決闘


えらく素っ頓狂な事を言われた。

『決闘』だって?俺はタイムスリップでもしたのか?


「ハハハ! 嫌なのかよ! それでも受けてもらうぜ」


嫌に決まってんだろ……。

ただ、断る選択肢は無いわけだしな。


「分かったよ、決闘でも何だって受けてやる」


俺は首を縦に振った。

その瞬間――何となく、このクラス全体がざわついたのを感じた。


「おいおいマジで受けたぞコイツ!」

「馬鹿じゃねーの!?」


子分っぽい二人がそう笑う。

……受けたら受けたでコレだよ。勘弁してくれ。



「今日の放課後残っとけ――おい! 煉さんに報告だ!」



昼休みの最中。

俺は、決闘を売られたのだった。

『休み』って知ってる?





「……決闘ってマジ?」

「あの子も何か、ちょっと可哀そうになってきたかも」



俺の席から二人が去った後、教室は再度湧き始める。

そしてその話題は当たり前の様に俺になっているようだ。


……まあ、そりゃそうか。



「……」



にも関わらず、横の彼女は大人しい。

まあ取り合えず嵐は去ったか。

なんて思いながら、俺は頬杖をつこうとした、そんな時だった。



「―――― 『i◆u□o◇u』!!」


「がっ!?」


思わず耳を塞ぐ。

耳鳴りなんてもんじゃない轟音が、俺の鼓膜を震わせる。


「はあ、はあ……」


周りを見ても、クラスメイト達は何事も無かった様に会話を続けている。

……訳が分からん。


俺、疲れてるのかな?

もうやだ星丘。ココ変な心霊スポットとかじゃない?



あれから誰に絡まれる事なく、時間は過ぎていく。

昼休憩・五限・六限。

時間はあっという間だ。因みにこの学校は基本六限で終わり。

授業時間は短く、内容は濃く。それがモットーなんだろう。

実際濃すぎて一生徒が現在進行形で苦労してるんだが。



「ふう」



一息つく。

さて、授業も終わったし後は帰宅するだけ。

なんて。


「待たせたな」


『コレ』を片付けてからだな。

忘れてくれるわけもなく、金髪達が俺の元に現れる。忘れてくれたら良かったのに。


「……俺、早く帰りたいんだけど」


実際怠いんだよ。

帰ったら色々とやる事あるんだよ。大事な用事が。

ひたすらダラダラするとかな。


「心配するな、すぐに終わらせてやる」

「……なら早くして」

「てめえ、覚悟しとけよ――っ!来い!」


俺がそう返すと、眉間に皺を寄せる金髪達。

もうやだコイツら。



迷路のような学園内。

俺は強面共に連れられて、その中を歩いていく。

本当バカでかいなここ……。


「なあまだ?」

「……うるせえ。もう着く」


教室が並ぶ校舎から出て、太陽の光を浴びる。

そしてそのまま歩いて――



「学校にこんな場所あるか?フツー……」



そこは、確かに『決闘場』と言える場所だった。

馬鹿でかい体育館の風貌で、中は真っ白の大広場。

観客席もあり、何故か常にもう人だかりが存在している。


「お前の為にわざわざ借りたんだぜ?感謝しろよ」

「それはどうも」

「チッ……その余裕の顔が崩れるのが楽しみなもんだ」


俺と強面が睨み合う。

どっちかと言えば、睨んでいるのはあっちの方だけなんだが。


「――はいはーい! そこまでそこまで!」


そんな俺と彼の間を裂くように、一人の女の子が割って入る。


眼鏡を掛けた元気そうな彼女。



「申請した亮君ね? 後は……君が言ってた転校生の子?」

「ん?ああ」


「……決闘の事についてはお互い了承済なのね?」

「何も詳しい事は聞いてない……取り合えず受けた」


「ええ!?」


驚いた顔をする彼女。

まあそりゃそうか……でもどうせ受けるんだし。

それを聞いて、いや無理だとは言えない。


「ま、何とかなるから」

「そ、そう……一応簡単に説明しとく?」


「頼む」


頷くと、手短に彼女は説明してくれた。

星丘魔法学園では、当たり前ではあるが魔法を用いた生徒間の戦闘は禁止だ。

しかしこの決闘場で正式に決闘許可を貰えれば、幾らでも使って良いとなっている。


それが『決闘』。名前だけだとかなり誤解を生むが、それはただの生徒間の魔法戦闘練習だ。負けた方が勝った方に何か命令出来るとかそんなのは無い。生徒間で好きにやるのは自由ではあるが。後この決闘結果は一応記録されるのでおふざけは厳禁。

ちなみに決闘場では、トンデモ魔法技術で戦闘中に負った傷も終わればすぐ治るらしい。

そこでは実際に身体に傷を負っているわけではないからだと言うが……俺の頭には理解不能である。


そしてこの決闘は、人数制限がない。

グループ間での戦闘練習なども魔法学園では重要であり、その為に五対五とかの組合わせも出来るそうだ。

お互いのグループが決闘条件を確認し、了承すれば決闘を始められる。ここは本来の決闘と同じか。急に一対二とか吹っ掛けられたら酷いにも程があるからな。

……そんな理不尽な事、あるわけないもんね! ね!



「……まあ、そんな所。えーっとそれで、今回の決闘は碧優生君対、君達の三人だね」


「……」

「あ、あの、了承貰わないと決闘出来ないんだけど……」



本当、酷いと思うよ俺は。

眼鏡の彼女の後ろにいる二人がニヤニヤと俺の方を見て笑う。

正直かなりムカついている。


自分が断れないのを分かってるからだろうが、かなり頭に来るよな。



「ああ、『了承』だ。異論なし」

「……わ、分かったわ」


……うん、って三人?

って事はあと一人――



「……テメエが、『碧優生』か」



綺麗な赤髪を背中まで伸ばした、ロングヘア―の女。

端正な顔立ちではあるものの、睨んだだけで相手が怯みそうな程、目付きが鋭い。

そして何よりも――あらゆる者を寄せ付けない、『威圧感』があった。

後、朝電車で会ったわこの子。




「『神楽煉かぐられん』だ。アタシが――テメエを見定めてやる」

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