決闘②


『神楽煉』とやらが到着して数分か。

俺に威勢良くしていた強面二人は、煉の傍にずっと居た。


《――「オイ。言ってた条件と違うじゃねぇか」――》


《――「す、すいません!」――》

《――「あんな野郎がココに居るのが、俺達我慢出来なくて」――》


挑発でもしてくるかと思ったが、あの様子を見る限りあの二人は煉の『舎弟』な奴だろう。

ちなみにさっき、その彼女に怒られてた。二人とも顔面蒼白。ざまぁねえな!


・――「おっ、アレが噂の」「確か『碧優生』だっけ?どこかで見たことあるような名前……」「一対三だろ? 大丈夫かよ……しかもアレって、あの『炎剣』じゃ」――


決闘場は大きな体育館のような場所で、上には観客席のような場所がある。

そしてそこに――ワラワラと人が集まってきていた。


正直ガヤが鬱陶しいが別に良い。

どうせすぐに終わるから。



「えーっと、それじゃ決闘の立会人を行わせて頂きま――」

「さっさと始めな」


「は、はい!はじへ……始めさせて頂きます!」



赤髪の彼女――神楽煉がそう言うと、立会人の眼鏡少女は顔を白くする。

噛んでるし。



「指定の位置に着いて下さい……お互い、準備は良いですか?」

「ああ」

「おう」



俺と煉、加えてお付きの二人が頷く。



「それでは両者――始め!!!」




「地よ、敵へ土塊を! 『アースブラスト』!!」


煉の舎弟であろう強面が、恐らく五回目位の詠唱を完了させる。

無から現れる土の塊が俺の顔面に――



「ぐっ!」



構わず受ける。

めっちゃ痛ぇ!

衝撃で俺の身体は地面を転がり、やがて止まった。



「……何の、つもりだ?」



ボロボロになった俺を見て、そう言う煉。


見たまんまなんだけどな。 

俺は決闘が始まってから――三人に攻撃を全くしていない。

されるがまま、ってやつだ。

あー疲れた。もうこれで十分だろう。あの二人の気も済んだ事だろうし。


異能で反撃? 疲れるから無し。

こんな奴らに使うほど俺の体力は無駄にできません。

時代は省エネ。


「お前らの勝ちだよ、決闘は……これでいいか? 立会人さん、降参だ降参」


「えっ!?は、はい!勝負あり!!えっと、只今の勝負、『碧優生』の降参により、勝者は――」


立会人の宣言を耳に流しながら、俺は決闘場の出口へと歩き出す。

早く帰りたい。


疲れたし、帰ってダラダラしないといけないしな。

授業のせいで頭がパンクしそうなんだよ。



――――「何だよ、アレ……」「やる気あんの?」「つまんねー」――――



嫌でも耳に入るガヤ。

鬱陶しいが反応する程でもない。



「テメエ、ふざけてんのか? 悔しくねえのか?」

「俺の目的は『決闘を受ける事』だけだ。勝ち負けはどうでもいいんだよ」


煉の声に振り向く。

あの時の約束。

それに、『決闘に勝利する』なんて言葉は全く無かった。



「……ッ!」



驚く表情をする彼女。

少しだけ気味が良い。



「じゃあな――約束は守ってくれよ」

「おい、待て――」



返事を待たずに、踵を返す。

さっさと帰ろう。



――「おい、もう終わりかよ!」「何だアイツ」「転校生がどんなもんかと思ったら……」――



鬱陶しいガヤを聞くのも終わりになりそうだ。



「煉さん追わなくて良いですか?」

「……ああ」

「ですよね!! あんなヤロー、関わるだけ無駄っすよ!」



出口間際、そんな会話が聞こえる。

どうやら良い感じにあの舎弟共が進めてくれている様子だ、やるじゃん!







「それにしても――アイツ、本当に『碧優あおいゆう』の息子なのか?」






でも。


扉に手を掛けようとしたその時だ。

観客席からその名前が俺の耳に入った。



――「えっ、それマジなの?」「お前知らねえのかよ、ほら、アイツの苗字は『あおい』だろ」「なのに『無用の長物』持ち!? かわいそ~」――


その言葉は火種となり、燃え移っていく。


――「あの人の息子とは全く思えないよな」「異能持ちらしいよ」「魔法の才能、妹に全部取られたらしい」――


聞こえてんだよ、全部。


――「それでコネ入学? 必死過ぎでしょ」「親が可哀そうだよね」「ってか、そんな息子を『ここ』に入れるなんてさ」――


ドクン、と。

心臓の音が、木霊する。



――「アイツの親、相当頭オカシいんじゃないの?」――



扉に手を掛けた腕を手前に引っ張る。

この鬱陶しい音を消すよう強く。この怒りを少しでも消すために強く。


バタン、と大きな音を立てて扉は閉まった。




「――――おい、聞けよお前ら」




静まり返った観客席。

俺はそこへ声を向ける。

そいつら全員に届くように。



「魔法が使えないとか、『無用の長物』だとかは百も承知で事実だ。だからそんなもんどれだけ言っても構わねーよ。ただ――」



怒りのままに、声を発する。



「――母さんの事を、家族の事情も何も知らねえお前らが――俺の『誇り』を馬鹿にするんじゃねえ!」



もう後先考えられない。

コイツらをどうにかしないと、収まりがつかない。




「降りて来い、達観気取った観客ギャラリー共が――っ!」




その先、声を更に大きくして。




「お前ら全員、!!」

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