転校初日①


「間もなく、電車が参ります――」

「間に合った……」



一月中旬の今日は、星丘魔法学園の三学期の始まり。そして俺の初登校。

通知がアレから来たんだが、俺はどうやらEクラスらしい。


星丘はAからGクラスまであって、Aから順番に成績上位者が座っていくとのこと。

魔法使ってないし、絶対Gだと思ったんだが。


そして当日まで制服の着方を練習してこなかった俺は地獄を見た。

ネクタイとか普通着けねーって! 何とかなったけど!

ただ──



「──え、あれ星丘の生徒だよね?」

「流石に着崩し過ぎじゃない……?」

「ネクタイとか滅茶苦茶だし……不良かな」



電車の中に入れば、聞こえてくる声。

そう──当たり前だが、猛スピードで走ったせいで服がえらいことになっている。

凄く恥ずかしい。ここで直す訳にも行かないんだけど──ん?


「……」


窓の光景を見ている赤い長髪の女子高生。

よく見なくても分かる──パンフレットで見た星丘の制服。

そしてその制服は俺と同等レベルに着崩されている。

人を寄り付かせないその雰囲気は……。


もしかして、意外と星丘ってヤンキーとかいるのか?




「……おはようございます」


時間ギリギリのせいか、あまり生徒が居ない校門前。

そしてそこには松下先生が居た。

とりあえず挨拶。


「おはよう。初日から随分遅いな。迷ったのか?」

「あー、ああ。そんな所ですよ」


とぼける。制服着るのに手間取ったとか恥ずかしくて言えない。


「コレは私の連絡先だ。この前に渡すのを忘れていた」

「えっ」

「……困った時は連絡しろと言っただろ」

「ど、どうも」

「まあ良い。早速だがこれから君のクラスの担任教師にあってもらう。ついて来い」


担任でもない先生の連絡先って普通貰うっけ? いやもう考えるのは後だ。

渡された電話番号の紙はポケットにしまっておいて。

俺のクラスの担任か。



「──君が碧優生君だね。『梅野千春うめのちはる』っていいます! よろしく~」


職員室っぽい所に連れられ、待つ事少し。

俺より一回り小さい背丈に、ほわほわとした雰囲気と軽い口調。

出てきたのは──松上先生とは正反対と言っていいタイプの人だった。


「よろしくお願いします」

「ちょっと梅野先生……もう少しちゃんとして下さい」


「相変わらずかたいですね~松下先生は。良いんですよ、生徒にはこれぐらいで」

「いや、でも度が過ぎれば──」



……置いてけぼりなんだけど、俺。


「あはは、ごめんね~碧君。それじゃ、教室行こうか~」

「……全く」


納得の行っていなさそうな松上先生を置いて、梅下先生は俺に言う。

……いよいよ、クラスメイトに初対面か。


「あ」


ふと気付く。

自己紹介、全く考えて無かった。



「えーっと、こちらが碧優生君になります~!」


1-E。

その教室に入った瞬間分かった、クラスメイトの自分への好感度が。

先生の目玉商品っぽい紹介とは天と地ほどの差があるね。


「……」

「ほんとに苗字が碧だ……」

「……アイツが」


「よろしくお願いします。趣味、特技は特にありません」


アタフタする先生の肩を叩き、さっさとこの壇上から抜け出させようとした。

いやこんな場所居たくねえし。視線が痛い。

誰が俺の自己紹介なんて聞くかって顔してる。

ある意味考えてこなくて正解だったな。


つーか、逆にお前らから聞きたい。

『どうして俺の事そんな目で見るの?』って。


「……え、えー? あ、あの一番後ろの席、空いてるからそこで良い?」

「はーい」


軽く返事して席まで歩く。

はは、一番後ろでしかも窓際かよ。特等席だな。

まさかこの待遇はこれのせいだったりして。そんなわけないか。


「よろしく」

「……」


とりあえず、隣席に挨拶する。俺は窓側だから一人だけ。

居たのは黒髪のショートの女の子。そして後髪とは対称的な、目を隠す長い前髪。

至って普通の女子に見えるが──その耳には、あるモノが着けられていた。


……『ヘッドホン』だ。


耳を完全に覆った、オーバーヘッドタイプのヘッドホン。

普通の女子では無くなった瞬間だった。



「何でもありかよ、ここは」



そう呟く。

校則を疑うね……



「それじゃ朝のホームルームを始めます!」



大丈夫かな、俺の学校生活。





追伸。

大丈夫じゃなかったです。


『キーンコーン……』


や、やっと終わったよ。

俺は椅子の背もたれに体を預ける。

初めての授業。感想は『ワケ分からん』……これに尽きた。


何これ? 俺の前の学校と授業スピードが違い過ぎるよ?

幸い俺の筆記具捌きでノート取りは完璧なものの内容に頭が追い付いていない。

田舎と都会は違い過ぎるよ色々と。

前の学校で普通程度に過ごしていたが、これは覚悟を決めないといけないな。



「よぉ転校生?」



一時限目がやっと終わったと思えば、肩を強く叩かれる。

今度は何だよ!


「何か用か?」

「……あ? お前、よくそんな堂々としてられんな」


肩を叩いてきたのは、金髪をオールバックに纏めた強面君だ。

ここは髪色髪型自由な学校って一発で分かるな、コイツを見れば。

歩く学校規則見本である。



「てめえ、何ニヤついてやがんだ!」



声を荒げる金髪オールバック。

どうやら、顔に出ていたらしい。


「ごめん。俺は親から貰った髪は大事にしたい派なんだ」

「は? ふざけてんのか!」

「ふざけてないぞ。んで結局何の用なの。こっちは復習したいんだけど……」


「ッ! てめえ――!」


貴重な十分休憩だぞ!

だが教科書を開けば、タダでさえ強面の顔が更に歪む。


「『裏口入学』の『コネ野郎』が――!」


……は?

俺そんな人物になってんの? 


いや一応試験受けたんですけど!


「は?」

「あ?」


ヤバいな、このままでは殴られそう。

入学早々暴力沙汰とか――



『キーンコーンカーン……』


あ、チャイムだ。助かった。


「チッ……後で覚えてろよ」


チャイムが鳴るや否や、席に戻る金髪。

次の休憩時間はダッシュでトイレにでも行くか。

肩身狭すぎ!



……チャイムが鳴って、数分か。

先生が来ない。

付近の生徒達も、何やらざわついてきた。


「鳴ったよな?」

「……そういえば、まだ始まる時間じゃないよね」

「何なに? 幻聴?」


二限目に入るまでには、あと一分程ある。

時計を見ればそれは明らかだ。

さっきのチャイム音は――


『キーンコーン……』


あ、鳴った。これは本物かな。


「……」


全く動じていない隣席、ヘッドホンの彼女。

……まさか。


「ありがとな」


誰に向けて言うわけでもなく呟く。


――入学早々、色々起こり過ぎ!

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