魔法都市①

『魔法使い』。

要人の護衛や、対テロ組織の戦闘員。

また世界に出没する『魔界域ダンジョン』の探索、調査や、各地で暴れる魔力が暴走した生物……魔物の駆除など仕事は様々である。


そして例外なくその者達が扱うのが――


『魔法』。

この世界に存在する力の一つ。

身体に流れる魔力を消費し――自身に適性のある属性、種類の魔法が扱える。これが『魔法適性』ってやつだ。


火、水、風などの基本属性から始まり。

聖属性や時空間属性など――選ばれた血統の者にしか扱えないモノもある。

全人類が魔力を身体に保有するが、実際魔法使いとして生きていけるのはそのごく一部。

魔力量や魔法適性、その他諸々で格差があるから。


だが魔法は、血統どうこうで扱える者が限られるが……この広い世界だ。

同じ魔法適性を持つ者は絶対に一人じゃない。



そしてその対極に位置する力が――『異能』。


ソレを持つ者は極端に少ない。

百人に一人程の超低確率で扱う者が存在する、特殊能力が異能だ。


……聞こえは良い。

だが普通その特殊能力ってのは、手のひらに小さな火を宿したり1gまでの物体を1?浮かせたりと微妙なもの。

魔力は一切使わない代わりに、使用するとかなりの気力・体力を消耗するためろくに使えるものではない。

更に個人個人で能力が違いすぎるため、研究も進まず謎だらけ。


そして異能が、世界で『無用の長物』と言われている理由。

それは――それを持つ者の多くは魔法の才能が『吸われ』、魔力量が極端に少なく魔法適性もゴミ、魔法使いとしてはまず生きていけないと言われているからだ。




「久しぶりだな」


二年程住んだ我が故郷……相野町から電車を走らせ三時間。


辿り着いたのは『魔法都市』。

あらゆる魔法に関するモノが集まる場所。

魔法協会、魔法研究機関、そして優奈の居る魔法学園など――つまり、俺とは無縁の場所だった。


昔は家族と住んでいたんだけど。

色々あって、俺はココから離れた。


「写真撮っとくか!」



ぱしゃり。

遠くに見えるデッカイ門、通称ゲート。

門の中には十の色彩が並び、色によってそれぞれの入場口が分けられている。


綺麗なんだよなこれ。

完全に観光に来た田舎者である。

よし、帰るか! 



「身分証明出来るモノを」

「どうぞ」

「……うん。それでは魔力を登録するから装置に手を」



まあ行くんだけど。

ゲート前。

門番に持ってきた大量の書類を渡すものの――そんな事を言われた。


魔力証。

指紋や顔と一緒で……身体に流れる魔力ってのは、個人個人で違うものらしい。それを利用して認証を行えるのが魔力証である。

魔力も科学と同じで、日々技術が進んでいるんだ。


ビビ―!


「え、エラー?」

「多分それ俺無理ですよ。魔力ゼロなんで」


「は?」

「入って良いですかね」

「ゼロなんてことある訳無い! そもそも魔力が無きゃ立ってることすら――」


……その言葉は聞き飽きた。

そしてそれでも苛つくんだよ。現実を押し付けられてるみたいで。


「書類、ちゃんと見ました?」

「み、見たさ。碧優生、年は十六――」

「――そこじゃなく。『異能有無』の欄と『魔力測定結果記録』のページも」

「……こ、これは……見落としていた、通って良いぞ」


そう言う彼。


――「おい何かあったのか?」「いや、あの子供異能持ちで……」――


――「ははは、可哀そうに」「もっとヤバいのが、魔力ゼ」――



後ろから聞こえてくる声。

それが嫌で耳にイヤホンを差し込む。

こんなんだから、ココに来たくなかったんだ。



――ピコン!


『お兄ちゃん、水色ゲート前で待ってるね!』


鳴る着信、妹からのメッセージ。

ああクソ駄目だな、久しぶりに会う優奈にこんな顔を見せたら。


テンション上げていこう!




水色の門を潜る。

それは一瞬。だが、長い距離を移動したのは分かる。

まるでエレベーターの様に、違う階層に移動した様な感覚だ。


目の前には、全く異なる光景。

魔法の最先端といえど――目に映る光景は現代のソレとほぼ同じ。

電車もビルもショッピングモールもある。そして今立ち寄ろうとしているコンビニとかね。


トンガリ帽子と箒は昔の話、現代文明万歳ですよ。

魔法の才に恵まれず、科学の道を切り開いた方々に俺は生かされている。


『着いた』


メッセージを送る。

ちなみにコレ、5回目ぐらい。

ずっと返信が来ない。トイレかな?


ジュースでも買って待っとくか――



「その、やめてください……」


「いいじゃんいいじゃん、可愛いなー、ちょっとだけ付き合ってくれたら良いんだって!」


「はは、照れてるの? いいからいいから」



コンビニの影で、女の子が一回り大きなグラサン男二人組に絡まれている。


女の子は黒い髪を肩の下まで伸ばし、幼いながらも凛とした顔付き。

何より特徴的なのは、冬の空を閉じ込めたような綺麗な淡い水色の目。


「……優奈じゃん」


魔法都市はその性質上治安が悪いと聞く。

でもまさか妹がナンパされている状況に遭遇するとは聞いてない。



「本当に、今待ってる人が居るんです」


「……ん? 彼氏か? ほっとけって」

「びびって出てこねえんじゃないの?そんなチキン野郎ほっといてさ」


「……せっかく一年振りに『お兄ちゃん』に会えるのに、それを、貴方達は……」


「あ?」

「良い加減観念して――」



喋る妹の口調が変化していく。やばいやばい、助けに行かなければ。男達の方を。



「――知ってる? サングラスってさ、日光から目を守る為にするもんなんだよね」


「!?」

「なんだテメ――」



男二人は、サングラスを目じゃなく頭の上に掛けていた。

もしかしたら宇宙人の可能性もあるが。


せっかくの遮光機能なんだ、活用しないと。



「『断光ブラックアウト』」


「「……へ?」」



二人の目元、本来あるべき場所に優しく掛けてあげて。

俺は――その機能をより引き出した。


今彼らの視界は、暗闇へと堕ちたはずだ。



「目、目が――うっ!!」

「何も見えな――ぐあ!?」



そして順番に男の弱点へ蹴りを入れる。


大丈夫、手を離した時点で視界は復活してるから。

さあ後は逃げるだけ!


「……」


振り返れば、地面で悶絶する二人を軽蔑の目で見ている妹。

怖い怖い。俺なら絶対こんな目で見られたくないな。

あれ、なんでその目がそのままこっちに向くんですか?



「もうちょっとかっこいい助け方しても良いんじゃない?お兄ちゃん」



そう、こちらをジト目で見ながら言う優奈。

確かに女性が見ている前でアレは無いかも。



「すいませんでした……」

「そんな本気で謝らないでよ!」



一年ぶりに妹もからかった事だし。

『大事なお話』とやらを聞くとしようか。

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