第2話 学校不協和音
「今日の数学はここまで」
私は予鈴がなると同時に、手にしていたチョークを黒板に戻した。
すぐさま日直に終わりの号令をかけさせる。教室に開放感が広がっていった。三々五々。生徒らは仲間グループを作って、わずかな休憩時間を
――いつまで続くのか……。
今日の授業も、まるで作業のようだった。
教科書に沿って、学習内容を提示して、公式や解法を覚えさせて、その理由や来歴を分かりやすく解説して、まとめて終わり。
私の授業を面白いと言ってくれる生徒は多いし、真面目に聞いてもくれる。日夜、苦労したことが結果につながって嬉しいのもたしかだ。だが、その苦労の結果は何なのだろうか。大学進学の役には立つかもしれない。けれどそれだけではないか。だとしたら、この工場労働のような授業をするために、私は教師になったのか。授業が上手になればなるほど疑問が膨らんでいた。
「せんせー」
考えごとをしていると、門田の間抜けな声が近づいてきた。
「なんだー」
黒板消しを左右に動かしながら、その口調を真似して返す。「月ちゃん、真似されちゃった」とリアクションがこぼれる。どうやら月島も一緒らしい。
「今日の放課後はお話してくれる?」
「すまない、中間試験の問題作成が終わってないんだ」
「なら、国立せんせのお家まで遊びにいってもいい?」「……いいですか?」
黒板の掃除を終えて身体の向きを変えると、4つの輝く瞳が、私を見つめていた。
門田のおちゃらけはいつものことだが、それに月島が付き合うのは珍しい。
「どうして自宅に帰ってまで、お前の相手をしなければならん」
「いやだって、せんせも男の子でしょ? だったら女の子が必要なときがあ――」
「女の子はそんなことを口にしない」
こつん、と出席簿で門田の頭を叩いた。「痛い!」と痛くもないのに頭をなでて、痛そうに痛がる。その様子を無表情のまま眺める月島。
「私、せんせを襲ったりしないよ? ちゃんと合意の上で――」
こつん。私はもう一度、
「そんなことしないって約束するから。だからお願い、ね?」
「駄目なものは駄目だ。月島ならともかくお前は油断ならない」
「ふ、ふーん……」
すると門田は、はしゃぐのを止める。そして「月ちゃん、行こ」と彼女の手を引っぱって教室を出ていった。
「何だったんだ、今のは」
門田が矛を引いたことへの違和感が湧きあがる。あんなにしつこかったのに。
――まあ気が変わったんだろう。
理由にならない理由で違和感をはぐらかすと、私も教室をあとにした。
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