エピローグ:入学編
「はあ……」
決闘を終え、これでちょっとは俺を見る目も変わってくれるだろう。
そんな事を昨日寝る前にほんの少し思っていた。
……ほんの少し、それで正解だった。
――「あれが、噂の?」「一対三十一で、全員降参負けだってよ」「はあ!? 化け物じゃねえか!」――
登校の最中、聞こえる声。
噂ってのは本当に広まるのが早いもんだ。
聞こえが悪い、俺は単純に攻撃を『防いだ』だけだってのに。
実際その後倒れたし。肩も貸してもらったからな、決闘相手に。
「――あの学年十位の『炎剣』も降参したって話だぜ!」
無意識に聞こえる声に耳を傾けていると、そんな事が聞こえる。
……いやあかっけー二つ名持ってるよな、アイツ。
ちなみに俺は『裏口入学』と『コネ野郎』です。二つもあるよ。誰か交換しませんか。
「……綺麗だったな」
思い出す。
昨日の煉の魔法は凄かった。特に最後!
正直危なかった。炎に刃なんて、『服』とは相性最悪だったからな。
実際切れたわけで。
『炎剣』。その名の通りスパッとね!
――「あ! おい、あれ新型の魔動二輪じゃね?」「うわーかっけえ、やっぱ魔動二輪だよな!」「わかるわかる」――
俺の横をバイクのような乗り物が横切ると、噂話が消える。
そうだ……きっと、すぐにこれも消えてくれるだろう。
さっき横切って行った魔道二輪とやらのように。
☆
「……ぶっ!!」
校門に入った途端、紙のようなものが顔を覆う。
これは……新聞か?
俺は顔に張り付いたそれを剥がして、何となくその一面を見る。
「は?」
見出しを見て、出た言葉がそれだった。
『号外! 一対三十一、制したのは碧優生!」
『転校初日で学年十位!』
『だがしかし、あの炎剣と共に帰宅する様子が――』
「何だよ、コレ……」
見ればちらほらと生徒がこの新聞を持っている。
ある事無い事書かれてそうなそれを、俺は丸めてポケットに入れた。
最後のヤツなんて写真付きだぞ。プライバシー無いの? 訴えたら勝てるよね?
「もう、何つーか……いいや」
なぜか転校初日よりも突き刺さる視線を浴びながら、廊下を歩いていく。
どうやら噂は中々消えてくれそうにない。
気にしたら負け、そう思う事にした。
「――ッ!」
「ひっ……」「き、来た……」
と、廊下の隅に煉が居た。プラス子分二人。
俺はその前で立ち止まる。
「ゆ、優生――」
「おはよ煉。昨日はありがとね」
怖い顔をする煉を遮って、俺は笑って彼女に言う。
実際超助かったし。
「ッ!」
不意を突かれた表情をする煉。思えば前よりずっと顔も柔らかくなった。
うん、やっぱ怖い顔よりそっちのがいいな。
昨日一緒に帰った時と同じ顔だ。
「ああそうだ……またあの魔法見せてくれないか?」
「ふざけんな! ちょ、調子狂うんだよテメエは!」
顔を紅くして言う煉。
……まあそりゃ簡単には見せてくれないか。
本当に綺麗だったんだけど。
「……ど、どうし……ってなら、また……」
俺が背を向けると、小さい煉の声が聞こえた。
彼女に珍しい可愛らしい小鳥程度のそれ。
意識を向けていなかったせいか、聞き逃してしまう。ほんとだよ。
「……何か言った? もう一回言って? ほらほら」
「な――何でもねえよ!どっか行けよ!」
煉ってイジると楽しいね。
話せる? 奴が一人できた。
これは大きな前進だな。
教室に入り、少し居心地の変わった机に座る。
まだまだ二日目。ここでの生活は始まったばっかりだ。
ただもう一人――何か視線が気になるような。
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