エピローグ:入学編


「はあ……」



決闘を終え、これでちょっとは俺を見る目も変わってくれるだろう。

そんな事を昨日寝る前にほんの少し思っていた。

……ほんの少し、それで正解だった。


――「あれが、噂の?」「一対三十一で、全員降参負けだってよ」「はあ!? 化け物じゃねえか!」――


登校の最中、聞こえる声。

噂ってのは本当に広まるのが早いもんだ。

聞こえが悪い、俺は単純に攻撃を『防いだ』だけだってのに。

実際その後倒れたし。肩も貸してもらったからな、決闘相手に。



「――あの学年十位の『炎剣』も降参したって話だぜ!」



無意識に聞こえる声に耳を傾けていると、そんな事が聞こえる。

……いやあかっけー二つ名持ってるよな、アイツ。

ちなみに俺は『裏口入学』と『コネ野郎』です。二つもあるよ。誰か交換しませんか。


「……綺麗だったな」


思い出す。

昨日の煉の魔法は凄かった。特に最後!

正直危なかった。炎に刃なんて、『服』とは相性最悪だったからな。


実際切れたわけで。

『炎剣』。その名の通りスパッとね!


――「あ! おい、あれ新型の魔動二輪じゃね?」「うわーかっけえ、やっぱ魔動二輪だよな!」「わかるわかる」――


俺の横をバイクのような乗り物が横切ると、噂話が消える。

そうだ……きっと、すぐにこれも消えてくれるだろう。

さっき横切って行った魔道二輪とやらのように。



「……ぶっ!!」


校門に入った途端、紙のようなものが顔を覆う。

これは……新聞か?

俺は顔に張り付いたそれを剥がして、何となくその一面を見る。


「は?」


見出しを見て、出た言葉がそれだった。


『号外! 一対三十一、制したのは碧優生!」

『転校初日で学年十位!』

『だがしかし、あの炎剣と共に帰宅する様子が――』



「何だよ、コレ……」


見ればちらほらと生徒がこの新聞を持っている。

ある事無い事書かれてそうなそれを、俺は丸めてポケットに入れた。

最後のヤツなんて写真付きだぞ。プライバシー無いの? 訴えたら勝てるよね?


「もう、何つーか……いいや」


なぜか転校初日よりも突き刺さる視線を浴びながら、廊下を歩いていく。

どうやら噂は中々消えてくれそうにない。

気にしたら負け、そう思う事にした。


「――ッ!」


「ひっ……」「き、来た……」


と、廊下の隅に煉が居た。プラス子分二人。

俺はその前で立ち止まる。


「ゆ、優生――」

「おはよ煉。昨日はありがとね」


怖い顔をする煉を遮って、俺は笑って彼女に言う。


実際超助かったし。


「ッ!」


不意を突かれた表情をする煉。思えば前よりずっと顔も柔らかくなった。

うん、やっぱ怖い顔よりそっちのがいいな。

昨日一緒に帰った時と同じ顔だ。


「ああそうだ……またあの魔法見せてくれないか?」

「ふざけんな! ちょ、調子狂うんだよテメエは!」


顔を紅くして言う煉。

……まあそりゃ簡単には見せてくれないか。

本当に綺麗だったんだけど。



「……ど、どうし……ってなら、また……」



俺が背を向けると、小さい煉の声が聞こえた。

彼女に珍しい可愛らしい小鳥程度のそれ。

意識を向けていなかったせいか、聞き逃してしまう。ほんとだよ。



「……何か言った? もう一回言って? ほらほら」

「な――何でもねえよ!どっか行けよ!」



煉ってイジると楽しいね。

話せる? 奴が一人できた。

これは大きな前進だな。


教室に入り、少し居心地の変わった机に座る。

まだまだ二日目。ここでの生活は始まったばっかりだ。





ただもう一人――何か視線が気になるような。

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