魔法都市②


「そういえばお兄ちゃんこっち来るの早かったよね、前の学校は?」

「とりあえず手続きだけしてこっち来た」


「え、クラスメイトとかにお別れとかは……」

「しても悲しいだけだし良いよ。ちょっとした休み明けのサプライズだ」


「お兄ちゃんが良いんなら良いんだけど」



人混みを避けながら歩いていく。


小さい子供から大学生まで、とにかく若者が多い。

そういう場所なんだろうが……田舎者には珍しい光景だね。


《――相野市に落とされた隕石は、あろうことか跳ね返るように宇宙へと帰っていき、なんとその跳ね返る瞬間には、地面に人影のような姿が――》


「うわぁ……」


都会あるあるの街中にあるでっかいスクリーンも完備。

チャンネル変えていいかな? 

リモコンどこ?


「ははは、お兄ちゃん目逸らした」

「……」

「ちょっとしたトレンドだよこの映像」

「俺は何も知りません」



アレから歩いて十数分。

辿り着いたは新たな住処。

妹に連れられるままに、厳重なロックを抜け、エレベーターを昇り……。


「はー着いたぁ」

「タワマンじゃねえか!」


純白のソファーにだだっ広いリビング。

家具も完備。

窓からの光景は民を見下す王の如く。


「落ち着かねー!!」

「羨ましいなぁ。私まだ寮なのに……」


「そっちのが俺は良かった」


田舎のボロマンションからコレってどうなの?

待遇の差が凄いんだけど。


「それじゃお話しよっか。お兄ちゃん」

「……はい」

「そんな身構えなくても」


そしてブチ落とされるテンション。

こんな場所に居るのに。

俺の感情、急転直下。


「じゃ、単刀直入にいくよ」

「……」


俺達はソファーに座る。

静かに切り出す優奈。

そして――



「お兄ちゃんには、魔法学園……『星丘魔法学園』に入学してもらうって」


「……は?」



口を閉じるまで十秒程かかった。

思考が追い付かない。魔法系列の高校に入らされるなんて思っていなかった。

魔法都市でも、一応魔法を扱わない所もあると思っていたし。


しかもその高校が――優奈と同じ、『星丘魔法学園』だと?



「魔法が使えない俺がなんでそんな場所に行かなきゃならないんだ? というか普通に無理だろ」



それは魔法の道を進む者にとっては憧れの学び舎だ。

妹は魔法の才能が認められ……見事に星丘魔法学園へ入学を果たした。


そう――『魔法の才能』が無ければ、その門に入る事さえ許されない。

俺にはその才能が全く、欠片も無いのだ。



「……その、異能持ちって世間的に扱いが酷いよね」

「そりゃそうだろ」


「星丘は、近年から異能持ちの人たちを取り入れてるの」

「何で?」

「話すと長くなるから略すけど、最近の魔法界隈は『異能』も魔法として扱う様に……」



つらつらと話す優奈。

……まあ、これに関してはテレビで見た。

『異能持ち』の差別を反対する組織とかが居て、ソイツらは異能を魔法と同列に扱う様世界に訴えかけている。

余計に酷くなるだけだと思うけどね。



「それで平等主義のご時世に配慮したのが、その学校って事か優奈?」

「……ちょっと違うと思うけど。それでいいかな」


「んじゃ、俺がそこに行かなきゃいけない理由は?」

「お兄ちゃんって危なっかしいでしょ。だから私達の手が届く範囲に置いておきたいの」


「そんな危険物みたいに」

「事実だし」

「……」

「納得した?」


……納得しないと言っても駄目だろう。

そんな視線を彼女に送る。


「あと理由はもう一つ」

「?」

「お兄ちゃんには……もう一度だけ、この世界に足を踏み入れてほしいの」


神妙な顔で言う優奈。


「そしたらきっと『何か』が見つかると思う……ってお母さんが」

「何かって何ですか」

「そ、それは」


曖昧な言葉だった。

いたずらに俺は質問をする。


「昔のお兄ちゃんにとっての、『魔法』みたいな」

「……今もだよ」

「!」

「ずっと俺はそれに憧れ続けてる。当たり前だろうが」



母さんは日本で五本の指に入る魔法使い一人。

父さんは魔法を駆使して治安を守る『魔法警察』の幹部。

こんな両親が居て、憧れない方がおかしいってもんだろ。

それに――その魔法という力にも。


物心着いた頃からずっと、俺は両親達の様な魔法を使う事が夢だったんだ。

それは今も変わらない。

ほんの少しでもその力が使えるのなら、こんな『異能』なんてすぐに投げ捨ててる。

捨てられるのなら。

これがいくら便利で強力なモノだったとしても。


「うぅ、ごめんね……」

「っ――」



彼女は悲し気な表情に変わる。

ああクソ。

これじゃまるで、妹に全て持っていかれた哀れな兄みたいになってるだろ。


違うんだよ。

彼女の事は応援してるし、恨みも嫉妬も抱いてない。

自分なんかよりも百倍価値のある人間だと思ってる。


それでも、俺の存在が家族全員を不幸にする。たった一人の出来損ないのせいで。

こんな風に。そして今までもずっと。

やっぱりあの時、隕石にそのまま潰されていたら良かったかもな。



「ごめんなさい、お母さん達にもう一度相談して――!」

「――良いよ。言う通り星丘に入る」


「で、でも」

「家族全員がそれを望んでるんだろ?」

「……うん」

「それなら入る。話はこれで終わりだ」



これ以上、妹の悲しい顔を見たくなかった。

そして――ほんの少しでも、母さんが言う『何か』に期待して。


先行きは見えない。

むしろ不安しかないが、一筋の希望はあるかもしれない。

自分の為にも家族の為にも。

このままじゃ駄目なんてずっと思っていた事だ。



そういう訳で俺は、『星丘魔法学園』に入学を決めたのだった。










「……じゃ! 入学なんだけど、その前に試験があって」


「は?」


「一週間後、筆記と実技試験があるから!」


「……」


「星丘って転入試験初めてらしいけど、多分お兄ちゃんなら大丈夫!」


「何が大丈夫なの……?」



ごめん母さん。

やっぱ俺、入学無理そう。

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