一対一


ガランと、数秒前までとは打って変わった決闘場。

今ここで――の決闘者が対峙していた。



「何だ、お前は残るのか?」

「……アタシを、あんな腰抜け共と一緒にするんじゃねえよ」



三十一名。

たった一人、残ったのは――『神楽煉』だった。



「どうして最初からその力を使わなかった?」



問う彼女。

当然の疑問だった。



「何でって……使う必要も無かったからだ、あとそんな『テンション』でも無かったから」

「ッ、そうか」


「……で? お前もどうして『あの時』攻撃しなかった」



優生もまた疑問があった。

煉がなぜあの中で、攻撃を行わなかったのか。



「卑怯だろうが……アタシはそういうのが大っ嫌いなんだよ」

「そうなんだ」



煉は元々彼と一対一でやるつもりだった。観客も入場禁止にするはずだった。

ただこの学園に転入してきた――『碧優』の息子であるという噂の彼の実力を、測りたかっただけだったのだ。


しかし舎弟である二人が申請をやるというので、頼んだ所『こんなこと』になっていた。 


(……まさか、アタシがこんな状況になるなんてな)


煉は心の中で嘆く。

彼の不可思議な『異能』――それは、予想以上のモノだ。

『敗北』……喧嘩で負け知らずの彼女に、その二文字が薄っすらと浮かぶ。



「……その綺麗な顔、殴られるのが嫌ならさっさと逃げた方がいいかもよ」

「ざけんじゃねえ!!」


「冗談だって、あっ綺麗ってのは本当だから」

「ッ――さっきから訳分かんねぇ事ばっかホザきやがって!」



こんな状況でも平然と冗談を飛ばす彼。

対して煉は動揺していた。

これまで会った者共とは何もかも違う優生に。


だが当然、彼女に『逃走』の選択肢は無い。

観客席に居た口だけの者達も、いつの間にか決闘場から全員消え失せていた。



「ごめんって。ちょっと冷静になってきたんだよ……じゃ、やろうか」



それだけ言って、彼は歩く。



「舐めやがって――火よ、我に加護を――」



唱える煉。

彼女の『杖』は、他の者とは少し違う。

まるで竹刀のような形状のそれは――彼女独自の『戦闘スタイル』に因るものだ。



「『炎装フレイムメイル』!」



詠唱完了。炎が彼女を包み込む。

まるでそれは火の鎧。



「すげえな、そんな事もできるのか」



目を丸くする優生。

彼の表情は、純粋な驚きの感情。


しかしまたそれが煉の気に触れていた。



「ああクソッ……調子狂うんだよテメエは――火よ、我に剣を――」



詠唱開始と共に火の鎧から一部火が離れ、杖へと移動していく。

火の玉が移り行くその光景は、こんな状況でなければ中々に幻想的だ。



「『炎剣フレイムブレード』!!」



詠唱完了。

杖へと移動した火は、うっすらと『刃』を象っている。



彼女の得意魔法――『炎装』からの『炎剣』は攻撃力に秀でた魔法だ。

『炎装』の火の鎧も合わせて、攻防一体の魔法になっている。

彼女はこの魔法で幾多の喧嘩を切り抜けてきた。



「行くぞ――っ!!」



煉が走る。

迎え撃つ――訳でもなく立ち尽くす優生。

一瞬で彼女の間合いに入り、刃が首元へと迫る!



「――なっ!?」



そう声を荒げたのは、彼女の方だった。

寸での所……彼は服に包まれた右腕で刃を防いだのだ。

まるでそれは当然かの様に、刃は『割れる』。



「はッ――クソッ、炎よ、我に剣を――『炎剣』!」



刃が割れた動揺を切り替え、距離を取って再詠唱する煉。

身体を包むそれから再度杖に火の刃が宿った。



「て、テメエ……何でアタシに追撃しねえんだ」

「すげー綺麗な火だと思ってさ。見惚れてたんだよ」


「ッ――ああ!? ふざけんな!!」


彼女の問いに答える彼。

不意を突かれた、そんな表情をする煉だったが――再度、怒りの表情へと変わる。



「……コレで、終わらせてやる――この身を護る火の鎧よ――全て烈火れっかの刃と変わり――我が敵を討滅とうめつせよ』!」



長い詠唱と共に、彼女の全身から炎が燃え盛って――杖へと移動する。

先程とは違う、が杖へ。



「『焔剣フランベルジュ』!!」



詠唱完了。

その刃は最初とは比較にならない。

轟轟と燃え盛る火に、サイズも段違いだ。

鎧を捨て、攻撃のみに特化した――煉の最後の切り札。



「アタシの正真正銘、最後の攻撃だ……受けれるもんなら受けてみな!」

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