o◇u』!!」』――》



数日前――昼休憩で決闘を持ち掛けられた時だ。

あの時のように激しく頭を振られたようなモノでは無いが……

『似ている』。根拠は無いが……そんな気がした。


「あの時の爆音は、音無なのか?」


分からない。でもあの時。俺は確かに――



《――「全くの他人だ。隣の席ってだけのな」――》



もしこの言葉で音無が傷付いていたのなら、合っている。

あの時は絡んできたアイツらを追い払う事しか考えていなかったが……そう考えると、俺は酷い事を口走っていた。

……仕方ない。今は切り替えよう。



《――「俺と友達になってくれないか」――》



そして昨日、聞こえた自分の声。

あの時は気が動転して『同調』も力の解除も念じずそのままにしていた。

そしてアレから異能を発動していない。



「まさか、そのままだったのか――?」

『……□……◇』



もう一度、イヤホンをつけて耳を澄ます。



「……やっぱ、聞こえるな」



もう、聞き間違いじゃない。

そしてこれが何か意味するものだったとしたら。

もし、音無の『声』だとしたら。



、としている……のか?」



分からない。

でもこれは絶対に、聞き逃してはいけない気がした。


「もっと、静かな所に行かないと」


俺は教室を出た。

このとても小さな声を聞き逃さない為に。





「……何気に初めて来たな、ここ」



図書室。

いいや、これはもはや『図書館』と言ってもいい。

校舎を出て直ぐにあるそれは、大量の本だけでなく設備面も充実している。


説明していたらキリがないが……今必要なのは、自習机だ。

生徒が一人で集中して勉強出来るよう、簡単な個室のような場所がある。

俺が考えられる一番静かな場所がここってわけだ。

ここを知ったのは昨日の煉の学校案内のおかげである。



「……ふう」



深呼吸。俺は、イヤホンを装着した。



『…………』


まだ。


『……△……』


ノイズ。もっと集中しなければ。


『……◇……□□』


このままじゃ、やはり訳の分からない音のまま。

仕方ない。


「『音質上昇』」


耳に手を当てトリガーを引く。

より明確に音を理解する為、イヤホンの音質を強化した。


「……◇◇◇……△◇◯◯」


ノイズがマシになるが足りない。

こんなもんじゃ、音無の声は聞き取れない。

もっと、もっとだ。



『あ……く………』


「!」


声。

さらに俺は、イヤホンに力を込める。



『――――たす、けて――――』



――耳に届く、その音。

しっかりと聞き取れた。

助けを求めるその声が。






「こんなもんか」



『魔法都市観光マップ』

『学生の為の魔法都市・第六区明細地図』

『流行に遅れるな! 第六区スイーツマップ』


俺の手にはいくつかの本が握られている。 

この学園エリア……魔法都市第六区に関する地図だ。

手当たり次第に取っていったが、これで十分だろう。



「……久しぶりだな、『アレ』をやるのは……」



多分迷子になった妹を探した時以来かも。

机に戻りさっきの本を広げる。

俺の現時点の場所のページ……星丘学園で引けば直ぐ出て来たな。流石名門校だ。


「ふう……よし」


深呼吸。覚悟を決める。

これからやるのは、かなりの体力を消耗する。

何せ――、モノの力を引き出すからな。


集中。

地図に手をかざし、イヤホンを着けておく。


「『地理把握』……っ」


まずは地図の力を引き出し、地理情報を頭の中へ急速に取り込んでいく。

様々な情報を頭に取り込み、自分だけの地図を作り出す。

魔法都市、情報量が多すぎて目眩がするな……


「はあ。しんど……」


息が切れる。

何とか学園区域を頭の中に叩き込んだ。

今ならまるでそこを歩いているかの様に三次元の地図を頭に浮かべられる。

一つは完了。


次……イヤホンに手を当てる。



「『音量上昇』」



イヤホンを通じて、今度は音量を強化する。

より大きくノイズを拾う必要があったからだ。


「……△△!! ◇!」

「いっ――十分」


耳を刺すノイズに顔をしかめながら、苦笑いする。

少々デカすぎるぐらいが丁度良い。



「よし」



これで全ての準備は整った。

音無を、絶対に見つけ出す。



「……◇……〇〇」



現れる次のノイズ。

俺は、能力のトリガーを引いた。



「『捜索サーチ』!」



耳に届いた爆音のノイズを、学園区域の地理に『紐付け』する。

音の発生源を俺の頭の中の地図に与えるイメージだ。

音の行方に向けて現在地から伸びていく線。

あらゆる道を通り、時折曲がっていく。

やがて――ある場所に、その音は到達した。



「……そこか」



距離にして、ここから二キロ程離れた場所。

そこに――確実にいる。

地図とイヤホンから手を離し、俺は立ち上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る