転入試験①
「松っち、明日転校生が来るから試験担当よろしくぅ~」
「えっ? て、転校生ですか」
「うんうん」
「……承知しました」
冬休み期間中。
星丘魔法学園の教師である私、『
転校生……星丘ではかなりレアだ。
しかもそんな情報、今まで降りてこなかった。
「ちなみに優ちゃんの息子」
「!?」
「ふふ、驚いた?」
校長はそう軽く口にする。
碧優といえば――この日本で五本の指に入る程の魔法使いだ。
肉体強化魔法を限界まで極めた――そんな彼女の事は、この世界で生きる上で知らない者は居ない。
「ちなみに彼、魔法一切使えないけど。異能持ちらしい」
「はい!?」
「優ちゃんの頼みだから仕方ないよね」
「いや裏口入学じゃないですか!」
滅茶苦茶な事ばかり言う校長。
ただでさえ異能持ちを入学させるのに私は反対なのに。
魔法が一切使えないって、ココに居る意味が無いだろう!
「転入試験はするよ。完全な裏口じゃない」
「……」
「つまり、気に入らなかったら蹴って良いよ。って訳で明日はよろしくね」
「……分かりました。本当に良いんですね」
「うんうん。松っちにお任せする~筆記試験も実技試験も好きにしていいよ。優ちゃんもそう言ってたし」
いくらあの碧優の息子だろうが。
異能持ち……それに魔法が使えない?
ふざけるな。この星丘は誰でも受け入れる慈善施設じゃない。
絶対に入学させない――そう決めた。
☆
「……」
試験日当日。
今日は煙草がヤケに欲しくなった。
仕方が無い、誰にせよ入学を蹴るのは心が痛むモノだ。
「あー、どうも」
「――碧優奈の兄、碧優生だな」
現れたのは、中等部で学園トップの碧優奈と……気怠げな男。
本当に兄弟なのか疑わしい。
「そうです」
「試験担当の松下だ。付いてこい、後――碧優奈は来るな」
「えー……分かりました」
「行くぞ」
嫌そうな彼女を無視して、彼と学園の門をくぐり――試験室へ向かう。
「……でけー」
「……」
学園内を見て、惚けた顔の彼と共に。
☆
「――筆記試験終了だ。答案を渡せ」
「どうぞ」
「休憩を十分取り、その後は実技試験に移る――準備しておけ」
「……分かりました」
答案を引ったくる様に受け取り室外に出る。
――この生徒は、星丘を舐めている!
筆記試験でハッキリした。
彼が一体さっきまでどうしていたか?
それはなんと、『鉛筆を転がしていた』のだ!
ふざけているにも程がある。
半分ほど答案を埋めたと思ったら、途端にその鉛筆で遊びだしたのだ。
……私が徹夜で作成した、本来の入学試験よりも、難易度を数段階上げたマークシートテスト。魔法大学入試レベルのそれ。
これをクリア出来るのは相当の頭がいる――
そしてコレをある程度答えられるのなら転入を許しても……そう思っていた。
なのに! なのに!
彼は、私を愚弄するかの如く――
「――え?」
目の錯覚だろうか?
私の目の前の答案は――『一つも間違いが無い』。
「そっ……そんなわけ無い! 私でも苦労した問題なのに――」
慌てて回答を確認する。
駄目だ。
何度見ても――この選択肢は合っている。
「……満点、だと?」
ち――違う。
こんな事、ある訳がない。
カンニング――いや、出来るはずが無い。
この答案は昨日私があらゆる魔法大学の入試問題をミックスさせたモノだ。
「彼は、一体何なんだ……」
小さな部屋に響く私の声。
その呟きには、誰も答えてくれなかった。
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