決着


「アタシの正真正銘、最後の攻撃だ……受けれるもんなら受けてみな!」

「了解」

 


彼はその炎に逃げようともしない。

煉を見据えて、立ち向かう。



「行くぜオイ!!」

「来いよ」



彼に、迫りくる炎の刃。

煉の最後の攻撃は、空気を燃やしながら彼に向かう。

やがてその炎の刃が、彼の元に――



「オラアッ――――!!」


「っ!?」



『バリン』、と。


――ガラスの割れる音。

それが、容赦なくこの決闘場に響き渡っていった。



「……流石、炎剣とか聞こえてくるだけあるな」



そして。

その少年の左腕は――あっけなく切られていた。

地面に落ちたソレを彼は眺めてそう呟く。



「ッ――何で……!」



しかしこの状況――引いているのは煉の方だった。

ショッキングなその状況に、彼は全く動じていなかったからだった。

まるでそれが慣れた事であるかの様に振舞っている彼に、彼女は恐怖を感じていて。



「来ないの? 俺今右腕しか使えないけど」

「……!」

「来いよ」


「ッ――オラァ!!」

「とっとっ! ――おいおい、動きが鈍ってるな」



杖を振るう彼女の一撃を軽く避けて煽る彼。

そしてそれが、先程の攻撃はわざと受けた事を示していた。



「なあ。『星丘』ってのはこんなもんか?」

「て、テメェは左腕を失ってんだぞ!」


「だから何だ? この程度は『魔法世界』じゃ普通だろ。それにここ出たら復活するし」

「ッ!」


「こんなもん修羅場なんて言わねえよ……っと」



優生は怯んだ彼女を一見して。

彼は落ちている左腕を拾い上げ――自身の身体にくっ付ける。

解れた制服の糸を同時にそれへ巻き付け。 


そして――



「――『縫合治療ストリング・オペレーション』」

「なッ!?」


次の瞬間、彼の左腕は元通りに接合し動き出した。

これで良いだろ――そう言いたげな優生の視線。



「お望み通り治したけど。やらないの?」

「……ッ。アタシは――」

「?」



全ての火が消えた、煉の姿。

そして結局無傷の優生。

まだ魔法は扱える――が、『焔剣』という彼女の切札で彼を倒せなかった今、敗北は決定した様なものだ。



「お前はアイツらとはなんか違うし、もう良いか……んじゃ」



そのまま立ち尽くす彼女を背に、優生は黙って出口へと向かう。

元々勝敗なんてどうでも良かった彼は、立会人の宣言を待つ事などしない。

そもそも彼女に対しては怒りが沸かないのだ。


『終わった』。察した優生は、それだけ言って立ち去ろうとする。



「ま、待てよ――立会人!! アタシの負けだ! 宣言しろ!!」


「ひ、ひえっ!? わ、分かりました!! しょ、勝者――『碧優生』!!」



彼が出ていく前に――煉が叫び、立会人が慌ててそう宣言する。


彼女のプライドが、黙って出ていく彼を放さなかったのだ。

キッチリ勝敗は着ける……それが煉の決まりだった。



「……別にお前の勝ちでもよかったのに」



出口の扉の前、彼は止まる。



「ざけんじゃねえ! アタシの攻撃を受けて、無傷でいたテメエが何を――」



激昂する彼女。煉にしてみればこれ以上の無い侮辱。

最大の攻撃――『焔剣』を受けてなお、今立っている彼は最初と何ら変わりない。

プライドが折れた、その瞬間。



「それは最終的なってだけで。いやほら、切られてたじゃん」

「――ああ!?」


「こわっ」

「……クソッ」


しかし『敗者』に言葉を発する力なんてない事も分かっていた。

喧嘩においては、『勝者』が絶対――彼がそう思ったのなら、それを否定する事など出来ない。



「あーもう分かったよ……出来るならこのままカッコつけて帰りたかったのに」


「何を――」



彼女の方に振り返る優生。

そして――その、左腕を上げた。


「今まで右腕で防いだのを左腕に切り替えたのは――お前の最後の攻撃が不味いと思ったからだ。お前の『焔剣』は、さっきまで右腕で受けてきた全ての攻撃よりも怖かったって訳だ。分かるだろ?」


案の定それで切られたからな……と笑って言う彼。



「な、何だよ、ソレ――」

「そういう事だから。気にすんなって、実は超ビビってたから」



彼女は優生に向けた顔を、地面へと向ける。

今の表情を、人に見せたくなかったから。


「……うっせーよ」

「はは、要らないお世話だった?」


扉を開ける彼。

黙ってその背を見送る煉。



「じゃあ、さよ、なら――」



たった今――碧優生VS星丘生徒三十一名。

その異例の決闘が、碧優生の勝利で終わり――





「――あっ。やっぱ無理っぽい……」

「は……? おっオイ!」



その扉に手をかけた彼が――その場で倒れこんだのだった。

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