S.小さな火

『ハズレ』


オレの名前は『土石つちいし ほのお』。

そして呼び名は――


「――よう『ハズレ』! ジュース買ってこいや!」


お手本の様なパシリ。

不良でリーダー格の西条拓真さいじょうたくま……通称『タクマ』に、自分はどやされていた。

星丘はアルファベット順に優秀な生徒がクラス分けされている。

つまりこのGクラスは最底辺。

最底辺の一番下がオレって訳だ。



「あ、ああ……」


「俺マジカルサイダーで」

「私レモンティー!」

「俺は――」


「……あの、代金は」


「あ?」


「……ごめん、行ってくる」


「チッ話途切れたわ! でさぁ――」



放課後。

ホームルームが終わり、帰ろうとした時に声が掛かった。

何時ものように。その不条理に突っ込める訳もなくオレは教室を出る。


喧嘩なんてしようものなら即終了、魔法に関しては始まる前から勝負がつく。

何たってタクマはここの学年八位の弟らしいからな。

半年ごとのクラス替えにて、素行不良でGクラスだけど。


んで……三人で大体五百円。

今日の夜飯は冷凍庫の半額おにぎりで決まりだな。



「……はぁ、クソ共が……」



ある程度教室から離れてから毒を吐く。

でも――




【☆スターヒル・ドロップアウト☆】


30:名前:名無しの落ちこぼれ

あーーーーーーーーーー早く来年になってくれ

俺はもうここ辞めたい


31:名前:名無しの落ちこぼれ

今日もパシリにされました


さよならオレの五百円


32:名前:名無しの落ちこぼれ

>>31

ま? 何だよそのカス共  


33:名前:名無しの落ちこぼれ

>>31

自分は1000円やられた! 勝ったわ!


34:名前:名無しの落ちこぼれ

負けだよ


1000円とか俺達にとっちゃ大金だぞ……ほんと世界は不合理やね


35:名前:名無しの落ちこぼれ

あーあ、学校に隕石でも落ちてこねーかな……そしたら休みになるのに


36:名前:名無しの落ちこぼれ

>>35

またどっかのニュースみたいに跳ね返す奴が出てくるぞwwwwwww


37:名前:名無しの落ちこぼれ

アレはむしろ見たいからOKか……



「……はは」


廊下にて立ち止まり、そのチャットルームに書き込む。

オレと同学年で、同じ境遇の奴らが集う――『落ちこぼれ』達の隠れた居場所。


日陰者のオレ達にはこの匿名制と掲示板方式が良くハマっていて、気付けばいつも盛況だ。

同学年の誰かが作成したらしいそれ。名前が分からないってだけでこんなにも気楽だとは思わなかった。


何時だったか――『集え、一年の落ちこぼれ共! 異能持ち大歓迎!』なんて書かれた紙がばら撒かれ、ココへの入り方が載っていたのだ。

オレ以外のクラスメイトは即ゴミ箱に投げ入れてたっけ。



「何か笑ってるよアイツ、キモ」

「確か――そうだ!G組の『ハズレ』だ」

「はは、せめて『無用の長物』って言ってやれよ」


「……っ」



聞こえてくる声。

せっかくメンタルを持ち直したってのに、また削られる。


……そうだ。オレは『異能持ち』。

能力はあえて言葉にするなら『発火』……聞こえはいいが、手のひらにロウソク程度の火を灯せるだけ。

火といえど、自身の手しか不可能であり。


何よりこの異能のせいで、魔法適正と魔力量は常人よりも劣る。

しかも魔法適正は『土属性』。何もシナジーが無い。


この学校では異能持ちだと面接でいえば点数が上がる謎採点だったからギリギリ入学出来たんだが……普通の魔法学園じゃまず入学不可能だ。校長の意向がどうとうか言ってたな。


死ぬほど勉強して入学出来て、ココで魔法使いに――

そう考えていた今のオレは、クラスの落ちこぼれ兼パシリだ。

くそったれ。



「……サイダーにレモンティー、後何だっけ……やべえ忘れちゃった」



あーあ、嫌な声を聴いたせいでパシリ内容が飛んだ。

現実逃避――またスマホを触り打ち込む。





【☆スターヒル・ドロップアウト☆】


45:名前:名無しの落ちこぼれ

さっきの31です

パシリ内容飛びました

コーラかカフェオレかどっちだと思う?


46:名前:名無しの落ちこぼれ

カフェオレ!


47:名前:名無しの落ちこぼれ

コーラ!


48:名前:名無しの落ちこぼれ

煮え湯


49:名前:名無しの落ちこぼれ


50:名前:名無しの落ちこぼれ

そうだそうだ! 俺の火魔法で熱した水ぶち込んでやるよそんな奴


51:名前:名無しの落ちこぼれ

おい!!!! 大ニュース大ニュース!!!


52:名前:名無しの落ちこぼれ

どした?


53:名前:名無しの落ちこぼれ

今決闘場でヤベェ事が起こってるんだって!!


54:名前:名無しの落ちこぼれ

何か異能持ちが生徒に喧嘩撃っlった、今から決闘場でやるらしい


55:名前:名無しの落ちこぼれ

お前ら見に来いって新たな仲間かもしれん


56:名前:名無しの落ちこぼれ

おちけつ

わけわかめ


57:名前:名無しの落ちこぼれ

あともうちょいで始まるっぽうい


58:名前:名無しの落ちこぼれ

くそ、俺の火魔法で沸かし中のカプメンが……



『異能持ち』。

そのワードで、パシリ内容はまた吹き飛ぶ。


そしてソイツが――喧嘩を売っただって?



「……どんな奴だよ」



気付けばオレは、決闘場へ足を運んでいたのだった。

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