見つける火
魔法使いにとって、異能持ちは蔑まれる。
それを持つことで魔力量は少なくなって適性も低くなって、その代償が手に火を灯したり消しゴムを浮かしたり……その程度だからだ。
だが自分が思うに、一番の理由は『魔法ではない』異能を持つ俺たちが奴らにとって醜いからなんだろう。
もし、ほんの少しでも世界の認識が今と違っていたら……オレの中に宿るこの異能は、蔑まれるモノじゃなく羨まれるモノだったのかもしれない。
「はっ、はっ……」
なんて、走りながら普段はしないポエムを頭の中に並べているのは……異能持ちの転校生が、ここの生徒に喧嘩を売ったと聞いたからだ。
聞いたっつーか掲示板で見ただからだけど。
恐らく異能がどうこうでクラスメイトと喧嘩にでもなったんだろう。激情して、冷静な判断も出来なくなって。
普通に考えて、異能持ちが普通の魔法使いに敵うわけが無い。
もしそれでソイツが敗北したら、クラスの居場所なんて無くなるだろう。
『口だけ』。『無用の長物』――そう呼ばれながら。
……そうだ。
もしそうなってしまっていたらオレが友達になってやろう。
居場所がない者同士、せめて手を差し伸ばしてやりたい。愚痴をこぼせる場所も教えてやろう。
うん、決めた――
「おっおい見ろよあれ、三十一対一ってイジメだろ」
「転校生頭おかしいんじゃねえの」
「でも提案したのはアイツだぜ、自業自得」
――いや、何言ってんの?
「は?」
マジでいた。
恐らく転校生であろう奴が一人。
そして対面する大量の生徒。
その中には――学園十位の『炎剣』も居る。
「それでは両者――始め!!!」
は、始まっちゃったよ。
「「火よ、彼の者に炎を――」」「「水よ、敵に水針を――」」「「風よ、前へ――」」
手加減などするつもりもないのか、三十を超える集団は杖を構えていて。
「「「ファイアーボール!」」」
「「「アイスアロー!」」」
「「「ウィンドブラスト!」」」
「……おかしいだろ、こんなの」
聞こえるその大合唱。
俺は――ただのギャラリーのはずなのに、腹の中で何かが燃え上がっていくのに気付いた。
一人の『異能者』。
そして三十を超える『魔法』が、彼に降りかからんとしている光景に。
まるで異物を魔法使い達が踏みつぶす――この『世界』を表すかのような、そんな現実を目の辺りにして。
……一瞬でこの決闘は終わる。
ただ一人、また『無用の長物』が無意味な喧嘩を売って、負けた結果だけが残る。
――「な、なあ、不味いんじゃないか?」「いくらなんでもひどいって」「まさか、この決闘場で事故なんて――」
観客達は、今更になって不安げな声を出す。
それなら最初から止めろよクソが。
「アイツ、大丈夫か――!?」
実際もう終わったはずなのに、確かに鳴らないブザー。
示す結果は、まだ『終わっていない』ということ。
「おいおい、あんだけの魔法ブッパしといて――『心配』でもしてんのかよ?」
出てきたのは『無傷』の彼。
一体何が起こっているのか分からなかった。
どんな手を用いたのか、どんな異能を使ったのか――俺は、そんな事よりも。
「さて、と……今からお前ら一人ずつ気絶するまで殴っていくぞ」
「ふ、ふざけんな!」
「な、殴るってお前――」
「しょうがねえだろ?お前らの知ってる通り――俺は魔法が使えねえんだからさ」
異能持ち――そんな彼が大量の魔法使いを黙らせた事。
それが、どうしようもなくカッコよく思えたのだ。
□
【☆スターヒル・ドロップアウト☆】
100:名前:名無しの落ちこぼれ
おっれの目が蛾物故割れた
101:名前:名無しの落ちこぼれ
安心しろ 俺の目も同じ光景を見てる
102:名前:名無しの落ちこぼれ
何あれ? 魔法じゃねーのアレ?
103:名前:名無しの落ちこぼれ
防御魔法としても格が違い過ぎる
104:名前:名無しの落ちこぼれ
言ってんじゃん本人 魔法じゃないって!!
105:名前:名無しの落ちこぼれ
んじゃあれが異能って言うのか? 俺のこの自分を一センチ浮かせるだけの異能と同じ異能って言うのか!?
106:名前:名無しの落ちこぼれ
この六本ある指――【シックス・フィンガー】もアイツみたいになれるの?
わけないよね
107:名前:名無しの落ちこぼれ
>>105-106
お前ら落ち着け、異能バレてんぞwww いやそれどころじゃないけどwwww
108:名前:名無しの落ちこぼれ
うおおおおおおおもっと殴れ!!!! 殴れ殴れ
109:名前:名無しの落ちこぼれ
きもちーーーーーwwwwww
110:名前:名無しの落ちこぼれ
実際親とか侮辱する声聞こえてたし キレてもしょうがないわ
ここまで大暴れするとは分からんかったけど
111:名前:名無しの落ちこぼれ
うおおおおおブチかませーーーー!!
112:名前:名無しの落ちこぼれ
アイツ何者だよ
□
住民達の声も。
逃げ惑う決闘会場の生徒達も。
全ては彼が生み出したモノで――ほんの少し。ほんの心の片隅で。
『俺もああなりたい』。
そう、心の中で思ってしまった。
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