第10話ひと箱まるごと。

 俺は今日二度目の叫びを上げた。


 一度目を擦り、もう一度現場を見るが、現実は非情で残酷で、変わることはない。


 そのまま俺は、テーブルの方へ一歩一歩進んでいく。――ゆっくり、ゆっくりと。


 華凛の真横まで進み、そこで立ち止まる。


 うそ……だろ……


 華凛はその腹部も、そして口端からも腹部同様、紅く染めている。


 また……またなのか!?


 またあの地獄の一ヶ月を始めようというのか。


「おい……答えろよ……華凛……答えてくれよ」


 俺は自分の瞳が潤んでいくのを実感した。


「お……お兄……ちゃん……?」


 そのとき、華凛が弱々しい瞳でこちらを見据える。


「ごめん……ね……」


 ホント……何回目だよ…


「もうやめろって……あれほど……」


 言ったのに。 そう言おうとすると、華凛が不意にバッと俺の方を向き、立ち上がる。


「だって〜〜〜、安かったんだもん〜〜〜!!」


 華凛が全力で言い訳してくる。 いや、その言い訳何回目ですか!?


「お前なぁ……」と俺がため息を一つつく。


 そう、またやってしまったのだ。この愚妹は。――家は両親が基本いないので、毎月の仕送りで生活をしている。これがまた絶妙な金額なので、食費以外に使ってしまうと、スグにお金は、なくなってしまう。


 が、絶妙な金額と言っても、やはり少し余ってしまう。――イレギュラーが起きた時のためだろう――そのお金は時にはケーキに、時にはお肉に、時には外食代に……


 だが今月のは、月の初めに缶のリンゴジュースを箱買いしている。――と思っていた。――理由はどちらとも、好きなのと、なかなか汎用性が高いからだ。


 物欲もあまりないしな……


 てなわけで、華凛はりんごジュースを発注したつもりだったらしい。


 が、届いたのはなんと……トトトトトトトトトマトソースだった。――しかも箱。


 それを知らずに飲んでしまった華凛はそれを吹き出した。ということだった。


「っこれどうすんだよ……」


 俺は首を落としながら言った。


 俺がため息混じりに言うと「ごめんよぉぉ……」と華凛が涙目で返してくる。


 それにしても…………まじか。…………まじか。…………マジですか。


 これしか思えなかった。


 実を言うと、華凛がこのようなミスをするのはこれで三度目だ。


 完全に後付け設定のようで申し訳ないが、華凛はぶっちゃけ機械音痴だ。


 いや通販に音痴もクソもなくね? って思う? そんなことねえぞ?


 まあ、なにはともあれ、槍の少女の件が絡んでなくてちょっとホッとした。正直。


 その後、俺たちは汚くなってしまったリビングを済ませた。


 結構大変だった。


 片付けが終わった頃にはもうすっかり夜が訪れていた。


 ……その日の夜ご飯はトマトソースをふんだんに使ったスパゲティを振舞った。――華凛は少し複雑そうな表情で食べていた。


 ちなみにトマトソースがなくなるまでは、二日に一回くらいはトマトソースが使われていた。


 最初はまだ食べられるが、後半になってくると地獄だよ。地獄。


 一ヶ月後……生きているだろうか……?

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