転校初日①
「間もなく、電車が参ります――」
「間に合った……」
一月中旬の今日は、星丘魔法学園の三学期の始まり。そして俺の初登校。
通知がアレから来たんだが、俺はどうやらEクラスらしい。
星丘はAからGクラスまであって、Aから順番に成績上位者が座っていくとのこと。
魔法使ってないし、絶対Gだと思ったんだが。
そして当日まで制服の着方を練習してこなかった俺は地獄を見た。
ネクタイとか普通着けねーって! 何とかなったけど!
ただ──
「──え、あれ星丘の生徒だよね?」
「流石に着崩し過ぎじゃない……?」
「ネクタイとか滅茶苦茶だし……不良かな」
電車の中に入れば、聞こえてくる声。
そう──当たり前だが、猛スピードで走ったせいで服がえらいことになっている。
凄く恥ずかしい。ここで直す訳にも行かないんだけど──ん?
「……」
窓の光景を見ている赤い長髪の女子高生。
よく見なくても分かる──パンフレットで見た星丘の制服。
そしてその制服は俺と同等レベルに着崩されている。
人を寄り付かせないその雰囲気は……。
もしかして、意外と星丘ってヤンキーとかいるのか?
☆
「……おはようございます」
時間ギリギリのせいか、あまり生徒が居ない校門前。
そしてそこには松下先生が居た。
とりあえず挨拶。
「おはよう。初日から随分遅いな。迷ったのか?」
「あー、ああ。そんな所ですよ」
とぼける。制服着るのに手間取ったとか恥ずかしくて言えない。
「コレは私の連絡先だ。この前に渡すのを忘れていた」
「えっ」
「……困った時は連絡しろと言っただろ」
「ど、どうも」
「まあ良い。早速だがこれから君のクラスの担任教師にあってもらう。ついて来い」
担任でもない先生の連絡先って普通貰うっけ? いやもう考えるのは後だ。
渡された電話番号の紙はポケットにしまっておいて。
俺のクラスの担任か。
☆
「──君が碧優生君だね。『
職員室っぽい所に連れられ、待つ事少し。
俺より一回り小さい背丈に、ほわほわとした雰囲気と軽い口調。
出てきたのは──松上先生とは正反対と言っていいタイプの人だった。
「よろしくお願いします」
「ちょっと梅野先生……もう少しちゃんとして下さい」
「相変わらずかたいですね~松下先生は。良いんですよ、生徒にはこれぐらいで」
「いや、でも度が過ぎれば──」
……置いてけぼりなんだけど、俺。
「あはは、ごめんね~碧君。それじゃ、教室行こうか~」
「……全く」
納得の行っていなさそうな松上先生を置いて、梅下先生は俺に言う。
……いよいよ、クラスメイトに初対面か。
「あ」
ふと気付く。
自己紹介、全く考えて無かった。
☆
「えーっと、こちらが碧優生君になります~!」
1-E。
その教室に入った瞬間分かった、クラスメイトの自分への好感度が。
先生の目玉商品っぽい紹介とは天と地ほどの差があるね。
「……」
「ほんとに苗字が碧だ……」
「……アイツが」
「よろしくお願いします。趣味、特技は特にありません」
アタフタする先生の肩を叩き、さっさとこの壇上から抜け出させようとした。
いやこんな場所居たくねえし。視線が痛い。
誰が俺の自己紹介なんて聞くかって顔してる。
ある意味考えてこなくて正解だったな。
つーか、逆にお前らから聞きたい。
『どうして俺の事そんな目で見るの?』って。
「……え、えー? あ、あの一番後ろの席、空いてるからそこで良い?」
「はーい」
軽く返事して席まで歩く。
はは、一番後ろでしかも窓際かよ。特等席だな。
まさかこの待遇はこれのせいだったりして。そんなわけないか。
「よろしく」
「……」
とりあえず、隣席に挨拶する。俺は窓側だから一人だけ。
居たのは黒髪のショートの女の子。そして後髪とは対称的な、目を隠す長い前髪。
至って普通の女子に見えるが──その耳には、あるモノが着けられていた。
……『ヘッドホン』だ。
耳を完全に覆った、オーバーヘッドタイプのヘッドホン。
普通の女子では無くなった瞬間だった。
「何でもありかよ、ここは」
そう呟く。
校則を疑うね……
「それじゃ朝のホームルームを始めます!」
大丈夫かな、俺の学校生活。
☆
追伸。
大丈夫じゃなかったです。
『キーンコーン……』
や、やっと終わったよ。
俺は椅子の背もたれに体を預ける。
初めての授業。感想は『ワケ分からん』……これに尽きた。
何これ? 俺の前の学校と授業スピードが違い過ぎるよ?
幸い俺の筆記具捌きでノート取りは完璧なものの内容に頭が追い付いていない。
田舎と都会は違い過ぎるよ色々と。
前の学校で普通程度に過ごしていたが、これは覚悟を決めないといけないな。
「よぉ転校生?」
一時限目がやっと終わったと思えば、肩を強く叩かれる。
今度は何だよ!
「何か用か?」
「……あ? お前、よくそんな堂々としてられんな」
肩を叩いてきたのは、金髪をオールバックに纏めた強面君だ。
ここは髪色髪型自由な学校って一発で分かるな、コイツを見れば。
歩く学校規則見本である。
「てめえ、何ニヤついてやがんだ!」
声を荒げる金髪オールバック。
どうやら、顔に出ていたらしい。
「ごめん。俺は親から貰った髪は大事にしたい派なんだ」
「は? ふざけてんのか!」
「ふざけてないぞ。んで結局何の用なの。こっちは復習したいんだけど……」
「ッ! てめえ――!」
貴重な十分休憩だぞ!
だが教科書を開けば、タダでさえ強面の顔が更に歪む。
「『裏口入学』の『コネ野郎』が――!」
……は?
俺そんな人物になってんの?
いや一応試験受けたんですけど!
「は?」
「あ?」
ヤバいな、このままでは殴られそう。
入学早々暴力沙汰とか――
『キーンコーンカーン……』
あ、チャイムだ。助かった。
「チッ……後で覚えてろよ」
チャイムが鳴るや否や、席に戻る金髪。
次の休憩時間はダッシュでトイレにでも行くか。
肩身狭すぎ!
☆
……チャイムが鳴って、数分か。
先生が来ない。
付近の生徒達も、何やらざわついてきた。
「鳴ったよな?」
「……そういえば、まだ始まる時間じゃないよね」
「何なに? 幻聴?」
二限目に入るまでには、あと一分程ある。
時計を見ればそれは明らかだ。
さっきのチャイム音は――
『キーンコーン……』
あ、鳴った。これは本物かな。
「……」
全く動じていない隣席、ヘッドホンの彼女。
……まさか。
「ありがとな」
誰に向けて言うわけでもなく呟く。
――入学早々、色々起こり過ぎ!
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